コロナ3年目の今、行動制限が解除され人流が戻り始めていますが、夏休みを前に今後の感染状況が気になるところ。さまざまな情報が溢れる中、基本的な情報、正しい知識を医学部で感染症学の研究をしていた歯科医師の視点からお伝えします。
制限のないGW終了 - 今後の感染者数はどうなる?
2019年12月に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が発生して以来、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界的(パンデミック)流行となっています。日本では2020年1月6日に初の感染者が出て、その後、8月上旬、2021年1月上旬、5月上旬(アルファ株)、8月下旬(デルタ株)、2022年2月(オミクロン株)をピークとする流行がありました。
経緯からみると、行動制限で感染者は減り、変異株で感染者数は増えています。行動制限のない現在(5月12日時点)では、ある程度の感染者数の増加は予測でき、内閣官房「AIシミュレーションPJ」は東京都内の1日の感染者数が最大1万3,000人になると予測。仮に人流を抑えても6月末までは横ばいか、あるいは緩やかに上昇し、感染者数は1日あたり約7,000人で推移するともいわれています。
コロナ3年目の夏休みを前に改めて知っておくべきコロナの知識
コロナは株の変異により感染力は増し毒性は弱くなり、ワクチンや治療薬の開発もあり、重症化率・死亡率は減少しています。予測でも今後は死者や重症者は増加しないと考えられています。
そもそもウイルスとは、生物に寄生しないと生き続けられない特徴があり、コロナは人間がいないと存続できません。ですから感染した人間が死亡すると、コロナもまた死滅するのです。
コロナにすれば『with人間』が適切環境と言えるため、毒性が減弱したからといっても感染対策は必須です。コロナの感染経路は、感染者の口から出すウイルスがメインで、咳、くしゃみ、会話の時にウイルスを含んだ唾液(飛沫)や唾液より小さい粒子(エアロゾル)で感染します。そしてコロナは口や鼻から体内に侵入し、喉から肺へと感染を広げます。ですので「感染しない」「感染させない」ためには、相手と1m以上の間隔を広げることと、マスクが重要です。
夏に向かい熱中症にも気をつけたいところですが、マスクは熱中症リスクをあげるので、屋外で周囲(1m)に人がいない場合は外す選択もありでしょう。但し、人は1時間に顔を約23回も触り、マスクを外すと手指についたコロナが口や鼻から入り込む可能性が増えるので、いつも以上に手洗いをしましょう。流水15秒でウイルスは100分の1に、ハンドソープで10秒のもみ洗いを併用すると1万分の1に減少します。手洗いのマストのタイミングは「帰宅時」「咳・くしゃみ・鼻をかんだ時」「食事の前後」「外で物を触った時」です。
ワクチン3回目接種や副反応について正しい知識を持とう
ワクチンの目的は「自分を守る」ことと「社会を守る」ことです。コロナが発症するのを予防し、仮に発症しても重症化になりにくく、死亡者をなるべく減らし、結果としてコロナのまん延防止につながります。
日本で使用頻度の高いファイザー社製とモデルナ社製のワクチンはm-RNAワクチンと言い、ウイルスを体内に入れるのではく、ウイルスのダミーを入れて体にコロナを覚えさせて抵抗力(抗体力)を高める安全な方法です。概ね8割以上の人が2回目のワクチンを受けています。
3回目の接種を受けると2回目より、コロナに対する抵抗力が上がります。3回目の接種で入院予防効果は93%、重症予防効果は92%、死亡に対する予防効果は81%と高いことが分かっています。このデータから3回目の接種を受けた方がコロナ対策は万全ですが、一方で気になるのが副反応でしょう。
意外と副反応について正確に知らない人は多いのですが、実は英語では副反応も副作用も同じ用語(side effect)です。日本では使い分けているだけで、副反応とはワクチンを打った後に現れる嫌な反応のことと考えてください。個人差はありますが、2回目と比べ3回目も概ね同様の副反応があります。ワクチン接種したところの反応が最も多く、6割程度の人が「痛み」「赤み」「腫れ」を感じています。次いで多いのが身体全体の反応で、「疲労」「頭痛」「筋肉痛」「発熱」など約5割の人に生じます。しかしこれらは3日以内に消失する一時的な反応にすぎません。
一方、コロナで重症化あるいは死亡する人は、圧倒的に80歳以上の高齢者が多く、年齢が低くなれば顕著に少なくなります。但し、若い人は感染してもリスクが低い訳ではなく、実は後遺症に悩まされるケースが意外に多いのです。20~30代の75~83%に後遺症が見られ、海外の調査では発症後、半年経っても76%の人が後遺症に悩まされています。特に「だるい」「疲れた」などの強い倦怠感や、思考・集中力の低下など相手に判別できない後遺症があると、仕事をしていても効率が上がらず、周りからは「仕事に手を抜いている」と誤解される可能性もあります。
多くの医師が3回目のワクチンを勧めるのは、「後遺症に悩まされない」「高齢者に移さない」ためでもあるのです。
マスク、手洗い、予防接種以外でできる「口からの感染対策」
感染対策の基本は、病原菌の数を減らすことと、体の抵抗力を上げること。そこで「口からの感染対策」として知ってもらいたいのが「うがい」と「唾液腺マッサージ」です。
コロナは唾液腺の中に侵入して増殖するので、口の中に入ったコロナを追い出すために、こまめにうがいをしましょう。簡単なうがいでは口の中の細菌は63%減らせることができますが、あるうがいをすると97%も減少させることができます。
それがNHK【あさイチ】でも取り上げられた『全力5秒うがい』。少量の水(約30ml=大さじ2杯)を口に含み、唇をシッカリと閉じて、口の中で舌を前後に動かしながら、全力でブクブクうがいを5秒間します。その後、上を向いてガラガラうがいを5秒間。これを3回繰り返すだけです。
ペットボトルに水を満タンにしてボトルを振っても水流ができないのと同じように、口の中にもたくさんの水を含まないのがうがい効果を高めるポイント。コロナを無毒化したい場合は、塩化セチルピリジウム(CPC)の配合された市販のうがい薬を使用すると良いでしょう。
唾液には感染の砦となる免疫グロブリンが含まれていますが、マスクや感染に対する緊張で唾液量が減り口の中が乾くと、抵抗力が低くなりコロナに感染しやすい状態に。唾液の出を促したいなら「唾液腺マッサージ」が効果的です。
マッサージする唾液腺は2カ所で、耳タブの前にある「耳下腺」と顎の内側にある「唾液腺」。耳下腺マッサージは、人差し指と中指の2本を使って耳タブの前を2cmほどの円を描くように押します。適切にマッサージできていると「ジュワッ」とした音が耳に聞こえ、舌の上に唾液が貯まるのが実感できます。
顎下腺は耳タブとアゴの先端を結んだ中間の下顎の骨の内側にあるので、親指で内側から外側に押し出すようにもみます。口の中で舌が上がるのがわかると思いますが、唾液は舌の下から出るので、耳下腺より実感は少ないです。このマッサージを1日3~5回程度行うと、唾液腺の活動が活発になり、唾液は出やすくなります。特にお風呂に入ってリラックスしている時に効果的です。
コロナに罹患した時やコロナかな?と思った時に取るべき行動
オミクロン株の感染者の特徴は「頭痛(56%)」「喉の痛み(53%)」「鼻水(51%)」が多く、「味覚・嗅覚障害(13%)」が少ないことです。もしこのような症状が出たら、直接、医療機関に行くのではなく、事前に電話で指示を仰ぐと良いでしょう。潜伏期間も従来のコロナでは5日間だったのが3日間と短くなっているため、受診する際は2日前から濃厚接触者の可能性のある人のリストを作成しておくと、円滑に診療は進みます。当然、診断を受けるまでシッカリと感染対策を行ってください。
ビジネスパーソンであれば、少なくとも約1週間の出勤停止になりますか、日頃から自分がいなくても仕事がスムーズに引き継がれるように、シミュレーションしておくと安心です。 永遠に続かないものは必ず終わりがきますから、いつかはコロナも過去のものになります。コロナ禍3年目になりましたが、未来は過去よりずっと長いので、コロナ対策をシッカリとして、明るい未来を目指して乗り越えて行きましょう。
<参考資料>
●厚生労働省:新型コロナウイルス感染症診療の手引き
●Kwok, Yen Lee Angela, Jan Gralton, and Mary-Louise McLaws. “Face touching: A frequent habit that has implications for hand hygiene.“ American journal of infection control 43.2 (2015): 112-114.
●厚生労働省:新型コロナワクチンQ&A
●NHK【あさイチ】特集『コロナ禍のオーラルケア』(2021年11月16日(火)放送)
●厚生労働省:新型コロナ最前線