加藤一二三九段vs藤井聡太四段、時空を超えた勝負が実現

藤井聡太竜王という大スターが現れた将棋界。これまでは将棋ファンは将棋を指せる人に限られていましたが、「観る将」(=将棋を指さない将棋ファン)という新たなファン層も生まれ、ますます活気づいています。

高橋茂雄(サバンナ)さんも藤井聡太ブームで将棋に興味を持った一人。そこから一気にのめり込み、現在は観る将のトップランナーとしてYouTubeなどで将棋の情報を発信しています。将棋イベントに出演する機会も増えました。ここでは、3月23日に発売された彼の著書『すごすぎる将棋の世界』より、歴代の戦いについて語った部分を抜粋、編集して、お送りします。

■加藤vs藤井 時空を超えて

超絶モンスターの系譜、中学生でデビューしたプロ棋士は5人いますが、ここではそのうちのお二人、「神武以来の天才」加藤一二三九段と「令和のヒーロー」藤井聡太竜王のお話しをしましょう。

加藤先生が四段に上がってプロになったのが1954年、昭和29年。最初の『ゴジラ』が公開された年でした。この時の年齢が14歳と7カ月。これが最年少プロの記録として、長~く長~く破られていませんでした。それをついに更新したのが、藤井先生。14歳と2カ月。2016年のことですから、なんと62年ぶりの新記録です。この年はなんと『シン・ゴジラ』公開の年でした。いやはや、すごい。

藤井先生はプロデビュー戦で、加藤先生と対戦します。

■神様なんて言わないで

まずは、加藤先生のことをお話しさせてください。1940年、昭和15年に福岡県で生まれました。誕生日が、1月1日、元旦です。もうこれだけで、ただ者じゃない感ありますよね。

加藤先生はクセのかたまり! おもろいエピソードだけで、本が1冊できます。食事の話だと、対局のときの出前は、昼も夜もうなぎしか食べません。理由には諸説あって、つどつど考えるのがめんどいからとか、スタミナ付けたかったとか。対局中のおやつは、チョコレート。脳を使うと糖分がほしくなるんで、チョコは分かるんですけど、加藤先生は板チョコを何枚もバリバリ食べられます。指すときのフォームもすごいです。駒をつかむと、腰を浮かせて全体重を乗せ、盤も割れよとばかりにバシィッ! 相手の駒が数メートルすっ飛んだこともあるんですって。

■君が来るのを待っていた!

そんな加藤先生が、最年少プロの記録を破られた藤井新四段と対局することになりました。藤井聡太14歳の公式戦初対局。時空を超えて対戦する中学生棋士。加藤先生の引退がこの半年後やったから、まるで「藤井聡太よ、君が来るまで待っていた」みたいな、ギリギリの神がかり的タイミングで実現した対戦です。2016年12月24日。竜王戦のランキング戦6組1回戦。振り駒で加藤先生の先手になり、午前10時に対局が始まりました。

それにしても、76歳と14歳。62歳差の真剣勝負なんて、将棋でしか見られません。

■期待に応えて、やってくれます

この日も、とんでもない加藤ワールドが炸裂しました。将棋って、昼や夜の食事休憩中に指したらダメなんですけど、あろうことか加藤先生、休憩中に指してしまいました。先生、気合入りすぎたんでしょうか……。藤井先生も、まさか休憩中に指されるとは思ってないから、めちゃめちゃ驚いたそうです。デビュー戦でこんな体験をしたら、もうたいていのことには動揺しなくなるでしょう。加藤先生の教えは「不動心」だったのかもしれません。

■ドリームマッチをありがとう

さて、かんじんな将棋です。素人目には互角にも見えましたけど、どうやら藤井先生が優勢になっていたようです。最後はそれこそアッという間に、加藤先生の王様を詰ましてしまいました。午後8時43分、加藤先生投了。こんなドリームマッチが実現したのは、神武以来の天才が62年も現役を続けたこと、最年少記録を更新するような大天才が現れたこと、二つの奇跡が重なったからです。藤井先生は、ここから半年勝ち続けます。2017年の6月26日、29連勝で歴代連勝記録を更新しました。加藤先生は、その6日前の6月20日、現役最後の対局を終えて引退されました。生涯成績が1324勝1180敗。藤井先生が大天才でもこの数字に届くには何十年という時間がかかるでしょう。

島田修二(将棋情報局)

藤井四段のデビュー戦で、世紀の対決が実現した(写真は第30期竜王戦ランキング戦6組のもの 提供:日本将棋連盟)
藤井四段のデビュー戦で、世紀の対決が実現した(写真は第30期竜王戦ランキング戦6組のもの 提供:日本将棋連盟)