日本各地で国産農薬散布ドローン「AC101」のデモフライトを実施しているNTT東日本とNTT e-Drone Technology。スマート農業を推し進める理由には、日本の農家が抱える課題があるという。千葉県香取市で行われたデモフライトを見学しつつ、その背景を伺ってみたい。
国産ドローンを開発するNTT e-Drone Technology
NTT e-Drone Technologyは、NTT東日本、オプティム、WorldLink&Companyの3社によって2021年2月に設立された会社だ。同社は安心・手軽・安価、そして他分野・多目的に利用できる国産ドローンを全国(一部諸島を除く)に派遣するサービス「おまかせeドローン」を提供している。
同社の現在の主力製品は、国産農薬散布ドローン「AC101」。定期的にデモフライトを行っており、閑散期には週2~3回、全国のどこかでイベントを開催しているという。千葉県香取市で行われたデモフライトにも、多くの農家のみなさんが見学に訪れていた。
NTT東日本がドローンの開発に乗り出した理由は、第一に農家の負担軽減があるという。農業従事者の多くは広大な農地を歩きながら自ら農薬を散布しており、小規模農家が多い日本では一大作業といえる。こういった地域の農業従事者の声を受け、NTT東日本は農業IoTの一環としてドローンの活用を進めている。
とはいえ、農業用の無人ヘリコプターを用いた農薬散布はこれまでも行われている。こういったラジコンヘリと比較して、ドローンにはどのようなメリットがあるのだろうか。NTT東日本 千葉支店でマーケティングを担当しつつ、農事組合法人 水神ライスセンターの理事も務めている髙橋透氏は次のように説明した。
「ラジコンヘリはサイズが大きく、約1,000万円ほどと非常に高価なため、専門業者でなくてはなかなか保有できません。しかし『AC101』であれば約250万円で、サイズも比較的小型です。我々のような農事組合法人が保有したり、個人で保有したりすることも現実的な価格であり、新しい農業の形を目指せるのではないかと思います」(髙橋氏)。
さらにNTT e-Drone Technologyの藤倉俊也氏は、「AC101」が備える特長と実用面でのメリットについて解説する。
「ラジコンヘリによる農薬散布は、農協や民間企業が毎年時期を決め、地域一帯に対して実施されます。そのため、個々の農家さんの意思や事情は考慮されません。また、非常に騒音が大きく、周辺への配慮が必要な点もデメリットです。これに対してドローンは、個人や少人数でも運用しやすく、騒音も小さいことが特長です。農家さん一人ひとりが、周囲のことを気にせずに自分たちのタイミングで散布できるため、自由な農業が行えるでしょう」(藤倉氏)。
「軽い」「安い」「静か」なドローンが農業を変える
国産農薬散布ドローン「AC101」の特長は、「軽い」「安い」「静か」なことだ。重量は約7.3kg、大容量インテリジェントバッテリが約4.6kg。1バッテリで最大2.5ヘクタールまでの農地に対応する。各種自動航行にも対応しており、離着陸アシストや散布アシストなどの機能を備えているため、手間も軽減できるだろう。
折りたたみ式のプロペラと4本のアームを折り重ねて収納できる構造を採用しており、ハンドグリップも装備。アーム展開時のサイズは全幅935mm×全長935mm×全高676mmだが、折りたたみ時には全幅611mm×全長560mm×全高676mmまで小型化できる。可搬性が非常に高く、軽トラックはもちろん、ライトバンなどでも輸送が可能だ。
ラジコンヘリに比べ操縦が簡単で、免許も比較的容易に取得できることもメリットのひとつといえるだろう。2022年度からドローンの運転に免許制度が導入される予定だが、NTT東日本ではドローンスクールも用意しているそうだ。学科と実地を合わせた5日間のコースを受講し、最終日のテストに合格すればドローン免許(操縦ライセンス)を取得できるという。
NTT東日本の高島氏は、「我々が開発した農薬散布ドローン『AC101』は、国産ドローンとして安心・安全にご利用いただけます。主な用途は農薬散布ですが、ゆくゆくは作物の発育状況の確認から、AIによる収穫時期予測といったスマート農業に繋げていきたいと考えています」と、その取り組みについてまとめた。
目指すべきは「カッコいい農業」
少子高齢化が進む中、農業従事者の数は減少を続けており、多くの農家は後継者不足という悩みを抱えている。さらに、現在の日本の農家は多くが兼業農家であり、専業ではなかなか生計を立てられず、離農していく方も少なくない。そういった農地を集積し、少人数で広い耕地を管理していくことが今後求められるだろう。
「農業には『泥だらけになり、汗水垂らして働く』というイメージがあります。まずはこれを払拭しなければ、若い人たちが『オレもやってみよう!」とはならないでしょう。目指すべきは『カッコいい農業』です。ICTの知識を融合させたスマート農業を実現できれば、日本の未来も明るいんじゃないかと思っています。農業を『自分たちはこんなすごいことをやっているんだ』と自慢できるものにしていくことこそ、私の願いですね」(髙橋氏)。
NTT東日本はこれまで、通信事業を軸として地域の発展に貢献してきた。この地域との密接な繋がりと培ってきたICT技術を元として、いまは地域社会における課題解決を助ける会社へと変わりつつある。NTT e-Drone Technologyの藤倉氏は、NTT東日本の取り組みを次のようにまとめた。
「NTT東日本グループの強みは、やはり通信です。農機具それぞれがどのように動き、そして作物に働きかけているのか。これを包括的に管理できる環境の構築を目指しています。NTT e-Drone Technologyはドローンを通じてその一角を担いつつも、最終的に合流するという流れを作りたいですね。農薬散布のみならず、測量や撮影などを業務として誰でも簡単に扱えるものにし、自治体の方々とともに地域課題の解決を目指したいと思います」(藤倉氏)。
農業用ドローンの存在は知っていても、NTT東日本が事業を行っていることを知らない方はまだまだ多いだろう。興味のある方は、一度デモフライトを体験してみてはいかがだろうか。