若者を中心に支持を集める作家Fの処女小説を映画化した『真夜中乙女戦争』が公開された。そこで、無気力な大学生“私”(永瀬廉)が出会い、退屈を破壊するための東京破壊計画=真夜中乙女戦争を首謀していく危険なカリスマ“黒服”を、柄本佑が演じている。
本作に流れる「自分は何者であるのか」との問いに、柄本自身が直面したとき、この仕事を続けるためにも意識したこと、さらにはここ数年「イケメン」と呼ばれることが増えたことへの率直な感想も聞いた。
■生活者であるという地盤がないと、この仕事はできない
——“黒服”は主人公“私”の前に現れる謎の人物ですが、青年期のモヤモヤの中にある“私”の気持ちは共感できますか?
“私”が抱えているような悩みというか、「自分は何者であるのか」のようなことって、おそらく誰しもが抱くものだと思うんです。東京を爆破するうんぬんは映画なので置いておいても、そうした感覚は多くの方が分かるものかと。
——キャンパスが舞台になっています。柄本さんは早稲田大学芸術学校卒業ですが、キャンパス生活でもそうしたことを感じましたか?
僕の場合は、学校とか同級生とかキャンパスといった箱庭のような場所のなかで、自分の殻を破っていきたいと思っていたというより、学生じゃなくなったときに「自分は何者であるのか」と考えましたね。
——すでにデビューはしていても、そう思われたんですか?
映画の現場って圧倒的に刺激的だし、大人に囲まれているしすごく楽しくて、ちょっと退屈だなと感じることもある学校の授業とはやはり違いました。でも、いざ学校を卒業して仕事だけになったときに、学生だったからこそ自分をカテゴライズして、こちらの仕事も楽しくできていたのだと気づきました。カテゴリーがなくなったら、社会とのつながりみたいなものを感じられなくなったんです。
——柄本さんのようにお仕事をされていても、社会とのつながりが感じられなかったのですか?
何も仕事がない時間なんていくらでもありましたから。余裕で2カ月とか空いてました。そして、たまに同級生とかと街ですれ違ったりすると、スーツを着てたりして、自分はTシャツに短パンで。地に足がついていない不安を感じたというか。
——どう脱却したのでしょう。
18歳くらいから一人暮らしをしていたのですが、最初のうちはぐうたら生活をしていたんです。でも、ちゃんと生活者であるという地盤がないと、仕事もできないと感じました。部屋を掃除する、起きたら布団をたたむ、洗濯物もちゃんとして、洗い物をシンクに溜めない。そういったことを毎日やることで、社会とのつながりを取り戻していきました。
——素晴らしい。耳が痛いです。
(笑)。この仕事だけでは保てないような気がしたんです。ちゃんと地に足をつけて生きているということが、この仕事を支えてくれている感じがします。
——なるほど。その通りですね。ちなみに、“黒服”が実にかっこよくて魅力的だったのですが、かっこいいとかイケメンとか騒がれることをご自身はどう感じていますか?
それはあまりわかりませんね(苦笑)。“黒服”に限らず。でも、“黒服”としてはそう言っていただけるのはいいのかな? 実際かっこいい役だし、セリフも特徴的なことを言っているので、そういう風に言ってもらえることは作品にとっていいことかもしれません。まあ衣装とかメイクとか、いろんなもので作り上げてますから、作品のなかに生きてる“黒服”さんがかっこいいというのは正しいことなんじゃないでしょうか。ただ、僕個人としては別に……。
——柄本さんがかっこいいと言われるのは照れますか?
いやあ、うーん。「あざっす」って感じです。目を閉じて、「あざっす!」って(笑)
■映画ファンだからこそ思うこと
——“私”や常連たちも集まっていた“黒服”のアジトも印象に残ります。“黒服”はあの場を、自分たちのための映画館としていました。柄本さんはシネフィルですが、ご自身でもああいった場は欲しいですか?
僕は映画館に行きたいので、家にはいらないです。たぶんああいうスクリーンがあっても、どのみち家では映画を観ないと思います。本編で「映画って結局みんなで観るものだよな」と“黒服”も言ってましたが、本当にそうだと思うんです。映画ってやはりみんなで、名前も知らない人同士で暗闇でひとつの人生を観る。そこに面白いと思っている方もいれば、つまらないと思っている方もいて、寝ちゃっている方もいる。そういう空間が映画館じゃないかなと思うので。なので僕には必要ないです。
——さまざまな役を演じていますが、オファーを受ける際に、雰囲気が似ないようにといったことは考えますか? それとも脚本が第一?
脚本もありますが、僕の判断基準としては監督と共演者が大きいですね。たとえば高橋伴明監督や、根岸吉太郎監督などからのお声でしたら、正直脚本を読む前に「やります、やります! ワンシーンでもいいのでやります!」となりますし。逆にあまり存じ上げない監督だったとしても、岸部一徳さんとふたりのシーンがあったり、石橋蓮司さんとの共演シーンがあるならば、やはりやらないと。映画ファンで、こういう仕事も続けているのだったら、緊張もするし怖いけれど、そうした仕事は四の五の言わず、やらなければいけないと思います。
柄本佑
1986年12月16日生まれ、東京都出身。2003年、映画『美しい夏キリシマ』の主人公役で映画デビュー。近年の主な出演作に大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(19年)、ドラマ『心の傷を癒すということ』『知らなくていいコト』(20年)、『天国と地獄~サイコな2人~』(21年)、映画『ポルトの恋人たち 時の記憶』(17年)、『素敵なダイナマイトスキャンダル』『きみの鳥はうたえる』(18年)の3作品では第92回キネマ旬報ベスト・テンにて主演男優賞、中でも『きみの鳥はうたえる』では第73回毎日映画コンクールでも男優主演賞を受賞。他、映画『アルキメデスの大戦』『火口のふたり』(19年)、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(21年)など。映画『殺すな』(1月28日公開)、『ハケンアニメ!』(5月公開)、『川っぺりムコリッタ』(2022年公開)、『シン・仮面ライダー』(2023年公開)が控える。
(C)2022『真夜中乙女戦争』製作委員会