「人間関係構築術」は社会人にとっての永遠のテーマとなるものでしょう。なかでも、「相性の悪い人」とのつき合い方には明確な答えもなく、悩みの種になります。そして、そのつき合い方には年齢で変化が出ると語るのは、PwC、マーサー、アクセンチュアなどの外資系大手コンサルティング会社を経て独立し、数多くのビジネスパーソンのキャリア形成を支援している人事・戦略コンサルタントの松本利明さん。

「20代と30代以降で変化する」というその言葉の真意と併せて、「相性の悪い人とのつき合い方」を教えてもらいます。

■30代では、相性の悪い人も味方に引き込まなければならない

20代と30代では、「相性の悪い人とのつき合い方」が大きく変わります。なぜなら、年代それぞれによって「仕事で求められること」が変わるからです。

20代の社会人が会社から求められるのは、携わっている業務の担当者として一人前以上になることですよね? まだ経験が浅いため、そこまで大きな成果を求められることはないでしょう。まずは、上司や他の部署の人間、顧客など周囲からの指示に沿って、ある程度の「正解」というものがあるなかで確実に仕事を遂行することが求められます。

そうなると、仕事を与えてくれる人や指示をしてくれる人など、かかわる人の範囲が狭いなかで仕事をすることになります。20代と若いこともあり、うまく仕事を進めるには、その限られた人間関係のなかで、いかに「かわいがられる」かということが最大のポイントといえるでしょう。

一人前以上になるための途上にいるのですから、仮にミスをしたとしても、まわりのサポートを受けられるような、すなわちかわいがられる関係性を築くことが大切です。

一方、30代になると与えられた仕事をこなすだけでなく、目に見える「成果」が求められます。そうなると、ただ周囲からかわいがられるだけではなく、自分の考えとは反対の立場にいるような相性の悪い人たちをも「巻き込んで一緒に動かしていく」必要性が出てきます。

つまり、20代では相性が悪い人にもかわいがられることだけを考えればいいのですが、30代にもなれば、そういう人たちもこちらの「味方」に引き入れるようなことが求められるわけです。

■相性を決めるのは、「ものの見方や考え方」

相性の悪い人ともうまくつき合って味方に引き入れるためには、そもそも相性というものがどのように決まるのかを知っておきましょう。

相性を決めるのは、「ものの見方や考え方」だとわたしは考えます。それらが反映される、「話し方や伝え方」も加えていいでしょう。「ものの見方や考え方」「話し方や伝え方」といったものが自分と近い人が相性のいい人であり、遠い人が相性の悪い人です。

たとえば、あるものごとに対して自分が賛成の立場にいるとき、「こういうときはだいたい反対してくるんだよな」という人はいませんか? それはおそらく、そのものごとについてのあなたの見方や考え方と、相手の見方や考え方というものが遠いからからです。それが、相性が悪いということを意味します。

では、相性が悪い人とどのようにつき合っていけばいいのでしょう? まずお伝えしたいのは、「正論で説得しようとするのはやめる」こと。自分にとっては正論であるものも、ものの見方や考え方がちがう人にとっては正論ではありません。この世には、人の数と同じ数だけ、正論が存在するということを理解しましょう。

30代以降になれば、自分の正論が通らないというときに、「相手の理解力が足りない」などと憤慨するのではなく、「自分の考えを通せない自分が悪い」と考えるべきではないでしょうか。

正論というのは、個人の性格を抜きにしても、製品の製造業務に携わっているのか、営業担当なのかといった「職種」でも変わってきます。前者であれば製品のクオリティーやコストといったものを重視するでしょうし、後者なら売上を重視します。役割も考え方もちがうのですからこれは当然のことで、対立するのは避けられないことです。

でも、そんななかでも、最終的にお客様にどういう価値を提供するのかということを考えなければならないのが社会人です。それはもちろん、社内で携わる業務がちがったとしても共通していること。ならば、対立する相手でもうまく味方にしながらよりよい価値を生み出して、お客様に提供することを考えるべきでしょう。

■相手を人間と考えず、「キャラクター」だと割り切る

そこでおすすめしたいのは、相性が悪い人とうまくつき合っていくために「自分と他人は別のキャラクターだ」と割り切るというテクニックです。「人類みな兄弟」なんていいますが、仲のいい兄弟であってもときには兄弟喧嘩をするように、人とかかわる以上、まったく対立が起きないなんてことはあり得ません。

まして遺伝的に近い兄弟ではなく赤の他人であれば、ものの見方や考え方がまったくちがうのは仕方のないこと。

ですから、「この人はこういうキャラクターだ」と割り切ったほうが楽なのです。有名な『西遊記』を例に挙げると、猪八戒に対して「如意棒を使うべきだ」といっても使えるわけもありません。なぜなら、重い如意棒を使いこなせるのは孫悟空だけだからです。

自分の正論を相手に押しつけようとするのは、猪八戒に対して「如意棒を使うべきだ」といっているようなもの。そんな押しつけをしていても、自分の思い通りに相手が動いてくれるはずもないですし、関係性はいつになっても改善されません。

コミュニケーションがうまくいかないときは、相手のキャラクターに合わせた「内容」を、相手のキャラクターに合わせた「方法」で伝えなければならないのです。

「キャラクターだと割り切る」とは、極端にいえば「人間だと考えない」といってもいいかもしれません。相性の悪い相手のことを「人間」と考えると、「自分と同じ人間なんだから、話せばわかるだろう」「説得できる!」と考えてしまいます。そうではなく、「自分とはちがうキャラクター」だと考えてしまえばいい。

■相手のことをよく知れば、関係性はよくなる

そして大切なのは、相手のことを知る努力を欠かさないことです。なぜなら、相性の悪い人を「この人はこういうキャラクターだ」と割り切るためということの他、相手を知るだけで関係性が改善することもあるからです。

苦手な人については、嫌なことしか知らなくて、他のいい情報をシャットアウトしがちです。とくに第一印象が悪かった人に対してはそうなりますよね。「あ、この人苦手…」と思った瞬間、その人について関心がなくなり、知ろうとする努力はしなくなるものです。しかし、きちんと相手のことを知ってみると、意外な共通点が見つかることも少なくありません。

そこで、仕事のことだけでなく、出身地、趣味、家族構成、特技など、自分のまわりにいる人たちについて知っていることをどんどん紙に書き出してみましょう。すると、相性がいいと感じている人については、ポジティブなことはもちろんネガティブなこともたくさん書き出すことができると思います。

一方、相性が悪いと感じている人については、ネガティブなことは書けてもポジティブなことは書けなかったとか、そもそも書き出せたことの数が少ないという結果になります。人間関係の温度差は、その人についての情報量と相関するのです。

その事実に気づいたのなら、相性が悪い人の、苦手と感じること以外の情報を積極的に知るように心掛けてみてください。「釣りが共通の趣味だった」といったことを知れれば、「釣り好きに悪い人などいない!」なんて思えて、関係性が一気に改善するようなことも起こるはずです。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人