利根川:機材はずっと進化し続けていますが、概念的な部分でいうと、音楽番組って芯の部分はあまり変わってない気がして、変わらないことが素晴らしいというのがありますよね。僕の個人的な感覚ですけど、音楽が好きでアーティストにリスペクトや愛がある音楽番組の制作者が、各局にいるようになったなと思います。アーティストやそのスタッフの方とちゃんと話ができてるんだろうなとか、こだわりがあるなとか、音楽愛があるなと感じる場面が増えてる感じがします。
木月:例えばどんな方がいらっしゃいますか?
利根川:僕がよくお話しさせていただく方で言うと、CX(フジテレビ)はもちろん浜崎さんとか三浦淳さんとか、日テレの川邊(昭宏)さん、前田(直敬)さん、伊藤茉莉衣さん。TBSさんだと『レコ大』や『A-Studio+』とか、BSで『Sonud Inn“S”』をやってる服部(英司)さんとか。NHKも『SONGS』をやってる山崎(隆博)さんとか、横川(延慶)さんとか、たくさんいらっしゃいますし。
■音楽を信じられない前提で番組を作らなければならなかった時期
浜崎:たぶん音楽番組がバタバタっと終わった4~5年前って、歌を真面目に撮って放送したら数字が下がるという空気があって、とにかく歌の尺を短くしたり、バラエティ演出を取り入れた企画モノをやって数字を上げなきゃという感じが全体的にあったのは確かなんですよ。でも、それって音楽が好きな人間からすると悲しいじゃないですか。いい歌をちゃんと美しくカッコよく撮ってその素晴らしさを世の中に届けたいという思いを持ってるのに、数字がとれないと言われてその気持ちを押し込められていた時代があったんですよね。やっぱり音楽を信じられないという前提で番組を作らないといけないというのは、すごく苦しかったというのがありました。
――『HEY!HEY!HEY!』が始まったのがTKブーム前夜の94年、あの頃も“歌番組冬の時代”と言われていた頃で、ダウンタウンさんをMCにしてトークで番組を盛り上げるという狙いだったと思うのですが、そういう要素もありつつ、音楽への愛があった番組ということなんですよね。
浜崎:『HEY!HEY!HEY!』とか『うたばん』(TBS)の時代って、芸人さんたちの司会で爆笑トークを売りにするというのがありましたけど、歌はちゃんと届けていたというのはありますよね。
木月:ちゃんと撮ってちゃんとカッコ良かったですよね。そこはこだわっていたチームだったんだろうと思います。
浜崎:それを凌駕する時代が、今から4~5年前に音楽番組業界の中であったんですよ(笑)。それってテレビの根本で、音楽番組においてアーティストが望んでいないこと、バラエティにおいて芸人さんが望んでないことだけど、この“注射”を打てば数字が上がるみたいなものにいかに頼らないかという、作り手の“踏み絵”のようなところなんですよね。
木月:「これをやらないと番組が死ぬ」って言われるし、なかなか難しいところなんですよね。
利根川:難しいところですね。ただ目先の数字にこだわりながら、同時に5年後のことを常に考えて仕事する感覚でないといけない部分もあると思うんです。5年後に「5年前のあれがあったから、今があるんですよね」っていう関係が築けているといいなと。
浜崎:4~5年前の音楽番組を見て、音楽番組に出たくないと思った若いアーティストってたくさんいると思うんですよ。テレビに出たくないアーティストが増えるというのは、それが今に響いてきてるんですよね。
木月:なるほど、それは大きいですよね。
浜崎:だから、そういうことをちゃんと考えて作っていかないといけないし、偉い人は、まずは今の数字が一番大事と思っているかもしれないけど、こっちは5年後も10年後もアーティストと対峙(たいじ)していくわけだから、そこはちゃんと誠意あるもの作りをさせてほしいと思いますよね。
利根川:今の言葉、ちょっと心に響いたなあ…。