2021年10月に緊急事態宣言が解除され、今年の冬には久しぶりの旅行に行きたいと計画を練っている人も多いのではないだろうか。とはいえ、コロナ以前とまったく同じように旅行ができるのかと言えば、そうではない。もちろん海外には行けないし、まだまだ感染対策を欠かすこともできない。コロナ前と比べ、旅行のカタチはどのように変化しているのか。また、今後どのような旅行が求められていくのか。観光庁にお話を伺った。

  • 「第二のふるさとづくり」とは? ※画像はイメージ

コロナ以前から進化を遂げた"新しい旅行のカタチ"

長きにわたった緊急事態宣言の影響は、日本の全産業に影を落としたものの、中でも移動や飲食を伴う"観光業界"にはとりわけ甚大であった。宣言が解除され、感染者数の減少やワクチンの普及により、ようやく光が見えつつある今。観光のトレンドはどのようなものがあるのだろうか?

  • 取材にご協力いただいた観光庁 観光戦略課長の片山敏宏さん

「トレンドとしては、密回避を前提とした観光スタイルが注目を集めました。テレワークという働き方が浸透したことによって『ワーケーション』。また、インドアよりもアウトドアの楽しみ方が人気になったことで『キャンプ・グランピング』。ほかにも、周遊型ではなく、『一か所の場所に滞在する旅行スタイル』や、自宅から近い場所を観光する『マイクロツーリズム』なども好評ですね」

観光庁では、魅力ある観光地づくりやその魅力の発信など、観光の振興、発展に貢献した個人及び団体に対して「観光庁長官表彰」を毎年実施している。今年の受賞者も、まさにこれらのトレンドを汲んだものだった。

「例えば、今年受賞した『燕三条工場の祭典』実行委員会は、コロナ以前は5万人以上が訪れるリアルイベントとして開催していた一大観光コンテンツを、コロナ禍とあってオンラインを駆使することで新たなファンを獲得しました。リアル開催では危ないので観光客が立ち入ることができない工場の作業場をオンライン配信するなど、60以上もの動画コンテンツを用意して、燕三条の伝統を世界に発信できたのは、オンライン開催ならではメリットだったといえます」

「また、同じく受賞者のいせん代表取締役・井口智裕さんは、文化価値の高い古民家宿を改修し、ラグジュアリーな宿泊施設として『ryugon』を開業し、リニューアルオープン後、稼働率は対前年比平均140%という高水準を維持。コロナ禍においても、客室の改修やカフェの新設など、ポストコロナを見据えた積極的な設備投資を行ったほか、田んぼのあぜ道でランチをする「田んぼランチ」など、旅行客が地域文化をより深く体験することができる取り組みに尽力し、全国的に注目を集めています」

このようにコロナ禍という障害があるからこそ、逆張りの発想や固定概念にとらわれない独自のサービスが注目を集め、観光客のニーズに合わせて旅行のカタチはどんどん進化していっているのだという。

自分だけの旅行先を見つける「第2のふるさとづくり」

宣言が解除され、ようやく旅行が楽しめる環境は整ったと言えども、インバウンドや海外旅行が本格的に回復するには、まだまだ時間を要する。そこで観光庁がいま注力しているのは"国内観光需要の掘り起こし"。そして、これに基づいた「第2のふるさとづくりプロジェクト」を推進しているのだという。

  • 観光庁がいま注力しているのは"国内観光需要の掘り起こし"。そして、それに基づいた「第2のふるさとづくりプロジェクト」

「コロナの影響により、密を避け、自然環境に触れる旅へのニーズが増加しています。また、大都市にはふるさとを持たない若者が増えており、田舎に憧れを持っていて地域との関わりを求めている方が多いそうです。こうした動きを踏まえ、いわゆる『第2のふるさと』となる訪問先をつくっていただきたいというのが、このプロジェクトの概要となっています」

「ご近所付き合いがなくなった」「親戚としばらく会っていない」など、人や地域とのつながりが希薄化していることは、近年よく問題視されている。とはいえ、逆にSNSなどオンラインでのつながりは濃厚化していることを考えると、"つながりを持ちたい"という想いは今昔だれもが根底にあるはず。その点においても、この「第2のふるさとづくり」に関心を持つ人は多いのではないだろうか。

「今では旅行のサブスクサービスなども徐々に登場してきており、それらも活用しながら"何度も地域に通う旅、帰る旅"という新たなスタイルを定着させたいと思っております。そのために、人材不足に悩む地域に都市部で暮らす社会貢献がしたい方々をつなげる『滞在コンテンツ』の提供、古民家をリノベーションして滞在環境の整備、JRや宿泊サブスクサービスと提携して移動の足を確保など、さまざまな取り組みをスタートしたいと考えております」

最近は筆者のまわりでも、"旅行に行く"といっても京都や沖縄といった一大観光地を選ばずない人が増えてきた気がする。以前は「あのレジャーホテルに泊まりたい」「あの遊園地に行きたい」といった旅行の目的が、「海を眺めたい」「森林浴がしたい」など"のんびりと過ごしたい"という動機に移ってきているようだ。その点においても、同プロジェクトのニーズにマッチしているといえるだろう。

観光という枠を超え、二地域・多地域居住や移住の推進といった地域活性にも大いに寄与する同プロジェクトは、コロナをきっかけに始まった新しい旅のカタチ。次の旅行計画を練っている方々は、これを機に自分だけの旅行先を見つけてみてはいかがだろうか。