妊娠初期の重要な栄養素である葉酸は、妊娠の1ヶ月以上前から適量を摂取しておくことが大切です。葉酸サプリを飲み始めるタイミングについて考えてみましょう。

【この記事の監修ドクター】

葉酸の基礎知識

葉酸の機能・効果とは?

葉酸はビタミンB群の一種で、水溶性ビタミン(水に溶けやすいビタミン)です。ほうれん草の抽出物から発見されたことから葉酸と命名されたといわれています。その名前と由来から植物性食品だけに含まれているように思われがちですが、レバーやウニなどの動物性食品にも多く含まれています。

葉酸は体内で赤血球の形成や、細胞増殖に必要なDNA合成に関わる栄養素です。不足すると動脈硬化の危険因子となるほか、貧血や神経障害、腸機能障害などが起こりやすくなります。また胎児の細胞増殖が盛んである妊娠初期に葉酸が不足すると、胎児の神経管閉鎖障害(※)の発症リスクが高まることが明らかにされています。

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※神経管閉鎖障害 [* 1]

脳や脊髄といった中枢神経のもとである「神経管」ができる妊娠4~5週ごろに起こる先天異常です。胎児の神経管は、正常であれば成長過程で閉じるのですが、なんらかの要因により神経管がしっかり閉じなかったために起こります。神経管の下部が閉じないと「二分脊椎」となり、下半身の運動障害や膀胱・直腸の機能障害を起こすことがあります。また、上部で起こると、脳が形成不全となる「無脳症」となります。

なお、神経管閉鎖障害は葉酸の摂取不足のみにより起こるというわけではありませんが、葉酸を適量摂取するとその発症リスクを下げることができると考えられています。

どんな人に必要? 1日の摂取量は?

葉酸は、すべての世代の人にとって必要な栄養素ですが、もっとも必要といわれているのが妊娠を計画している女性、または妊娠の可能性がある女性です。妊娠の1ヶ月以上前から、「神経管閉鎖障害のリスクの低減のために、食事に加えて400μg/日の摂取が望まれる」とされています[* 2]。セックスをしていれば、避妊がうまくいかずに予定外の妊娠をすることもあるので、性交渉の機会がある女性は普段から葉酸の摂取量に注意が必要です。

また、通常は1日に1,000μg以上は過剰摂取とされていますが、欧米では神経管閉鎖障害のリスクが高いために通常の10倍程度の葉酸の摂取が勧められる女性がいます。それは、自分自身や赤ちゃんの父親の家族の中に神経管閉鎖障害の人がいる女性、糖尿病の女性、てんかんの薬を飲んでいる女性、BMI(Body Mass Index)30以上の女性、などです[* 3, 4] 。このような女性は、妊娠する前にかかりつけの医師に相談して、葉酸の補充について相談しておきましょう(こうした状況にあてはまると感じたら、自己判断では始めず、かならず事前に医師に相談してください) 。

葉酸を効果的に摂取するには

食品+葉酸サプリでとる

葉酸を効果的に摂取するために推奨されているのが葉酸を含む食品に加え、葉酸サプリを活用することです。

葉酸はほうれん草のほか、枝豆、アスパラ、ブロッコリー、オクラなどの野菜や柑橘類、レバーなどに多く含まれていますが、食品に含まれる葉酸は体内で消化吸収される過程でさまざまな影響を受け、利用できる形になったときの量にばらつきがあることが報告されいます。

一方、サプリメントなどの栄養補助食品に含まれる葉酸は合成されたもので、食品中に含まれる葉酸とは構造が異なるため、安定していてかつその利用できる率も高いことがわかっています。そのため食品と葉酸サプリを併用することが、葉酸の効果的な摂取につながると、国内外で推奨されています。妊娠の1ヶ月以上前から、食事に加えて1日に400μgの葉酸サプリメントを摂っておくようにしましょう。

葉酸は水に溶けやすい栄養素

また、葉酸の特性として、水に溶けやすい水溶性ビタミンであることが挙げられます。食品中の葉酸が水に溶け出して損失が増えないよう、ゆでずに加熱する蒸し物や炒め物のほか、スープにして汁ごと食すなど、調理の方法を工夫するとよいでしょう。

過剰摂取に注意

葉酸は不足だけでなく過剰摂取、つまり摂り過ぎにも注意が必要です。葉酸を摂り過ぎると葉酸過敏症と呼ばれる健康障害を起こすことがあります。葉酸過敏症のおもな症状は発熱、じんましん、紅斑(皮膚の発赤)、かゆみ、呼吸障害などです。そのほかビタミンB12欠乏症の診断を困難にしたり、小腸からの亜鉛(たんぱく質やDNAの合成に関わる栄養素で、不足すると成長障害が起こることがある)の吸収を抑制したりする可能性があることも知られています[* 5]。

これらのことから、食品以外にサプリなどから摂取する葉酸の上限量は通常は900~1,000μg/日と定められています[* 6]。サプリメントや栄養補助食品は元々、葉酸の含有量が多く、さきほど紹介したとおり、食品に含まれるものより吸収効率も高いため、上限量を超えないよう摂取することが大切です。

サプリメントや健康食品の上手な使い方

健康食品を上手に使うには

葉酸に限らず、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品、栄養機能食品などを含む、いわゆる「健康食品」と呼ばれるものは、それだけを集中的に摂取したからといって体に良い影響があるわけではありません。健康食品はあくまで、足りない栄養を補うための「補助」としての役割を果たすものと考えておきましょう。

なお、葉酸以外の栄養素については妊娠中に、サプリメントとして特に勧められているものはありません。また、医薬品と違い、サプリメントは品質や規格などがバラバラですし、「マルチビタミン」のように複数の栄養素が添加されている製品では、あれこれ飲んでいると栄養素の過剰摂取につながる可能性もあります。

妊娠中、栄養分はできるだけ食事から摂取することを心がけましょう。

葉酸サプリは妊娠を考え始めたら飲み始めるのがベスト

葉酸サプリについていろいろお伝えしてきましたが、結局のところ葉酸サプリは、いつ飲み始めるのがよいのでしょう。

赤ちゃんの先天異常の多くは、妊娠直後から10週ごろまでの器官形成期と呼ばれる時期に起こっており、とくに中枢神経系は妊娠7週未満に発生することが知られています。そのため、妊娠を計画している女性に関しては、神経管閉鎖障害のリスク低減のための葉酸の摂取時期は、「およそ妊娠1ヶ月以上前~妊娠3ヶ月まで」が推奨されています[* 2]。

妊娠に気づいてからの摂取でも効果がみられたという報告もあり、妊娠後に葉酸サプリを摂取することが無駄というわけではありませんが、妊娠を望んでいるのであれば、その時点から摂取し始めることをおすすめします。

まとめ

おなかの赤ちゃんのために葉酸がもっとも必要になるのは、妊娠直後~初期です。妊娠の1ヶ月以上前からの葉酸サプリの摂取が勧められているので、これから妊娠を予定している人は、今から葉酸サプリを飲み始めましょう。予定外に妊娠することもあるので、その可能性がある人は常に葉酸を飲んでできるよう、準備しておくとよいですね。

(文:山本尚恵/監修:太田寛先生)

※画像はイメージです

参考文献
[* 1]国立保健医療科学院 葉酸Q&A
[* 2]厚生労働省:神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に係る適切な情報提供の推進について
[* 3]国民保健サービス(NHS, 英国):Why do I need folic acid in pregnancy?
[* 4]英国王立産婦人科医協会(Royal College of Obstetricians and Gynaecologists):Healthy eating and vitamin supplements in pregnancy
[* 5]国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所:葉酸解説
[* 6]厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2015年版)
・厚生労働省e-ヘルスネット:葉酸とサプリメント ‐神経管閉鎖障害のリスク低減に対する効果
・国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所:「健康食品」の安全性・有効性情報
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます