マツダはSUV「CX-5」に商品改良を施し、12月上旬に発売する。CX-5はグローバル販売台数の約3分の1を占めるマツダの基幹車種。今回の商品改良は個性的な特別仕様車の登場が目玉だが、特に注目したいのはマツダ車のイメージを変える(?)「フィールドジャーニー」というモデルだ。
マツダの一括企画とは
マツダは「SKYACTIV(スカイアクティブ) テクノロジー」を本格採用した新世代商品群の第1弾として、2012年に「CX-5」を発売した。高圧縮比のガソリンエンジンやクリーンディーゼルエンジンに注目が集まりがちだが、スカイアクティブ テクノロジーは次世代を考えた変速機や車体、シャシーの大幅な進化も含む総合的な概念だ。これらの技術革新を取り入れた最初の商品が、当時市場で人気が高まりはじめていたSUVのCX-5だった。現行CX-5は2世代目で、2017年のフルモデルチェンジからは約4年が経過している。
新世代商品群を世に送り出して以降、マツダは各車のモデルチェンジを待たず、こまめに商品改良を施す取り組みを進めている。他社の「マイナーチェンジ」や「イヤーモデル」とはやや異なる手法だ。
新世代商品群の導入にあたりマツダは、「一括企画」と呼ぶ商品企画の手法を取り入れた。市場に投入する予定の全車種を対象に、将来的に実用化が見込まれる新技術の導入も視野に企画を進め、新車発売後であっても実用化できた技術については適宜、取り入れていくやり方だ。これが商品改良につながる。商品改良の時期は決まっていないが、全てのモデルでほぼ毎年のように実施されるのが通例となっている。これにより、マツダ車は車格の上下を問わず、最新の技術や機能を順次、取り込んでいけるようになった。
商品改良は販売車種の鮮度を落とさないための工夫でもある。たとえ5年前に新発売となったクルマでも、現時点で購入できるモデルは(数度の)商品改良を経ているので、技術や機能は最新のマツダ車に並ぶレベルへとアップグレードされているからだ。商品改良は新車の販売促進のみならず、中古車市場での残価を高く維持することにも役立っているという。残価が高いことにより、サブスクリプションを活用して月払いでマツダ車を購入する際は、月額料金を低く抑えられる。
3種類の特別仕様車を設定
CX-5の商品改良で最大の目玉となるのは、個性的な特別仕様車の設定だ。「エクスクルーシブモード」(Exclusive Mode)、「スポーツアピアランス」(Sports Appearance)、「フィールドジャーニー」(Field Journey)の3車種である。特に注目したいのは、マツダ車に対する固定観念を覆すかもしれないフィールドジャーニーだ。
スカイアクティブ テクノロジーの展開と合わせて、マツダは「魂動デザイン」というコンセプトを打ち出し、マツダ車らしさを外観の造形や色使い、また内装で表現してきた。象徴的なのが「ソウルレッド」と呼ばれる外板色だ。車種を問わず、赤いマツダ車が街にあふれた。
魂動デザインにより「躍動感あふれる美しいマツダ車」という印象が浸透した一方で、マツダ車は美しいだけに、例えばオフロード走行に連れ出すことや、雨露などで汚れたままにしておくことは気が引ける、といった気分も生じさせた。
ジープのチェロキーやコンパスなどと同じSUVであり、本来であればオフロードも似合うはずのCX-5も、ことに2代目となってからは、市街地で美しく走るクルマとの印象が強まっていた。郊外での屋外活動などにも役立つというSUV本来の価値が薄れて見えるようになってきていたことは、マツダも認めるところだ。このため、初代の所有者の中には、2代目への代替を躊躇していた人もいたかもしれない。
そんな初代ユーザーに朗報となりそうなのがフィールドジャーニーの登場だ。オフロードでも映えそうな見た目の特別仕様車で、新開発のボディカラー「ジルコンサンドメタリック」もキャラに合っている。カラーデザイナーは「アースカラーの新色ですが、考えたのは他社のカーキとの差別化です。今回の新色では鋳造で使う『ジルコンサンド』の滑らかさを意識し、工業製品らしく作り込みました。魂動デザインの陰影もいかせるよう、メタリックの入った色にしています。街でも格好よく、オフロードでも様になる色だと思います」と語る。
もちろん車体色だけでなく、フロントグリルやリアコンビネーションランプ周り、そして前後バンパーなど、造形にも改良が施されている。クルマ全体として調和のとれた姿に仕上がっているようだ。
商品改良に伴い、販売車種体系も整理した。もっとも廉価な車種がなくなり、ベースグレードの上に「PROACTIVE」(プロアクティブ)があって、プロアクティブと同じライン上に特別仕様車の「Black Tone Edition」(ブラックトーンエディション)とフィールドジャーニーが並ぶイメージだ。プロアクティブの上が上級グレードの「Lパッケージ」(L Package)で、これに特別仕様のエクスクルーシブモードとブラックトーンエディションの上級グレードであるスポーツアピアアランスが設けられた。フィールドジャーニーに用品パッケージを取り付けると、Lパッケージ相当の価格帯に並ぶことになる。商品改良後の価格帯は267.85万円~407.55万円だ。
2代目でより印象を強めた都会派SUVの上級車種を求めるならエクスクルーシブモード、より走りを印象づける車種としてのスポーツアピアランス、SUVらしくアウトドアで活躍する姿を求めるならフィールドジャーニーにというように、同じCX-5でも好みや用途に応じて選べる選択肢が広がった。今回のグレード設定は、こう解釈すればいいのではないだろうか。
リアサスペンションを含めた車体剛性の向上や座席の取り付け部の強化など、CX-5はクルマ自体としても進化を遂げている。開発主査は「前回の商品改良でやり切った印象があったが、さらにやれることがないかを考えながら開発を進めた」と話した。
CX-5は月販2,000台前後で安定的に推移しているとのこと。現行世代の発売からは時間がたっているものの、こまめな商品改良により商品性をある水準で保持できているといえるのではないか。今回の商品改良で「より分かりやすい車種体系ができあがったので、再び販売に勢いがつくことを期待したい」というのが主査の考えだ。
マツダの新世代商品群で常に中核的な存在であるCX-5は、これまでも商品改良でクルマとしての熟成の度合いを高めてきたが、今回は特別仕様車の登場で新たな魅力が加わった。これにより、CX-5の存在に改めて目を向ける消費者もでてくるのではないか。マツダは今後、SUVラインアップのさらなる充実を図っていく計画だが、CX-5が今後もマツダ車の中軸であることに変わりはなさそうだ。