意中の人宛の手紙を盗んで恋人を突き止め、何も知らないフリをして体の関係を結ぶ――芥川賞作家・綿矢りさ氏による同名小説の実写化映画『ひらいて』(全国劇場で公開中)の主人公・愛の暴走する恋心は、やがてエキセントリックな三角関係に発展していく。演じた山田杏奈が「嫌いだが、愛さずにいられなかった」と話していた愛が見せる葛藤、熱量、衝動はどこか切なく「愛が分からないからこそ目が離せない」「愛に感情移入して苦しい」と大きな反響を呼んでいる。

もしそんな愛が、そばにいたら、恋愛相談をされたら……山田と、愛が恋心を抱く同じクラスの男子・西村たとえ役の作間龍斗、たとえの恋人で糖尿病の持病を抱える新藤美雪役の芋生悠の3人が、過激な主人公・愛を語った。

  • 山田杏奈演じる木村愛

――公式YouTubeでは、恋愛の黒歴史エピソードを集めた「ここでひらいて! 恋愛黒歴史企画」動画(山田、芋生、首藤凜監督、綿矢氏が参加)や、「恋愛相談企画」動画(作間が参加)が公開されていますが、もし皆さんが主人公の愛から「好きな人の彼女と関係を持ってしまった。でもどうしても好きな人を手に入れたい」という相談を受けたらどんなアドバイスを送りますか。

芋生:すごい相談だ(笑)。

作間:「自分が愛と友達だとしたら」ということですよね。どれくらい仲のいい友達なんだろう。

山田:でも、もし愛から相談されるとしたら……。

芋生:相当近い関係だよね。

作間:信頼されてるんだろうな。どうしようか(笑)。

一同:えー! どうしよう!(笑)。

芋生:違う学校であれば「いいじゃん、頑張っちゃいなよ」と軽い気持ちでアドバイスできるかもしれないけど、同じクラスだったらそうは言えない。

山田:でも、愛には何を言っても無駄なんじゃないかな。

芋生:愛ちゃんは止められないよね(笑)。ただ、一通り終わって戻って来たら「私がいるよ、大丈夫だよ」って言ってあげたい。

作間:僕も止められないと思うけど……「大きなことにはならないでね」って声をかけるかな。

――皆さんの中で改めて「愛は誰にも止められない人間」という共通認識があることを確認できました(笑)。そんな愛は相手に嫌なことを言ってしまうときもあるし、対峙した相手が嫌なことを思わず言わされてしまうようなキャラクター。実はなかなか存在しない、すごく貴重な人でもあると思います。もしそばにいたら、仲良くなりたいと思いますか。

作間:僕は、愛が女性でも男性でも離れたいですね。

一同:(笑)。

作間:苦手というか、恐ろしい。恋愛対象でも友達だとしてもやっぱり怖いので避けたいです。

山田:私もそばにいたらちょっと(笑)。隣の隣のクラスで「ヤバい子がいるらしい」と噂を聞くくらいの距離感がベストです。人としてすごく面白いとは思いますけど、自分の生活には入って来ないでほしいかな。

芋生:私は結構愛ちゃんが好きなんです。カッコつけている人よりも、純粋でいいと思う。痛々しいところもありますが、だからこそそばにいてあげたい。愛ちゃんは「好き」という気持ちが猪突猛進なだけで、誰かをいじめたりしないですし、意味もなく嫌なことを言わない人だと思っています。

――そんな愛とたとえが鋭い台詞をぶつけ合うシーンも印象的ですが、皆さんには「言うつもりじゃなかったのに、キツいことを言ってしまった」という経験はありますか。

作間:僕は日頃から面倒なことにならないように気をつけて言葉を発しているつもりなので、おそらくありません。ただ、自分の気づかないところで無意識に出ているキツい言葉はあるかもしれないので、そう思うと怖いですね。

山田:私もモメごとが起こらないように生きているので、弟とよくケンカをしていた幼い頃にはあったかもしれませんが、最近は記憶にある限りではないと思います。口にしたことでこの後何かが起こったら面倒だなと考えてしまうので、何かネガティブな感情が生まれたとしても言わないようにしています。

芋生:私も言わないです。そもそも嫌って思う人がまわりにいない……。

山田&作間:すごい!

芋生:察知して、関わるのをシュッと避けてしまうんですよね(笑)。

  • 作間龍斗演じる西村たとえ

――『ひらいて』は演じている皆さんのパワーが伝わってくるような作品で、10代、20代前半の若い頃にこんな作品に出会うというのは、演じる側にとっても見る側にとって大きな経験になるのではないかと思います。改めて作品への思いや、見て下さる方へのメッセージをお願いします。

芋生:撮影の最中も、終わってからも、身にしみて「映画っていいな」と感じました。苦しい場面もたくさんあったけど、監督もキャストもスタッフさんも皆すごく楽しんでいた現場。コロナ禍でストレスがたまっている中だったので、映画を作れる場所があることが幸せでした。完成した作品を見ると、自分なりには、綿矢さんが『ひらいて』に込めたものをすくい上げられて、ちゃんと人に伝えられるものになってのではないかと思えました。愛ちゃんみたいに迷っている人、まわりが見えなくなっている人にとっては、この映画を見ることで自分のことを肯定できるし、人に優しくなれるんじゃないかなと思います。

山田:『ひらいて』は見た人によって全く違った感想が生まれるような作品。好き嫌いも分かれるんじゃないでしょうか。そこがすごく面白いところなんです。私は愛が分からないとずっと思っていたのですが、こうして作品を振り返っていると「似ている部分があるからこそ、分からない部分もあるのかな」と解釈が変わったりして。見た人にとって、愛に限らず好きになれないキャラクターもいるかもしれません。でも「このキャラクター嫌だけど、何で嫌なんだろう」と考えさせられることで、自分でも気付いていない内面的な部分の琴線に触れる作品だと思うので、そこを楽しんでもらえたら。色んな人のもとで、色んな感情が生まれたらうれしいです。

作間:女の子の友情にフォーカスしていますが、男性にも共感できるところのある作品です。僕は撮影当時現役高校生で、この作品に関わっていなかったら、学生生活がするっと終わってしまっていたと思います。この作品のおかげで、学生時代の大切さに気づくことができました。

  • 芋生悠演じる新藤美雪

■山田杏奈
2001年1月8日生まれ。埼玉県出身。2011年に開催された「ちゃおガール☆2011オーディション」でグランプリを受賞しデビュー。『ミスミソウ』(18年)で映画初主演を果たし、その後『小さな恋のうた』(19年)で、第41回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。その他、ドラマ『荒ぶる季節の乙女どもよ。』(W主演/20年)、『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』(21年)、映画『ジオラマボーイ・パノラマガール』(W主演/20年)などに出演。21年は『樹海村』(W主演)『名も無き世界のエンドロール』『哀愁しんでれら』に出演し、公開待機作に『彼女が好きなものは』(21年12月公開予定)などがある。
■作間龍斗
2002年9月30日生まれ、神奈川県出身。2013年2月にジャニーズ事務所に入所し、2018年2月に現在所属するジャニーズJr.内のユニット・HiHi Jetsに加入する。2019年7月に『恋の病と野郎組』でドラマ初出演を果たし、2020年12月にラジオドラマ『オートリバース』に出演。2021年4月には『DIVE!!』でグループのメンバー、井上瑞稀、高橋優斗(高ははしごだか)とともにトリプル主演を務めた。
■芋生悠
1997年12月18日生まれ、熊本県出身。2014年にジュノン・ガールズ・コンテストでファイナリストに選ばれ、芸能界入り。2015年から女優として活動し、若手演技派として注目されている。主な出演映画に『左様なら』『37セカンズ』『#ハンド全力』『ソワレ』『HOKUSAI』、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』など。公開待機作に『牛首村(公開日未定)』がある。

(C)綿矢りさ・新潮社/『ひらいて』製作委員会、配給:ショウゲート