三菱自動車工業はSUV「アウトランダー」のプラグインハイブリッド車(PHEV)をフルモデルチェンジし、2021年12月に発売する。まだまだ数が少ない国産PHEV(しかもSUV)の刷新を待ち望んでいた人も多いと思われるが、新型アウトランダーはどんな特徴を持つクルマに仕上がっているのだろうか。
新型プラットフォームで大幅進化
2012年に発売となった従来型(第2世代)アウトランダーは当初、ガソリン車とPHEVの2本柱でモデルを展開していたが、PHEVのSUVは国内唯一(当時)ということもあって注目を集めた結果、PHEVが販売の主力となった。何度もブラッシュアップを重ねた従来型アウトランダーのPHEVは、単なるエコな存在ではなく、走りの楽しさも身に着けた「三菱のPHEV」としての基礎を作り上げた。新型アウトランダーPHEVは従来型で得た知見に新技術を取り入れ、最新世代のPHEVへと生まれ変わっている。
三菱は2021年2月に「アウトランダー」のフルモデルチェンジを発表し、4月から北米などで新型の販売を開始しているが、海外仕様は現状、エンジン車のみとなっている。アウトランダーPHEVの発表は今回が世界初だ。
3世代目となる新型アウトランダーの特徴は、全面刷新が図られたオールニューモデルであることだ。ベースとなるプラットフォームはルノー・日産・三菱のアライアンスが開発した最新版で、日産自動車の次期「エクストレイル」と目される2020年デビューの「ローグ」も採用しているもの。開発に際しては、SUVとしてのオフオード性能を重視する三菱側の要望もしっかりと取り入れられているため、妥協のない大幅進化が可能となったという。
ビジュアルの特徴は?
まずはビジュアルからチェックしよう。よりワイドでたくましいデザインに進化したことが一目で分かる。従来のスポーティーさを意識したデザインから、SUVらしい重厚感も兼ね備える見た目となり、フラッグシップモデルにふさわしい品格も感じられるようになった。
三菱車は象徴的なフロントマスクデザイン「ダイナミックシールド」を採用しているが、新型アウトランダーの顔は、「デリカD:5」から採用が始まった新世代のものに進化した。よりワイドでたくましい顔つきだ。新ダイナミックシールドのユニークな部分は、フロントグリル左右にヘッドライトを配置しているところ。これにより上部にあるライトユニットの小型化が可能となり、他社とは異なる鋭い目付きが実現できるのだ。
ボディのシルエットは従来型よりボクシーになったが、スポーティーさも残っている。都市部での使用を基本とする現代のSUVユーザーにも適したデザインといえるだろう。
気になるボディサイズは全長4,710mm×全幅1,860mm×全高1,745mmとなり、従来型比で全長が+15mm、全幅が+60mm、全高が+35mmと一回り大きくなった。全長と全高に関してはほぼ影響がないと思われるが、片側+30mmの車幅アップを懸念する人はいるだろう。
しかし、同サイズの他車の全幅を調べてみると、トヨタ自動車「RAV4」が1,855mm~1,865mm。ホンダ「CR-V」とトヨタ「ハリアー」が1,855mmとなっており、現代のミッドサイズSUVのスタンダードに収められていることがわかる。このあたりは、時代に合わせた対応と捉えるべきだろう。
外観以上の大変化を遂げたのがインテリア。こちらも上級化を図り、質感を一気に高めた。海外市場のライバルを徹底研究したと思われる大幅なイメチェンだ。
車内空間で特筆すべきは、アウトランダーのPHEVモデルとしては初となる3列7人乗りを実現させたこと。従来型の3列シート仕様はエンジン車のみで、PHEVでは2列5人乗りしか選べなかった。もちろん、SUVであるため3列目はエマージェンシーの役割が強いが、それでも使えるシートが増えるのは、ときどき訪れる親・子・孫の3世代での移動の際にも役立つ。ミニバン以外の3列シートを望む人には吉報となるはずだ。
全方位的によくなったPHEV
最大の目玉であるPHEVは従来同様、前後の駆動輪それぞれにモーターを備えたツインモーター4WDとなるが、やはり全面的な進化を遂げている。
性能面ではフロントモーターの出力を+25kWの85kWに向上。リヤモーターは+30kWの100kWまで高めた。駆動用リチウムイオンバッテリーの容量は+6.2kWhの20kWhに。発電に必要なエンジン用の燃料タンクも+9Lの56Lに拡大した。これらの進化により、日常でEV走行できる領域(バッテリーに溜めた電力を使って走行できる航続可能距離)と無給油での航続距離が拡大。より遠くに出かけられるPHEVになった。
エンジンの排気量は2.4Lで従来型と同じだが、こちらも改良済み。エンジンの役割は発電が基本だが、状況に応じてエンジン+モーターアシストで前輪を駆動するなど、エンジンの強みも最大限活用できるシステムとなっている。ちなみに、EV走行時の航続距離は83km~87km(WTLCモード)。ハイブリッドモードでの燃費消費率は16.2km/L~16.6km/L(WLTCモード)となる。
PHEVの特徴である充電方法は3つに対応。200V15Aの普通充電だと満充電まで約7.5時間を要する。急速充電は出力により時間が異なるが、今後の拡大が見込まれる高出力タイプの例として、105A以上のものであれば約38分で80%までチャージできるそうだ。エンジンによる発電なら、停車状態であれば約94分で80%の電気を蓄えることができる。
エンジンによる自己充電モードが最も活躍するのが、外部への給電にクルマを利用するときだ。アウトランダーは最大出力1500Wの100V電源を車内2カ所に設置しており、家電をつなげて利用することができる。災害時には、車両から住宅などに電気を供給することも可能(※用設備が必要)。V2H充放電器を通じて、ガソリン満タン状態で最大約12日分(約10kW/1日で算出)の電力を供給できるという。
日本市場における新型アウトランダーはPHEVに集約され、ガソリン車は廃止となる。しかし、従来型でもガソリン車を選ぶユーザーの割合はかなり少なかったらしく、モデルライフ後期にはPHEVに一本化されていたので、日本での展開に変化はないといえる。やはり、新型で7人乗りが選べるようになったことは朗報だ。新型のグレードは上から「P」「G」「M」の3種類。価格は462.11万円~532万円で、従来型の436.48万円~529.43万円とあまり変わらないのも嬉しい。最大のライバルといえるトヨタ「RAV4 PHV」も同等の価格だが、7人乗り、急速充電、V2H対応などの強みがあるので、お得感もある。
日本で買えるPHEVは今のところ選択肢が少なく、買いやすい国産車となるとより限定されるのが現状。新型アウトランダーPHEVの登場を待ちわびていた人は多いはずだ。まだアナウンスはないが、日産のエクストレイルも新世代に進化すれば、ハイブリッド機能の強化やPHEVの登場が期待できる。そうなれば、三菱にとってはアライアンス内での戦いとなるが、アウトランダー独自の強みがどのように市場から評価されるのかが気になるところ。そして何よりも、アライアンスモデルたちに三菱がどんないい影響をもたらすかにも注目している。