ひとくちに「カレー」といっても、欧風カレー、インドカレー、タイカレー、スープカレーなど、種類は実にさまざま。なかでも近年注目されているのが「スパイスカレー」です。おいしいカレーとスパイスの関係は? 従来のカレーとスパイスカレーの違いとは?

  • 「毎日カレー生活」の男が"スパイス"の沼にハマった理由-食材の"らしさ"を増幅させる魔力!とは?

毎日カレーを食べ続けること15年目、その生活を綴ったSNSが人気の南場四呂右さんに、スパイスとカレーの魅力についていろいろ話をうかがいました。

Q.そもそも「スパイスカレー」の定義って?

実は、「スパイスカレー」という言葉自体がまだまだ未熟で、共通認識が確立していません。定義はマニアの間でも錯綜しています。私の理解で答えると、「スパイスカレー」という言葉は次の2つの意味を持っていると思います。

1.2010年代に大阪でムーブメントが起こったスパイスカレー。日本の家庭や給食で出るようなカレールウを使ったカレーではなく、インド料理やタイ料理などの外国料理のカレー的なものでもない、スパイスを使ったいわば「第三のカレー」的なもの。

2.カレールウを使わずスパイスを使ったカレー料理全般の総称。ルウとは小麦粉とバターを炒めたもので、これにカレー粉を加えたものがカレールウ。

最近は2.の認識が一般的だと思います。インドカレーやタイカレーも含まれるし、大阪発のスパイスカレー、スープカレーなども含まれると、私は理解しています。もはや範囲は無限大で、スパイスを使った料理を作り手が「カレー」と呼んで提供したら、何でも「スパイスカレー」といえてしまう気がしています。

スパイスカレーはさまざまなスパイスと具材が織りなす、多様でつかみどころがない料理。でも、つかみどころがないというのは、どこもかしこもつかみどころだらけという見方もできる。それこそがスパイスカレーの魅力だと思います。

作り手個人個人の辿った道筋、解釈で「カレー」ができあがっている感じ。もはやスパイスカレーは自己表現になり得るといっても過言ではないと思います。

  • 「カレーと言った場合は、日本の家庭や給食で出るようなカレールウを使ったものが一般的。そうじゃないカレーの総称がスパイスカレーという感じ」(南場さん)

Q.南場さんがスパイスの世界にハマった理由は?

十数年前、夏バテした時に当時のバイト先の近くにあったカレー屋さんに、1ヵ月半くらい通ったのがきっかけです。翌年、毎日カレーを食べる生活を綴ったブログ「365カレー」を始めました。当初は「毎日カレーって決めちゃえば何を食べるのか考えなくていいし、ネタになるじゃん」というノリ。ハマったのは、スパイスカレーとの出会いが大きかった。当時、他に仕事を持っていたのに、好きな店でバイトを始めてしまったほどでした。

スパイスの魅力は、「その食材の『らしさ』を増幅させる」力があるという点です。スパイスをうまく使うと食材がよりおいしくなる、それが、スパイスカレーにハマった一番の理由です。

スパイスって、そのまま口に含んでも、「おいしい!」とは言い切れないものがほとんどです。油や他の食材と一緒になったり、加熱されたりすることで、その魅力が発揮されるものなんです。スパイスを巧妙に操れるシェフには敬意を覚えますし、スパイスを上手に使って調理されたカレーを食べると感動します。

  • 「市販のカレールウを使った日本のカレーライスも好きですが、食材の『らしさ』を引き出すというより、すべてをカレーの香り、味で包み込んでしまうような気がします。それが悪いとか嫌いとかいうわけではなく、スパイスカレーの魅力を語る上で、この違いは重要なポイント」(南場さん)

Q.「自分でも作ってみたい」という初心者におすすめのスパイスは?

■スパイスカレーにおすすめの基本スパイス5点

●コリアンダー(コリアンダーシード)

カレーの香りの一部ともいえる、ちょっと柑橘っぽい爽やかな香り。単体で使っても、ちょっと入れ過ぎたりしても、そこまで大変なことにはならない平和的なスパイスだと私は思います。

●クミン

カレーらしい香りを担う代表的なスパイス。ホールでも比較的扱いやすいと思いますし、カレー以外で単体で使う場合も使い勝手がいいです。加熱を控えめにして使うと、どこか紫蘇のような酸味を感じさせる風味があったりもします。

●ターメリック

単体で加熱せずに嗅ぐと土臭いのですが、カレーに欠かせないスパイスのひとつといっていいでしょう。入れ過ぎには要注意。黄色く色づけする用途が強調されることが多いですが、加熱した時の香りも重要な役割を果たしている気がします。

●レッドチリ(赤唐辛子、鷹の爪)

一番の用途は辛味をつけること。辛味の種類として、ホットな辛味と表現されたりします。赤っぽく色づけすることもでき、香りもいいです。「辛いのは苦手だけど香りだけほしい」という場合は、パプリカパウダーがおすすめです。

●ブラックペッパー(黒コショウ)

シャープな辛味づけができ、レッドチリと組み合わせることで辛味の幅が広がります。カレーを煮込む前に入れると、口に入れた時にシャープな辛さと奥の方で爽やかな香りが漂います。食べる食前に入れたら、爽やかな香りが前面に立ち、辛味も鮮明になります。

  • (1)コリアンダー (2)クミン (3)ターメリック (4)レッドチリ (5)ブラックペッパー

■カレーの香りに幅広さや奥深さを加える3点

●シナモン

甘い香りのスパイス。お菓子等でも使われるので知名度は高めだと思います。カレーでも奥深い香りを演出してくれます。

●カルダモン

本格的なカレーだと小指の爪くらいの大きさの粒のまま出てくることがあります。かじると口の中がカルダモンの香りに支配され、少なからず苦味もあるので、苦手という人もいらっしゃると思いますが、爽やかで品のいい香りです。

●クローブ

スパイシーでちょっと苦い感じの香りと、バニラっぽい丸く甘い感じの香りが両方ともあるのが特徴。使い過ぎると苦味が出てしまうことがありますし、単体だと特徴的過ぎるかもしれません。

  • 「私が好きなスパイスはブラックペッパーです。使い道が多いですし、入れるタイミングや量で違う表情を見せてくれる。知名度が高くて優秀なスパイスなのに、家庭のキッチンにもカレーの中にもラーメン屋のカウンターにもさりげなくいてくれる存在感も素敵だと思います」(南場さん)