コロナ禍によって、私たちの生活は大きく変化し、当たり前が当たり前でなくなる経験をしました。働き方、人との関わり、家族との関係などを見直すことになり、「幸せとは何か」と改めて考えた人も多いのではないでしょうか。

今回、ご登場いただくのは、幸福学研究の第一人者である前野先生。幸せになるための生き方、そして自転車と幸せの関わりについても考察していきます。

  • 幸せになるための「近道」とは?(1)

●教えていただく先生
慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科
博士(工学)前野 隆司 教授
東京工業大学卒、同大学院修士課程修了。キヤノン株式会社勤務、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、ハーバード大学客員教授、慶應義塾大学理工学部教授などを経て、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。

前編のお話

  1. お金がたくさんあれば幸せ。ではない?!
  2. 幸福が長続きする非地位財と長続きしない地位財。
  3. 前野先生が分類した、幸せになる4つの因子。

――先生、幸福について考えるにあたり、まずはお金や社会的地位が幸せとどう関わっているのかを知りたいです。

お金がたくさんあるほど幸せ、地位が高いほど幸せ、と多くの人が思いがちだと想像しますが、実はそうだとは言い切れないのですよ。

――そうなのですか? お金は特に幸せに直結するものだと思っていました。

内閣府による生活満足度と一人あたり実質GDP(国内総生産)の推移を見ると、GDPは1981年から2000年代にかけて右肩上がりの上昇をたどり、日本人の生活は年代を追うごとに豊かになっていることがわかります。しかし、生活満足度はGDPに比例せず、横ばい傾向にあるという現象が出ています。

――つまり、生活は豊かになっているのに、生活に満足しているわけではないと。

そうです。このデータからも所得や社会的地位がダイレクトに幸福につながるものではないことがわかります。この所得などの地位財は、他者との比較によって満足を得やすく、幸福感が長続きしにくい傾向があります。幸せを感じる尺度が外部にあるということですね。その一方で健康や愛情、自由、社会への帰属意識などの非地位財は、個人の安心・安全な生活のために重要なもので、他者と比較せずとも幸せを感じられ、幸福感が長続きしやすいと考えられます。

――健康や愛情などは、自分の中の基準に委ねられるため、幸せとして持続しやすいのですね。

そのとおりです。他者の状況に一喜一憂して振り回されることはありませんからね。このような幸福につながる要因には一体何があるのかを探り、幸せのメカニズムを解明したいと考えたのが私の取り組んできた幸福学研究です。主には1,500人へのアンケート結果をもとに因子分析を行い、その結果から幸福に影響する要因を4つの因子として体系化しました。

――その4つの因子を意識することで、幸せになれるのでしょうか?!

指針として意識や行動に取り入れてもらえると、何かが変わる可能性が高まります。幸せとは自らの意志でコントロールできる。そう思うことで、漠然とした幸せを客観的に理解し、実感としてつなげてもらいたいですね。 ――では早速、幸せになるための4つの因子について教えてください。

まず1つ目は夢や目標、やりがいをもち、それらを実現しようと成長していく「自己実現と成長」因子。一言で表すと「やってみよう」因子です。これは自分の個性を社会で生かしながら、「やりたい・なりたい」をかなえていき、充実感のある成長を得ることを表しています。お金や地位を目標にせずに、自分を社会の中で成長させることで幸せを得ていくというものです。

――自分のやりたいことが社会のためになると、幸せを感じられそうですね。では第2の因子は?

2つ目は多様な人とつながりを持ち、人を喜ばせたり感謝や愛情、親切の要素からなる「つながりと感謝」因子です。つながりについてはいろいろな職業・年齢・性格の友人がいる人の方が、そうでない人よりも幸せという傾向があります。社会貢献活動に関わっている人の幸福度が高いという内閣府の調査結果もあり、誰かのために何かをする関係づくりが、幸せとして自分に返ってくるのだと考えられます。

――生きていく上で、やはり人とのつながりは欠かせないと感じます。それでは第3の因子をお願いします。

3つ目は自己肯定感が高く、いつも楽しく笑顔でいられる「前向きと楽観」因子。楽観的で気持ちの切り替えが上手く、外向的で出来事をポジティブに解釈するなど、どんな状況にも最終的には「なんとかなる」と感じられる方が幸福という考えです。怒りやイライラに支配されそうになったら、自分が置かれている状況を客観的に見つめ、感情の原因をどう対処するかを考えると気持ちが切り替わりやすくなります。

――なるほど。この3つ目は負の感情がわいたときに意識してやってみたいです。では最後の4つ目の因子は?

他人と比較せずに自分らしくやっていける「独立とマイペース」因子です。自分は自分と考え、目標に向かって淡々と進めていけるタイプ。この因子を実践するには、自分の軸を明確にして、誰にでも心を開くことのできるオープンマインドが重要になります。恥ずかしさにとらわれず、自ら楽しもう、面白がろう、やる気を出そうと率先して取り組んでいくことで、自分らしいやり方を確立できます。

――幸せになるための4つの因子は少しずつでも取り入れていきたい内容でした。後編では前野先生と一緒に自転車が幸せとどのように関わるのかを考えていきます。

※この記事は「Cyclingood(サイクリングッド)」掲載「幸せになるための「近道」とは? (1)」より転載しています。