JR東日本千葉支社は10月2・3日の2日間、両国駅西口にて「ちばトレインフェスティバル」を開催した。同愛記念病院(両国駅から徒歩7分)監修の下、エリアごとに手指消毒・検温を実施し、密を避け、来場者・出展者全員が不織布マスクを着用するなど、感染症対策を徹底した上で開催。イベントは盛況で、コロナ禍以前の鉄道イベントのにぎわいが少しだけ戻ってきたようにも感じられた。
「ちばトレインフェスティバル」では、普段立ち入ることのできない両国駅3番線ホームに車両が展示された。1日目のE257系5500番台に続き、2日目は185系を展示。多くのファンらが見学した。
■6両編成の185系、「はまかいじ」ヘッドマークで登場
10月3日、両国駅に展示された185系は、大宮総合車両センター所属のB6編成(6両編成)。車両番号は1号車(千葉方)から順に「クハ185-212」「モハ184-224」「モハ185-224」「モハ184-223」「モハ185-223」「クハ185-312」だった。波動用の車両のため、グリーン車は連結されていないが、国鉄特急のシンボルマークが前面窓下に取り付けられ、新型車両とは異なる風格がある。
185系は1981(昭和56)年に登場。特急列車から快速・普通列車まで幅広い運用に対応できるように設計された。同年10月から特急「踊り子」として運行を開始している。最初は東海道本線に0番台が導入され、翌年、高崎線・上越線に寒地向けの200番台が導入された。
車体前面のヘッドマーク、車体側面の種別・行先表示はともに幕式。今回のイベントでは、横浜市内から横浜線経由で松本駅まで運行していた臨時列車の特急「はまかいじ」のヘッドマークを掲げ、行先は「松本」と表示されていた。展示されたB6編成は200番台で、ヘッドマーク下のタイフォンが耐雪カバーで覆われている。特急「踊り子」や「湘南ライナー」で活躍した185系には0番台のほうが多いが、0番台はタイフォンカバーがメッシュ状になっている。
200番台は登場当初、車体前面のヘッドライトから車体側面の窓下にかけて緑色のラインを入れたデザインだったが、展示されたB6編成は0番台と同様、車体側面に緑色の斜めストライプ3本が入ったデザインになっていた。185系といえば、過去に緑色・オレンジ色またはグレー・赤色・黄色の組み合わせでブロック状の塗装とした編成や、湘南色・国鉄特急色のリバイバルカラーを施した編成なども見られたが、近年は緑色の斜めストライプが入ったデザインに統一され、定期運行終了を迎えた。特急「踊り子」などでおなじみのカラーリングで、「185系といえばこの色」と思い浮かべる人も多いのではないかと思う。
車内にはダークグリーンのクロスシートが並ぶ。国鉄時代の登場当初は転換クロスシートだったとのことだが、JR発足後に内装を変更し、リクライニングシートが導入された。今年3月まで、特急「踊り子」に185系が使用され、ゆったり腰掛けつつ、相模湾を眺めながら東京~伊豆急下田・修善寺間を行き来できた。まだまだ記憶に新しい。
185系の乗降ドアは片開きだが、他の特急用車両と比べてドアの幅が広い。185系は特急列車だけでなく、快速・普通列車など幅広い運用に対応できるように設計されたため、片側2ドアながら幅の広い乗降口が設けられていた。
定期運用を終えた車両で、かつ首都圏で見られる最後の国鉄特急形電車ということもあってか、185系が展示された両国駅3番線ホームは1日目をはるかに上回る来場者で活気にあふれていた。「ちばトレインフェスティバル」の開会に先立ち、改札内にはすでに長い待機列ができていたほどだ。
ホームへの入場開始後、両端の先頭車両はあっという間に人気撮影スポットとなった。とくに千葉方の先頭車付近は混雑のため、後に待機列が形成された。1日目と同じく、1・2番線では中央・総武線(各駅停車)の列車が通常通り運行され、中央・総武線の列車と185系を同時に写真に収める人も多く見られた。一方で、車両にはこだわらず両国駅3番線ホームを見学する人、185系の車体側面を撮る人などもいた。
JR東日本のECサイト「JAE MALL」千葉支社店にて有料プランも販売され、購入すると事業用車両の撮影、185系の車内見学と乗務員室での記念撮影、車内メロディ操作体験、車内放送体験のいずれかひとつを体験できた。記念撮影では、車掌のように窓から顔を出し、満面の笑みで撮影する人の姿も。車内では他の人が体験を終えた際、拍手を送る場面も見られた。
■「鉄道の安全・安心を語る」ステージイベントも
「ちばトレインフェスティバル」では、他にも物販エリアを2カ所設けた上での物販や、鉄道好き芸能人らによるステージイベントなどが実施された。
物販は両国駅西口駐車場の「物販エリア1」、両国駅裏の「物販エリア2」に分かれており、「物販エリア1」では千葉県内の鉄道事業者を中心にブースが並ぶ中、JRバス関東や千葉県の物産品など、鉄道事業者以外の出展も見られ、そこでお土産を買う来場者の姿も見られた。鉄道写真家・中井精也氏による「ゆる鉄画廊NOMAD」も「物販ブース1」に出展し、中井氏の目と技術で切り取った魅力的な鉄道風景に足を止める人が多かった。
2日目は鉄道グッズオークションも開催された。ステージ後方、会場本部前に、出展事業者の出品と入札金額が掲示され、支払金額を記入し、それぞれの投票箱に投函する方式で、13時に開示され、当選番号が掲示された。
「物販エリア2」では、JR東日本千葉支社・水戸支社をはじめ、鉄道事業者のブースが並び、こちらも1日目と変わらず活気にあふれていた。テントを設けた上で対面形式の物販ということもあり、どちらの物販エリアも来場者から事業者へ直接応援メッセージを送る場面が見られた。
さらに、CS日テレプラスで放送中の番組『鉄道発見伝』も出展しており、番組オリジナルグッズや、トークショー出演者の吉川正洋さん(ダーリンハニー)、岡安章介さん(ななめ45°)、南田裕介氏(ホリプロマネージャー)、田中匡史氏(『鉄道発見伝』番組ディレクター)の考案したグッズが物販に並んだ。ステージイベントの合間に出演者もブースを訪れ、ソーシャルディスタンスに注意しつつ、こどもたちとの記念撮影にも快く対応した。
「物販エリア1」前の特設ステージでは、1・2日目ともに出展鉄道事業者によるPRやトークショーなどが進行していた。その中から、両日開催された音楽ステージを観覧。ヴァイオリン奏者の小池彩夏さん、高橋輝さん、チェロ奏者の佐藤慧さんを迎え、JR東日本千葉支社総務部広報グループに所属し、ヴィオラ奏者としても活躍する金光恒治氏と弦楽四重奏を演奏した。
披露された6曲の中には、鉄道に関係のあるクラシックもあれば、「銀河鉄道999」や首都圏JR各線の発車ベルメドレーなど、さまざまなジャンルから選ばれていた。とくに発車ベルメドレーでは、聞き覚えのある曲が耳に入った瞬間、曲名や流れる駅・路線が思わず声に出た人も。ヴァイオリンのメロディをヴィオラとチェロが支えつつ、ときにのびやかに、ときに軽やかなハーモニーが両国駅西口に響き渡った。
また、1日目のプログラムだが、「鉄道の安全・安心を語る ~東日本大震災・令和2年7月豪雨から学ぶもの~」も紹介したい。このステージでは、2011年の東日本大震災、2019年の台風15号・台風19号、2020年の「令和2年7月豪雨」で甚大な被害を受けた鉄道事業者として、三陸鉄道運行本部長の金野淳一氏、JR東日本千葉支社・習志野運輸区副区長の山根慎太郎氏、くま川鉄道社長の永江友二氏をゲストに迎え、当時を振り返った。
登壇した3社はいずれも『鉄道発見伝』で取り上げられたことがある。山根氏からは、番組内で取り上げられた者同士でつながりができ、各社助け合っているという話もあった。一例として、金野氏と永江氏によれば、くま川鉄道の被災後、三陸鉄道からすぐに連絡があり、被災した立場からのアドバイスや心配の声があったとのこと。若桜鉄道からも、くま川鉄道に応援が駆けつけ、被災した気動車のうち1両のエンジン起動に成功した。取材後に事業者同士のつながりが広がったこともあり、『鉄道発見伝』は衛星放送協会オリジナル番組アワード編成企画部門の最優秀賞を受賞している。
番組ディレクターの田中氏は、豪雨後に人吉駅へ取材に訪れた際、鉄道に厚い地域なのに列車の音が一切聞こえなかったことに恐怖を覚えたと話す。そのことを踏まえ、電車が走るという当たり前のことが奇跡だということを出演者・来場者ともに再確認した。番組を通じた鉄道会社同士のつながりと、衛星放送協会アワードの受賞を受け、サプライズで田中氏と南田氏に感謝状が贈られた。
「ちばトレインフェスティバル」の開催にあたり、同愛記念病院の監修の下、全員が不織布マスクを着用し、各エリアで入場時に検温・消毒を実施。ソーシャルディスタンスを守り、大声での会話をしないことで、出展者・来場者ともに感染症対策に協力しながらイベントが進行した。ステージイベントでは、ステージと観覧席との距離を十分に空け、出演者同士はアクリル板で隔て、マイクを通した会話によって対策を取っていた。
新型コロナウイルス感染症の影響で、会場を設けての鉄道イベントの開催はしばらく困難とされていたが、「ちばトレインフェスティバル」では感染症対策を徹底することで、コロナ禍以前の鉄道イベントのにぎわいが戻ってきたように感じられた。今後も感染症対策を継続しつつ、鉄道イベントの活気や、利用者と事業者の交流が徐々に復活していくことを願っている。