伝家の宝刀(でんかのほうとう)とは、ここぞという場面での切り札を指します。漫画やアニメで使われやすい表現ですが、日常の場面でも使える便利な言葉です。
この記事では伝家の宝刀の意味や使い方などを解説します。また、類語や英語表現についてもまとめたので正しく理解し使いこなせるようになりましょう。
伝家の宝刀(でんかのほうとう)の意味
伝家の宝刀とは「いざという場面のみ使用する切り札」のことです。ここ一番という重要な場面でしか使わない手段を表します。または文字の意味通り、「その家に代々伝わっているような家宝の名刀」のことです。
伝家の宝刀は「家伝の宝刀」ともいいます。ただし、誤用されやすい「天下の宝刀(てんかのほうとう)」という表現は間違いです。「天下」には全世界という意味があり、世界的な宝刀という意味で使われてしまう場合がありますが、実際には存在しない表現です。
正しい表現は伝家の宝刀であり、天下の宝刀と間違って使わないようにしましょう。
いざというときの切り札
伝家の宝刀はここぞという場面の切り札の意味であり、肝心な場面や重要な事態でのみ出す手段を表します。
そのため、頻繁に用いられたり、困ったら頼る手段として毎回使われたりする場合は、本来の意味から考えると適切ではありません。「いざという場合」という最終的に使わざるを得ない場面という前提があることを覚えておきましょう。
例文としては、「交渉が上手くまとまらないので、伝家の宝刀として頭を下げて相手の情に訴えた」と伝家の宝刀の中身を説明する場合や、「問題は起きたが、まだ伝家の宝刀が残っている」「いよいよ伝家の宝刀を使うときが来てしまった」と明確な説明をしない使い方などがあります。
また、野球の世界では投手の最も得意な変化球を伝家の宝刀と呼ぶ場合もあります。打者が打ちにくいような三振の決め手となる変化球のことです。
伝家の宝刀の由来
伝家の宝刀の「伝家」とは、先祖代々伝わっていることを指します。そして「宝刀」は代々伝わる名刀やいざという場面に以外には滅多に使わないもののことです。つまり、伝家の宝刀の本来の意味は「その家に代々伝わる名刀」です。
武士の時代では刀は命を守る大切な道具でした。日頃から使っている刀は使用していくうちに脆くなっていくため、伝家の宝刀とはいえません。しかし、家宝として受け継がれてきた名刀は、日頃持ち出すことはなく、大切に扱われてきました。命を懸ける戦いや重要な場面で使われていたのです。
現代では一般の人にとって、昔の人が思っていたような価値は刀になくなり、代々伝わるような刀は受け継がれていません。そのため、伝家の宝刀はいざという場合のとっておきの手段の比喩表現として、意味が転用されるようになったようです。
伝家の宝刀の英語表現
伝家の宝刀の英語表現は「Play one's trump card.」です。カードゲームのトランプで遊ぶという表現を、最後の手段やとっておきの切り札という意味で使います。
日本語のように、代々受け継がれる宝刀の比喩表現というニュアンスは含まれていません。
伝家の宝刀の使い方
伝家の宝刀はどのように使うことができるのか例を用いて解説します。正しい使い方を知っておきましょう。
伝家の宝刀を抜く
いざという場面で切り札として伝家の宝刀を使うときは「伝家の宝刀を抜く」と表現します。語源である代々受け継がれてきた家宝の名刀を抜いて戦いの場に出向くことから、「抜く」という表現が使われるようになりました。
伝家の宝刀を取り出す場面での表現です。ほかにも「伝家の宝刀を使う」「伝家の宝刀を取り出す」という表し方も間違いではありません。
伝家の宝刀が手段を表す場合
伝家の宝刀の意味合いは幅広く、手段や動作に対しても使えます。日常生活において、毎回の決め技や得意な手段に対しても使われることがありますが、厳密には「いざという場面」ではないため、適切ではありません。
類語の必殺技やジョーカーは主に技術や人に対して使われる表現です。伝家の宝刀を手段や動作として使う場合は、対象にも気をつけましょう。
伝家の宝刀の類語
伝家の宝刀は肝心な場面に取り出す手段を表す比喩であるため、同じような意味の言葉は他にもあります。ここでは、伝家の宝刀の類語を紹介します。
奥の手
奥の手とは「容易には人に見せない最後の手段や極意」のことです。まず先にさまざまな手段や策を試して、それでも現状を打破できない場合に持ち出す最終的な方法を表します。威力のある次の手段として「奥の手を出す」とも表現します。
奥の手とは古くは「奥」のことを左と表したことが由来です。一般的な利き手の右よりも左手の方を大切にしていたことから、最後の手段という意味となりました。
必殺技
必殺技とは「必ず効果があると期待できる技術や武器、技」のことです。使うと大きな威力を持ちますが、伝家の宝刀とは異なり、必ずしも最後の手段ではありません。
スポーツやゲーム、漫画などでよく使われる表現です。敵とされる対象の相手に、大打撃を与えるような威力を持つ技法を指します。文字通りに相手を必ず殺す技という意味に限らず、あくまでもとっておきの技のことです。
最終兵器
最終兵器とは「切り札のような兵器」のことです。とっておきの最後の有力な切り札という意味を表します。
また、人類を滅亡させるような兵器のように極端で強烈な表現として使われる場合があります。
ジョーカー
ジョーカーとは「切り札として使える手段」のことです。由来はトランプに含まれているマークや数字を持たない例外的な役割のカードであるジョーカーからきています。
トランプのジョーカーはゲームの中で最高の手札となったり、どの札にも代用できる札として使われたり、強い切り札としての効果を持ちます。そこから意味が派生し、切り札の意味をもつ伝家の宝刀の言い換えとして使われる言葉です。
また、サッカーの世界では、スタメンではなく途中出場で勝敗を決める役割を担う選手をジョーカーと表現する場合があります。
伝家の宝刀の対義語
伝家の宝刀と真逆の意味を持つ言葉はありませんが、切り札を使えない状況を意味する言葉は存在します。対義語として覚えておきましょう。
万事休す
万事休す(ばんじきゅうす)とは「できることが尽きて全てが終わりになること」です。思いつく限りの策をもっても、全く見込みがない状況のことをいいます。
万事窮すという表現は間違いなので注意しましょう。
絶体絶命
絶体絶命(ぜったいぜつめい)とは「切羽詰まったような逃げられない立場に追い込まれること」です。苦境に立たされてどうしようもない状況を指し、ときには身体や命が危ないという意味にもなります。
誤用しやすい「絶対絶命」は漢字が異なるため、使う際は間違えないようにしましょう。
伝家の宝刀はとっておきの切り札を表している
「伝家の宝刀」はいざという場面の切り札のことです。武士の家系に代々受け継がれてきた家宝の名刀は、大事な場面以外で滅多に使われなかったことから意味が派生し、現代ではここぞという場面の策や手段を表すようになりました。
「伝家の宝刀」は誤用表現に「天下の宝刀」がありますがこれは間違いです。さらに、日常的に使う手法は伝家の宝刀とは呼びません。滅多に見られないことから、いざ出したときに価値が保たれるわけです。伝家の宝刀の使い所を間違えないようにしましょう。