アーティストの森口博子がデビュー35周年イヤーに記念アルバム『蒼い生命』をリリース。本アルバムには、『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』などを手掛けた神前暁とのコラボ曲や、デビュー曲でもあるTVアニメ『機動戦士Zガンダム』OPテーマ「水の星へ愛をこめて」の「森口博子35人アカペラヴァージョン」などが新録されている。そんな本アルバムの聞きどころ、そして「歌」と「絆」と共に駆け抜けてきた35年の想いを彼女へ聞いた。
●すべての方々に感謝を
──デビュー35周年記念アルバムの発売おめでとうございます。
ありがとうございます。4歳の頃から歌手になりたいと思い、17歳でデビュー、そして35年も歌手として生かしていただけたことが嬉しくて仕方ありません。それもこれも、私の歌声を必要としてくれるファンのみなさん、この厳しい業界を一緒に戦い、支えてくださっているスタッフのみなさんや家族・友人のおかげ。すべての方々への感謝の気持ちでいっぱいです。
──いろいろな人に支えてもらったから、35年続けてこられた。これまでの活動のなかで印象に残っていることは?
かつて堀越学園卒業間近に、一度リストラ宣告にあって歌手としての活動が危ぶまれたときもありました。でも、「どんな仕事でも頑張ります」と事務所にお願いをして、バラエティ番組の仕事に挑戦することになりました。そうしていくうちに、劇場版のアニメ『機動戦士ガンダムF91』の主題歌のお話をいただいたんです。おかげ様でオリコンウィークリー初のベスト10入り、NHK紅白歌合戦、全国ツアーと繋がって、私のやりたいことをスタッフのみなさんがつないでくださったんですよね。そして、ファンのみなさんが歌っている私の姿を見て「感動した」「鳥肌が立ちました」と言ってくださった。その声が何よりの原動力になりました。
──歌手を目指していたけど仕事はバラエティ方面に舵を切った。そのことに抵抗はありましたか?
どちらかというと、事務所の組織表から除籍されているのを見たショックのほうが大きかったですね。色々なことをやって結果が出なかったのなら「そうだよね」と納得できます。私は、『機動戦士Zガンダム』のOP「水の星へ愛をこめて」でデビューして、その楽曲はスマッシュヒットを飛ばしたんですけど、事務所には「もうお役御免」という空気が漂っていたんです。
──ヒットを飛ばしたのに、なぜ……。
その理由は同じ事務所に同期のアイドル、松本典子ちゃんがいたからです。当時は1プロダクションにつき1アイドル推しという時代だったので、同じ会社にアイドルの同期ふたりがいることがほぼあり得なかったんですよ。
──なるほど……そういう時代だったんですね。
そういった大人たちの都合には抵抗がありました。それでも、夢であった「歌うこと」は諦めたくなかったんです。だから、とにかくバラエティなどの仕事をして顔や名前を覚えてもらい、自分の夢につなげようって気持ちで、がむしゃらに頑張りました。
──どんなことをしてでも、夢を諦めなかった。その気持ちはどこからきていたのでしょうか。
はい。常に食らいついていくスピリッツは母親譲りかもしれないですね。私が小学2年生の頃かな。母はひとりで4姉妹を育ててくれたんです。大変なことばかりだったと思いますけど、弱音を吐くことはありませんでした。そんな母の背中を見て、自然と諦めない精神がDNAに刻まれたんだと思います。
●母から学んだこと
──出会いや支えはもちろんですが、その諦めない精神も長く続けてこられた理由かもしれません。
続けていれば必ずチャンスがあると思っています。自分の本位じゃないジャンルだとしても続ける。「この仕事を絶対歌につなげる」と思って活動してきました。「つなげたい」じゃなくて「つなげる」。母はいつも「なりたい自分をイメージしてから寝なさい」と言っていましたそして、「そのために今やっていることは、ぜんぶがチャンスだから」と激励もしてくれました。それが根拠のない自信となり、プラスに働いたんだと思います。
──35年続けてこられたもうひとつの理由は、歌が好きという気持ちがずっとあったからなんだろうなとも思いました。
本当にそうですね。中学生のころに発疹と高熱が出て病院に行ったら、風疹と診断されたんです。家で安静に寝ていなきゃいけなかったのですが、私は起き上がって、松田聖子さんの曲を熱唱していました。ふらふらになりながらも。とにかく歌いたかったんです(笑)。そのとき、私はどんな状況でも歌いたい、歌だったら歌える人間だと思ったんです。
──逆に、歌ったことで辛さなどを乗り越えられたのかもしれません。
確かに、歌っていたらぜんぶ忘れられたんですよね。家庭環境も少し複雑で大変でしたけど、私が歌うと家族は笑顔になってひとつになるし、学校のお楽しみ会などで歌ったら友達が喜んでくれました。どんなときも歌が私を助けてくれたんです。歌という夢が私を後押ししてくれました。夢の力ってすごいですね。