――初期の『仮面ライダー』では、藤岡さんが主題歌「レッツゴー!ライダーキック」を歌っていたのが印象的でした。それまでに、レコードを吹き込まれた経験はあったのですか?

スーツに入ってアクションをやったのと同じく、歌も初めての挑戦でした。最初は「歌なんか歌えないなァ」なんて思っていたんですが、作曲家の菊池俊輔先生に「君なら歌えるよ」と励まされて、よし、やってやろう!と思って収録に臨みました。ウエスタン調のカッコいいメロディで、新しい感覚の歌だなって思いましたよ。テクニックも何もなくて、純粋なあの当時の私の歌声ですよ。今、流されたりすると恥ずかしいなと思うんですが、あのころを思い出すよいきっかけにもなりますね。

――『セイバー+ゼンカイジャー スーパーヒーロー戦記』には、仮面ライダー1号を原点として、後にぞくぞく登場する仮面ライダーたちが勢ぞろいする場面があります。後輩ヒーローがあんなにたくさん誕生しているとは、実際にその数を目の当たりにしたとき、改めて実感されるのではないですか。

まさに壮観でしたね……! こんなにもたくさんの仮面ライダーが存在するのかと、驚きを感じました。私が現場に入ると、あれだけの仮面ライダーたちが一斉に私のほうを向いていて、たくさんの視線を感じるんです。あれはすごい体験でした(笑)。

――1998年に惜しくもこの世を去られた石ノ森先生ですが、常に画期的なヒーローを生み出そうと試みる後継者の方たちにより、平成~令和と続く新世代の仮面ライダーシリーズが生まれました。

先生の遺志を継いで、現在も仮面ライダーシリーズがずっと作り続けられているのはすごいことですよね。よくこれだけ、魅力あふれる仮面ライダーを生み出してきたなと、作り手のみなさんのクリエイティブな発想に驚かされます。今や仮面ライダーは日本だけでなく、世界各国にファンがいらっしゃると聞いています。子どものころ、仮面ライダーに憧れて、映像界、メディア界に進みたいと思った人もたくさんいたんじゃないかな。ヒーローが子どもたちに与える影響力は、こういうところにも反映されているんでしょうね。

――藤岡さんが仮面ライダー/本郷猛を演じていたころは爆発的な「変身ブーム」の真っ只中にありましたから、外へ出ているとき子どもたちに見つかったりすると、大騒ぎになったのではないですか。

いつも子どもたちの視線を感じていましたね。外を歩いていても、レストランに入っても、ふと視線を感じるなと思ったら、幼い子どもが澄んだ瞳で私のことを見つめていたりしました。さっきも申し上げましたが、ヒーローの影響力というのはものすごいものがあります。子どもたちにとって、私はいつまでも本郷猛であり、仮面ライダーなんだなって。

あれから数十年の月日が流れても、それは変わっていません。もう立派なオジサンになった方から「藤岡さんにお会いするのが夢でした」なんて言われたこともあります。その方は科学の世界に進まれて、今や「博士」と呼ばれているのですが、「自分は仮面ライダーになりたかったのに、今ではショッカー側のほうですね」なんておっしゃるんですよ(笑)。

しかし、どこでどんな人から注目されているかわからないというのは、なかなか困ったことなんですよ。プライベートに制約が出来てしまいますから。うれしいことではあるんですけれどね。どこで見られているかわからないのならば、常に自分を律して、見られても恥ずかしくないような生き方をしよう。そんな意識を持っております。それが、多くの人々が永遠に愛してくださる仮面ライダー/本郷猛の宿命なのですから。

――藤岡さんの演じられた本郷猛は、憧れのヒーローならではの「近寄りがたさ」や怖いくらいの殺気、りりしさがある一方で、「本郷さん!」と子どもたちが呼べば屈託のない笑顔を浮かべながら駆け寄って来られる優しさや親しみやすさもある、両面を備えているのが魅力なのではないかと思っています。

自分では意識してやっているわけではないんですけれどね。本当に仮面ライダーファンのみなさんは、私に会ったとたん、すごくうれしそうな顔をしてくれますし、親しみを込めて接してくださいます。ファンの世代も幅広いんですよ。なんでこんなに小さな子が、私のことを知っているんだろうと不思議に思ったんだけど、お父さんと一緒にDVDで昔の『仮面ライダー』を観ていたりしてね。ファミリーそろって私のファンでいてくれるんです。また、『仮面ライダー』がきっかけとなって男女が出会い、結婚したなんて話もあって、聞くとおもわずホッコリしますよね(笑)。まさか仮面ライダーが縁結びまでやっているとは……。うれしいことです。

――それにしても、50年の歳月を経てなおお元気で若々しい藤岡さんの不屈の生命力には驚愕するしかありません。どうしてそれほどまでに若く、たくましい状態を維持できるのでしょうか。

いやあ、見た目は頑丈そうに見えるのかもしれませんが、若いころのダメージを抱えていて、満身創痍の状態ではあるんですよ。声を大にして言わないだけでね。左脚の骨がバラバラに折れて、それを金属でつないでいるため、左のほうが右よりも2~3cm長いんです。そのため、右の靴に下敷きを入れるなどして、流れを調節しておく必要があります。さらに、左右の脚のバランスを矯正するトレーニングを毎日やらないと健康を維持することができません。自分自身が生き抜くため、やっていることですが、いつしかこれが日課になって、意識せず自分を律することにつながっていきました。大怪我というアクシデントも、今となっては感謝の心で受け入れています。私が好きな言葉に「人間万事塞翁が馬」というものがあります。一見不運に見えることが、やがて幸運につながるときもある、という意味なんですが、まさに私の人生に当てはまっています。どんなに不幸な出来事があったとしても、心の持ち方ひとつで今後の人生は変わっていくはずだと……。

――国際ボランティア活動で世界各国の子どもたちを支援してきた藤岡さんは、まさに現実世界のヒーローだといえますね。

結果的にそうなっただけで、私自身は「ヒーローになろう」なんて意識したことはありません。でも、『仮面ライダー』で本郷猛を演じたことにより、自分の中にある善なる部分が拡大していったことは確かです。何が真実なんだろう、大事なこととは何だろうと、探求や挑戦を続けていくうちに、人間の「本質」を見つめる姿勢が身に着いたように思います。

――『セイバー+ゼンカイジャー スーパーヒーロー戦記』でも活躍する仮面ライダーセイバー/神山飛羽真役・内藤秀一郎さんや、ゼンカイザー/五色田介人役・駒木根葵汰さんは、ヒーローの先輩であるだけでなく、人生における大先輩の藤岡さんの話される言葉を素直によく聞き、常に前向きで頑張ろうという姿勢で日々を過ごされているようです。そんな若きヒーローたちに頼もしさを感じることはありますか。

今の若者たちはすごい才能を持っているし、私たち先人の思いをも汲んでくれますね。今の情報過多の時代を生きていて、我々とは違った感性を持っている。私が若かったころは、情報とは自分の足で探さなければならなかった。今は黙っていても、情報のほうからこっちにどんどん入ってくる。こうなると、どの情報を信じればいいのか、信じてはいけない情報は何なのか、選ぶのが大変なんですね。リアルな世界をたくさんこの目で見てきている自分からすれば、これはフェイク情報だから気をつけようと言った感じで、見えてくるものがあります。現代の情報氾濫社会から、善く生きる道をいかにして選び、どのように進めばいいか、たくさん経験を積んで見極めていってほしいと願っています。

――藤岡さんが自らの生き方と信念をお持ちで、「この道をこう進む」と指針を示してくれるからこそ、若きヒーローたちは「藤岡さんの言葉なら信じてみようかな」と思えるのではないでしょうか。先輩と後輩の「幸せな関係」が「仮面ライダー」や「スーパー戦隊」に見られるような気がします。

「仮面ライダー」や「スーパー戦隊」は、純真な子どもたちの心に火をつけて、彼らに「善」や「正義」はあるんだ、「愛」は大切なんだ、「勇気」はどんなときでも持たなくてはいけないんだというメッセージを伝える、大事な存在です。やがて、日本のヒーローに影響を受け、愛と正義と勇気を学んだ子どもたちの中から、全世界の危機を救うリアル(現実)のヒーローが生まれてくるかもしれない。そんなことを考えると、ワクワクするじゃないですか! これからも、ヒーローが悪に立ち向かう物語を永遠に作り続けてほしいですし、ヒーローを演じる若き俳優諸君には、子どもたちに与える強い影響力を忘れずに、一生懸命取り組んでもらいたいと思います。