「結果を出せる人」と「出せない人」どちらになりたいかと問われれば、誰もが間違いなく前者を選ぶでしょう。では、結果を出せる人と出せない人、その両者のちがいはどこにあるのでしょうか。

  • 仕事で「結果を出す人、出せない人」。そのちがいはどこにある? /メンタルコーチ・飯山晄朗

お話を聞いたのは、トップアスリートやビジネスパーソンのサポートを行うメンタルコーチの飯山晄朗さんです。飯山さんは、先の問いに対して、「うまくいくイメージ」を持てていることの重要性を説きます。

■脳はイメージしていることしか実現できない

ものごとを成功に導き結果を出そうと思えば、なにより日頃から「うまくいくイメージ」を持っていることが重要になります。その理由は、「脳はイメージしていることしか実現できない」からです。

このことは、アスリートが世界のトップに立つといった、大きなことの実現に限った話ではありません。日常生活におけるどんな些細なことにもあてはまります。

それこそ、ペットボトルの水を飲むといったこともそう。わたしたちがペットボトルの水を飲むことができるのは、ペットボトルの形状や水というもののイメージを持てているからこそです。どんな力加減でどんなふうに身体を動かせば水を飲めるかがわかっていて、そのイメージどおりに身体を動かすことで水を飲むことができるのです。

逆にいうと、ペットボトルの水や、それを飲むための身体の動かし方というイメージを持てていない人は、その水を飲むことができません。まだ生まれて間もない赤ちゃんは、水を飲むことができないでしょう。それは、ペットボトルというものをまだ知らず、その飲み方をイメージできないからです。

でも、親がペットボトルで水を飲んでいる姿を見るうちに、ペットボトルで水を飲むイメージを持つことができます。それでも、飲もうとしはじめた当初はうまくできないでしょう。なぜなら、ペットボトルで水を飲むイメージは持てていても、そうするための適切な身体の動かし方のイメージを持てていないからです。

赤ちゃんが上手にペットボトルで水を飲めるようになるのは、水を飲もうとする経験を繰り返すことでそれらのイメージを持てるようになったあとのことです。

すべての行動を成功させるためには、それに先行する「うまくいくイメージ」が必要なのです。

「うまくいくイメージを持つといっても、具体的にどうすればいいのか?」と思った人もいるかもしれませんが、これはとても簡単なことです。重要なのは、「うまくいくイメージ」を持つことの重要性を知り、意識的に実践するということです。そして、みなさんはもう赤ちゃんではありませんから、たいていのイメージを持つことができます。

商談が苦手だという人であっても、過去には商談で成功したこともあるでしょうし、先輩が商談をうまくまとめた場に同席したといった経験もあるでしょう。あるいは、テレビドラマや映画のなかでそういったシーンを見たこともあるかもしれません。

いずれにせよ、「商談がうまくいくイメージ」をまったく持てないという人は、それこそ商談というものがなにかを知らない赤ちゃんや子どもでない限り、いないはずです。

しかし、意識して「うまくいくイメージ」を持とうとしなければ、これはなかなか難しいことでもあります。人間の脳は、防衛本能として「成功したことより失敗したことを強く記憶する」という働きを持っているからです。

道路に飛び出して危うく車にひかれそうになった失敗は強く記憶されても、日常のなかで何度となくきちんと道路を渡れた記憶が残らないのも、その防衛本能によるものです。

商談に失敗した経験がある人なら、その記憶が強く残り、商談の前から失敗するイメージを強めます。すると、失敗したときのことばかり考えるために、表情はこわばり、商談相手と気の利いた会話をすることも難しくなる。そんな営業マンに好印象を持つ商談相手はいませんから、その相談が成功する確率は大きく下がります。

だからこそ、失敗するイメージなんて入ってくる余地がないくらいに、事前に強く意識して「うまくいくイメージ」を持つのです。商談の場合なら、「商談後には互いに笑顔で握手をしてハグをしている」といったイメージを持つといった具合です。

すると、商談がはじまるその瞬間から言動が変わります。「商談後には互いに笑顔で握手をしてハグをしている」という成功のイメージを先に持っているのですから、最初のあいさつの段階で自然な笑顔をつくれるはずです。その後も快活に談笑を交えながら商談を進めることもできるでしょうし、そうなると相手に好印象を持ってもらえ、商談が成功する確率は高まります。

これは、実際にやってみればわかることです。ネガティブなイメージでものごとに取り組めば結果を出す確率は下がり、うまくいくイメージを持てば結果を出す確率は間違いなく上がります。スポーツ選手はもちろんのこと、ビジネスにおいても結果を出す人たちすべてに共通していることだと思います。

■うまくいかなかったケースも想定しておく

しかし、一方で「うまくいくイメージ」だけを持っておくことは危険でもあります。あたりまえのことですが、どんなに「うまくいくイメージ」を持っていてもうまくいかないこともあります。商談でも、どれほど相手に好印象を持たれても、条件面で折り合いがつかずに破談に終わることもあるでしょう。

そのとき、「うまくいくイメージ」しか持っていなかったらどうなるでしょうか? 思ったような結果を出せずに落ち込むことになり、そういった精神状態では事態を好転させることなどできません。失敗した結果は変えられないのですから、そこから少しでも事態をよい方向に導かなければなりません。

最近は、ポジティブシンキングやプラス思考が持ち上げられ過ぎているように感じています。ただプラス思考であればいいわけではありません。重要なのは、「うまくいくイメージ」を強く持ちつつも、うまくいかなかったときにどうするべきかというシミュレーションをして、事前に対処法を準備しておくことです。

わたしがサポートしている星陵高校野球部を例に挙げましょう。2014年石川県大会決勝戦でのことです。9回表が終了した時点でチームは0対8と相手に大きくリードを許していました。それでも、選手たちは笑顔で9回裏の攻撃に臨みました。

「どんなに不利な状況になっても、決して諦めずに笑顔で戦い抜く!」というふうに、ピンチにおちいったときの状況を事前に何度もシミュレーションして、対処法を選手全員で共有していたからです。結果は、9回裏に9点を奪っての大逆転勝利でした。

「うまくいくイメージ」しか持っていない人間のことをわたしは「プラス思考勘違い人間」と呼んでいます。「うまくいくイメージ」を持ちつつも、最悪のケースにおちいったときのこともしっかり想定しておく—。それが、「結果を出せる人」です。

■行動を起こさなければ、結果もなにもない

それから、「結果を出せる人」になろうと思えば、「うまくいくイメージ」を持つこととは別に、「自ら壁をつくらない」こともおさえておきたいポイントです。

とくに、いまの若い世代の人たちは、生まれたときからネット社会で育っています。わからないことがあれば、すぐにその場で検索してそれなりの答えを得られる環境でずっと生きてきました。

そのため、なにか自分で興味を持ったことがあっても、ちょっと調べただけで「ああ、こんなものか」とか「どうも自分には向いていなそうだな」というふうに感じて、結果的に行動を起こさない人が多いようです。

でも、ネット上で得られた答えは、「それなりの答え」に過ぎません。興味を持った世界に実際に飛び込んでみれば、「それなりの答え」とはまったく別の世界だったということもあるでしょう。

行動を起こさなければ、結果もなにもありません。本来なら若くて行動するパワーに満ちあふれている世代の人たちが、わかった気になって行動を起こさないことは、本当にもったいないと思います。

コロナ禍のいまはちょっと難しいかもしれませんが、行きたいところがあったら行ってみる、気になる世界があったら飛び込んでみる、会いたい人がいたら会ってみる、会えないような立場の人でもコンタクトを取ってみる—。そんなふうに自ら壁をつくることなくどんどん行動できる人こそ、自分の幅を広げ、将来的に「結果を出せる人」になっていくのです。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人