いよいよ目前に迫った東京2020五輪。今大会に臨む、日本選手団は男子306人、女子276人の総勢582人で、これまでの夏季五輪で最多だった57年前の前回東京五輪の355人を大きく上回っている。これらの選手が熱戦を繰り広げる姿をぜひ目に焼き付けてほしい。

本稿では、メダルの期待のかかる種目や今大会より新たに追加された新種目など、注目競技や見どころをスポーツ報道を中心に活躍する、ノンフィクションライターの藤江直人氏に紹介してもらう。

  • 目前に迫った東京2020五輪

バドミントン

前回リオデジャネイロ五輪後の5年間で日本のレベルが一気にはね上がり、金メダル量産を狙う競技が2つある。ひとつがバドミントンで、もうひとつが卓球だ。

リオデジャネイロ五輪の女子ダブルスで松友美佐紀・高橋礼華ペアが悲願の金メダルを獲得したバドミントンは、実施される5種目すべてで頂点を狙えるメンバーがそろった。

男子シングルスは2018年9月の世界選手権で日本人男子初の金メダルを獲得したエース桃田賢斗(NTT東日本)が、直後からトップに立つ世界ランキングをキープしたまま、堂々の金メダル候補として初めての五輪を待っている。

女子シングルスではリオデジャネイロ五輪で銅メダルを獲得した奥原希望(太陽ホールディングス)が世界ランキング3位、ライバルとして長く切磋琢磨してきた山口茜(再春館製薬所)が同5位で、ともに五輪の頂点を狙える位置につけている。

ダブルスの世界ランキングでは、男子の渡辺勇大・遠藤大由ペア(日本ユニシス)が4位で、園田啓悟・嘉村健士ペア(トナミ運輸)が5位。女子の福島由紀・廣田彩花ペア(丸杉Bluvic)が1位で、永原和可那・松本麻佑ペア(北都銀行)が2位。渡辺は東野有紗(日本ユニシス)と組む混合ダブルスでも5位につけている。

それぞれの決勝は7月30日の混合ダブルスを皮切りに31日の男子ダブルス、8月1日の女子シングルス、2日の女子ダブルス、男子シングルスと一気に行われる。

卓球

前回リオデジャネイロ五輪の男子団体で銀メダル、女子団体では銅メダルを獲得し、日本中を熱狂させた卓球は若い力が加わり、満を持して卓球王国・中国越えを目指す。

男子は18歳の張本智和(木下グループ)が不動のエースとして、シングルスおよび団体戦をけん引する。世界ランキング4位の張本は中国が誇るダブルエース、同1位の樊振東と同3位の馬龍を撃破した実績を持つ。集中力の高さに導かれる高いディフェンス力と、カウンターに転じる判断力の速さを武器に歴史を塗り替える戦いに挑む。

リオデジャネイロ五輪に15歳で出場した伊藤美誠(スターツ)は、上位を中国勢が占める世界ランキングで堂々の2位に名を連ねて2度目の五輪に臨む。

昨年3月のカタールオープンでは、リオデジャネイロ五輪金メダリストの丁寧(中国)に圧巻のストレート勝ちを収めた。中国勢から最も警戒される存在として、中国国内では最大級の敬意を込めて「大魔王」や「美魔王」と呼ばれている。

さらに伊藤は石川佳純(全農)や親友の平野美宇(日本生命)とともに臨む団体戦だけでなく、新設された混合ダブルスにもリオデジャネイロ五輪男子シングルス銅メダリスト、水谷隼(木下グループ)とのペアで出場。文字通りのフル回転を期待される。

注目の決勝は7月26日の混合ダブルスを皮切りに29日に女子シングルス、30日には男子シングルスが行われ、どの大会でも盛り上がりを見せる団体戦のそれは8月5日に女子が、6日に男子が行われる。大会期間中を通じて卓球で盛り上がりそうだ。

スポーツクライミング

東京五輪から採用される新競技では、壁に設定されたホールドで身体を支えながら、いっさいの道具を使わずに登っていくスポーツクライミングに注目したい。

実施されるのは3種目。高さ15mの壁を2人で同時に登って速さを競うスピード、高さ約4mの壁を制限時間内にいくつ登れるかを競うボルダリング、そして制限時間内に高さ12m以上の壁をどの地点まで登れるかを競うリードの総合成績で順位を競う。瞬発力や持久力だけでなく、技術や知力をも必要とされるハードな競技だ。

  • 道具を使わずに壁を登っていくスポーツクライミング ※写真は「スポーツクライミング 第3回スピードジャパンカップ」の会場

日本からは男女2人ずつが出場する。男子の楢﨑智亜(TEAM au)は2019年世界選手権でボルダリングを制し、スピードとリードを合わせた総合で優勝した。4位で続いた原田海(日新火災)は、2018年世界選手権総合でも4位に入っている。

  • 2019年世界選手権を制した楢﨑智亜

第一人者として女子をけん引してきた野口啓代(TEAM au)は、2019年世界選手権総合で2位に、野中生萌(XFLAG)も5位に入っている。32歳の野口は東京五輪での現役引退を表明していて、最初で最後の大舞台でメダル獲りを狙う。

  • 最初で最後の大舞台に挑む野口啓代

大会には男女20人ずつが参加。すべてスピード、ボルダリング、リードの順で男子は8月3日、女子は4日に予選を行い、上位8人が男子は5日、女子は6日の決勝へ臨む。

柔道

忘れてならないのは日本の夏季五輪史上で、競技別で最多となる39個もの金メダルを獲得してきたお家芸の柔道だ。東京五輪でも男女のそれぞれ7階級と、新たに採用される混合団体戦の計15種目で金メダルラッシュを目指している。

注目は兄妹で同時出場を果たす男子66kg級の阿部一二三(パーク24)と、女子52kg級の詩(日体大)だ。柔道の中村行成・兼三や、柔道に次ぐ2位のトータル32個の金メダルを獲得しているレスリングの伊調千春・馨らが、これまでに兄弟や姉妹で同時に夏季五輪のメダルを獲得した。しかし、ともに金メダルとなると史上初の快挙となる。

まるで運命に導かれたかのように、阿部兄妹が臨む両階級はともに7月25日に日本武道館で実施され、決勝は女子52kg級、男子66kg級の順で行われる。

スケートボード

新競技のスケートボードで女子パーク代表を射止めた12歳11ケ月の開心那(ひらき・ここな=hot bowl skate park)は今大会だけでなく、記録が残る戦後の日本の夏季五輪史上における最年少代表となった。対照的に今大会の最年長は馬術の馬場馬術代表、北原広之(日本中央競馬会馬事公苑)で、49歳にして嬉しい五輪初出場となる。

また、スノーボードの男子ハーフパイプで2014年ソチ、2018年平昌冬季五輪で連続銀メダルを獲得した平野歩夢(TOKIOインカラミ)は、スケートボードの男子パーク代表との「二刀流」で、日本人の誰も達成していない夏冬五輪でのメダル獲得を狙う。こうした視点で見てみるのも、今回の東京五輪のもうひとつの楽しみとなりそうだ。