「女性の活躍推進」が叫ばれて久しいが、現実はそう簡単ではない。

政府は2003年に「2020年までに指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度」にすると目標を掲げた。しかし、いざ期限になってみると目標の達成は低い水準のままであり、達成の時期を「2020年代の可能なかぎり早期に」と先送りすることを決定。17年かけても達成の目処すら立たなかったのは実に重い現実である。

では、どうすれば本当の意味で女性の活躍が推進できるのか。

「本当に女性の活躍を目指すなら、女性にだけ研修するのではなく、企業のトップや幹部のような、組織のルールを作る人たちが女性に歩み寄る必要があります」

そう話すのは、株式会社Surpassの代表・石原亮子さんだ。Surpassは女性による営業のアウトソーシング企業で、人材の採用・教育と人材を求める企業の橋渡しを行っている。社員の女性比率は8割にのぼり、営業未経験でスタートする方も6割近いという。

  • Surpass 代表・石原亮子さん

今回はSurpassのメンバーにインタビューを行い、「女性が本当に活躍するために必要なポイント」について話をうかがった。

女性が活躍する土台が整っていない

⼥性がキャリアアップを⽬指す際に直⾯する障壁のことを「ガラスの天井」と呼ぶが、「実際にはキャリアアップというガラスの天井の手前に世代や環境、属する組織のルールや美徳の違いという、働くことへの障壁が待っています。ガラスの天井どころか、そもそも天井が厚すぎて仕事を辞めてしまう女性も大勢いるんです」と⽯原さんは語る。

この「天井」つまり会社のコミュニティのルールを決めるのは、企業のトップや管理職だ。しかし女性の活躍推進を実現するうえで、この層を対象に行われている研修は「ハラスメント研修」くらいしかないという。しかし、女性の活躍を推進するならば、男性側が女性への理解を深め、相互に歩み寄りをする必要があるという。

「差別ではなく、男女は性別的に区別すべきところがあります。例えば女性には女性ホルモンの影響による生理やPMS(月経前症候群)、更年期などがあります。これにより女性は1ヶ月のうち3分の1から半分は軽いうつ状態だと言われています。一方、ドイツでは成人女性の50%近くが低用量ピルを服用しており、そういったソリューションがあるからこそ、政治やビジネスでも女性リーダーが出ているのだと思われます」(石原さん)

低用量ピルには、女性のホルモンバランスを一定に保つ効果がある。近年の調査では、女性の社会進出が進んでいる国ほど低用量ピルの使用率が高いことが分かっているという。しかし、日本では低用量ピルの使用率は0.9%とまだ低く、海外とは社会の背景があまりに違う。

「生理やPMSへの理解があれば、『女性は感情的だ』といった表面的な話にはなりません。日本の女性は、そういった理解もソリューションもないなかで、『頑張れ!』と言われてきました。しかし、現状では女性だけが大きな荷物を抱え、さらに出産後は子ども抱えて急勾配の坂を登れと言われているようなものです」(石原さん)

社会が本当の意味で女性の能力を活かすためには、男女の相互理解、相互協力が必要だ。

「男性のリーダーや管理職たちは、これまでタブー視されていた性差による身体の違いや女性ホルモンに関する影響についてもリテラシーを持ち、話しやすい環境づくりをしていくことが重要だと考えています。でなければ、同じ場所で同じ言葉を使っていても、実は全然コミュニケーションが取れていない、ということも起こり得ます」(石原さん)

役職を打診しても「昇進したくない」と拒否されてしまう

Surpassの執行役員で、ソリューション事業部の統括マネージャーを務める喜多村あさのさんにも話を聞いた。現在は役員を務める喜多村さんだが、元々成長志向は高くなかったという。

  • Surpass 執行役員 ナレッジセンター統括マネージャー 喜多村あさのさん

「私はSurpassに入社して7年目になります。これまで4社を経験してきましたが、人間関係が原因ですべて2年以内に辞めてきました。もともと『毎月、食べられるだけのお給料だけあればいい』と思っていたし、成長志向も強くなかったんです。でも、今は気付けば執行役員。実は、ここに女性の活躍を推進する鍵があると思っています」(喜多村さん)

喜多村さんによると、「女性のロールモデルを作りたい」と考え、"スーパー女性社員"を採用したい、または育成したい、と望む企業は多いそうだ。しかし、そんな上昇志向を持つ女性は「10人に1人いるかどうか」と稀な存在だ。

「だからこそ、成長志向は強くないけど、いつの間にか"乗せられて役職者になる"ような人材を作っていくことが大事だと思います」と喜多村さんは言う。一体、どういうことか。

「女性に管理職への昇進を打診しても断られてしまう、という話をよく聞きます。断る理由としては『結婚するので』『家庭との両立が不安なので』といったものが多いですね。女性は昇進で得られるものより、リスクを重視する傾向にあります。そのため"お願いベース"ではなく、会社からの辞令として出されるほうが受け入れる側としてもいいんです。『仕事の結果がいいから次の役職者をやってもらいたい。以上!』と。やる気ではなく、結果を見たうえでの辞令であれば、女性としても『なら仕方がない…』と受けやすいので」(喜多村さん)

例えば、「結婚と仕事が両立できないと思うなら、まずは結婚するまでやってみよう」と声をかけてみることも有効だとか。「Surpassの女性役職者も、ほとんどの場合が成長志向ではなく、『管理職をやって!』と言われたからやってみた、という人財です。でも、やってみれば意外にできた。だから次も打診されたら受けてみる、とステップを登っていく。まずはやらせてみることが大事なんです」と語る。

「女性のロールモデルを作りたいけど、作れない」

「女性社員のロールモデルの作り方がわからない」という悩みを持つ企業も多い。しかし、喜多村さんによると、「大切なのは"女性社員のためのロールモデル"を作るのではなく、"男女問わないロールモデル"を作ることが大事」なのだとか。

「例えば『家庭と仕事を両立していて、この人の奥さんは幸せだな』と思えるような男性上司などは、女性から見ても尊敬できます。仕事一筋! ではなく家庭との両立を公開できる男性上司になることで、十分女性にとってもロールモデルになれると思います」(喜多村さん)

また、男性と女性では「考え方がズレる」ことも多いことから、「男性は"ずれ"を理解して、女性向けに言葉を変換して伝えることも大切です」と喜多村さんは話す。

「あるアンケートで『一生涯働いていたいですか?』という質問を男女にした際、女性のほうが『働いていたい』と回答した割合が多いという結果が出たそうです。でも私が思うに、これは男性と女性で『一生涯働く』の捉え方が違うのではないでしょうか。女性にとっての『一生涯働く』は、定年退職まで勤め上げるということだと思いますが、男性の『一生涯働く』は、定年後、75~80歳までを考えていると思うんです」(喜多村さん)

  • ※画像はイメージです

こういったズレの例を挙げたうえで、喜多村さんは「かつて『男性は仕事で、女性は家事で家庭を支える』という役割の違いがありました。だからこそ、同じものでも違う捉え方をします。その"ズレ"を理解し、女性に伝えられる男性上司を増やすことで、女性はキャリアを正しく考えられるようになるのではないでしょうか」と述べた。

女性の「感情の起伏」についてどうすればいいのか

女性の「感情の起伏」についてはどうか。

喜多村さんによると、「女性はすぐ泣いてしまう」と気にしている男性管理職も多いそうだ。「指導していると泣かせてしまう」「精神的に追い詰めず、しっかり指導するにはどうしたらいいか」という悩みに対して、それを解決するのは難しい、と喜多村さんは考えている。

「女性は、混乱したり、自分が不甲斐ないと感じると涙が出やすいんです。私自身、感情が溢れると涙が出てしまいます。上司の指導や伝え方だけが原因ではなく、内発的に「至らない自分がふがいない」「キャパオーバーだ」となった時に涙が出ることもあるため、『泣いちゃった、どうしよう』と気を取られて指導を辞めてしまうのはもったいないと思います」(喜多村さん)

もちろんパワハラは論外だが、指導にも配慮さえあれば、時に涙を流しても「上司がきつい」「ひどい上司だ」とは思わない、と喜多村さんは言う。

  • ※画像はイメージです

また、生理やPMSのときは感情的に不安定になりがちだとも言う。

「そういうときの女性は判断力も低下し、早退したくても帰る準備や上司への相談すら億劫になり、ダラダラ仕事してしまいがちです。そういうときに、『具合悪そうだけど大丈夫?』と聞いてしまうと『生理痛です』と答えるしかなく、男性上司も気まずいので、『最近忙しくて疲れただろうから、今日は帰っていいよ』などと促してあげるといいでしょう」(喜多村さん)

男性も女性も働きやすい社会づくりを

いずれも当たり前に思えることだが、男性としては、実際にこうして話を聞かなければ思い至らない部分もかなり多いはずだ。

日本は確かに「男社会」として女性の活躍を軽視してきた歴史がある。Surpassの代表・石原さんは、「30〜50年前はそういった社会が正しいとされてきましたが、時代は変わりました」と語る。

「誰かを責める必要はありませんが、日本が海外と比較してジェンダーギャップ指数で劣っているのは事実です。男性のほうが頑張って働くというやり方で、日本はここまできました。今後は学歴も性別も取っ払って、男性も女性もLGBGQも生きやすい、ハッピーな社会を作っていきたいと考えています。そのために、先述のピル活用も含めた、フェムテック全般の推進を行っていきたいですね」(石原さん)

もちろん、男性のほうが頑張って働かなきゃいけない、という価値観も時代とともに変わらざるを得ない。男性も、女性もLGBTQも無意識に互いに築き上げられていた価値観を相互に理解して、組織における人事制度や社内ルールの見直しをしていかねばならないだろう。

日本社会は女性が活躍することの意味や必要性を改めて理解し、遅れを取り戻すべく努力すべき時代に差し掛かっているようだ。