アウディの新型「A3」とフォルクスワーゲンの新型「ゴルフ」は、エントリーグレード同士で比べると価格差わずか20万円程度なのだが、同じようなオプションを付けていくとその差はかなり大きくなる。「それなら、ゴルフでいいのでは?」と思ってしまいそうなところだが、A3を選ぶ意義とはどのあたりなのだろうか。

  • アウディの新型「A3」

    アウディの新型「A3」

「ゴルフ」と20万円差?

アウディのエンブレムである4つのリング(フォーシルバーリングス)は、1932年に合併したアウディ、DKW、ホルヒ、ヴァンダラーの4社を表している。合併時の会社名は「アウトウニオン」で、「アウディ」は乗用車系のブランドネームとして使われていた。アウディの名が会社名として復活するのは1985年のことである。

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    アウディのエンブレムは合併した4社を表している

まだアウトウニオン社の時代であった1970年代、アウディブランドからは「80」や「100」といったモデルを世に送り出したものの、当時は現在のような高級車としての扱いは受けておらず、リーズナブルなモデルとして存在していた。

アウディは1980年にスポーツ4WDである「クワトロ」を投入。WRCに参戦するなどモータースポーツに深く関わるようになり、やがてプレミアムブランドへと大きく舵を切る。アウディがいつからプレミアムブランドとなったか? これについて明確なデータはないが、1990年代に「80」を「A4」に、「100」を「A6」に移行し、「TT」を導入したあたりから潮目は一気に変わったといえる。

アウディ「A3」は、その大きな方向転換期に初導入されたクルマだ。A3は初代からフォルクスワーゲン「ゴルフ」と基本コンポーネンツを共有している。現在はプレミアムコンパクトモデルとして、ゴルフとは異なる客層を狙ったモデルに進化しているが、初代はどちらかというと、まだ「ゴルフのアウディ版」といった雰囲気が強かった。A3がプレミアム路線に乗っていくのは2代目からといえるだろう。

新型A3の価格は、1.0Lエンジン+マイルドハイブリッド(MHV)システムを採用する最もベーシックなモデル「スポーツバック 30 TSFI」で310万円。新型ゴルフで最安値のグレード「eTSI アクティブ ベーシック」が291.6万円なので、その差は20万円程度となる。

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    「A3」のボディタイプは「スポーツバック」と「セダン」の2種類。それぞれに5つのグレード(と導入記念の「1st edition」)があり、エンジンは1.0Lと2.0Lがある。車両本体価格はスポーツバックが310万円~483万円、セダンが329万円~502万円だ(写真はセダンの1st edition)

しかし、ゴルフがACCを標準装備するのに対し、A3スポーツバックではACCがLEDヘッドライトなどとのセットオプション(47万円)となる。オプションのナビゲーションも、ゴルフが19.8万円でA3は26万円だ。さらに驚くべきは、A3では「アイビスホワイト」以外のボディカラーがすべてオプション(7万円)となっていること。これらを勘案すると、ベースモデルの車両本体価格ではかなり近い位置にあるゴルフとA3だが、そのじつは価格に大きな開きがあるといえるだろう。この価格差こそが、A3のプレミアム領域に使われている部分といえる。

例えば運転席まわりを見まわしても、ゴルフがかなり平均的な作りである一方、A3ではフェイスレベルのエアコン吹き出し口をメーターカバーの左右に配置したり、フロアコンソールにピアノブラック調のパネルを使ったり、ドアハンドルの形状にヘッドライトのデザインとの共通性を持たせたりと、かなり凝った作りを採用している。こうして、ひとつひとつの作りにこだわりを感じさせるところがプレミアムモデルの魅力だ。

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  • プレミアムモデルならではのこだわりが感じられる新型「A3」の室内

「クルマなんて動けばいい」となると、廉価版トラックと同じ装備があれば基本的には何も困らないが、快適な空間で快適に移動したいという気持ちが高まれば高まるほど、クルマの作りは凝ったものとなり、価格も上昇していく。かつてはプレミアムカーといえば大きなクルマであった。それは、大きいこと自体がプレミアムであるという意識が根強かったからにほかならない。しかし、コンパクトなクルマでもプレミアム感あふれるモデルに乗りたいというユーザーが増えたことで、プレミアムコンパクトの市場規模も大きくなっている。

少し話がずれるが、日本で軽自動車のシェアが増えているのも、軽自動車の装備が充実していることが大きな要因となっている。今や200万円超えの軽自動車も存在している。安いから軽自動車に乗りたいのではなく、小さくて装備が充実しているクルマに乗りたいという人が増えているのだ。

「S3」の存在意義とは

さて、新型A3の乗り味だ。1.0Lの3気筒エンジンは110馬力を発生。そこにベルトドライブのモータージェネレーターをプラスしてアシストをかけている。おかげで発進はスムーズだ。A3は「Sトロニック」と呼ばれるデュアルクラッチ式のATを採用する。このATは一般的なATやCVTとは異なり、MTと同じようにクラッチを持っている。そのクラッチが電子制御されるのだ。このため微低速走行が苦手なのだが、初期のSトロニックに比べたらずいぶんとスムーズで、普通に使う分にはまったく問題がないといっていいだろう。

加速も1.0Lの3気筒とは思えないレベルの力強さで、勾配がきつめの上り坂でもしっかりとスピードに乗っていく。3気筒ということで振動などは気になる部分だろうが、そうした面もよく抑えられている。ハンドリングは素直でスポーティーだ。ゴルフよりもタイヤが太く、また扁平率も低い(タイヤが薄い)ので、乗り味は硬めとなる。

  • アウディの新型「A3」

    試乗した「1st edition」は「30 TFSI advanced」というグレードに特別装備を追加したモデル。タイヤは225/45R17を装着している

アウディはベーシックタイプの「A」、スポーティーな「S」、さらにその上をいく「RS」という3つのシリーズを用意するのが通常だ。今回は、A3のスポーティーモデルとなる「S3」の試乗も行った。

  • アウディの新型「S3」

    「S3」は「スポーツバック」(642万円)と「セダン」(661万円)の2種類。試乗したのはスポーツバックの「1st edition」(711万円)だ

S3は310馬力の2.0L4気筒エンジンを搭載。1.0Lモデルとは異なり、リヤサスペンションがマルチリンク式(1.0Lはトーションビーム式)となる。価格はA3に比べると別格に高額だ。

走りのパフォーマンスもA3とはまるで異なる。アクセルを踏んだ瞬間から爆発的な加速を示す。特に「アウディドライブセレクト」と呼ばれる走行モード切替スイッチを「ダイナミック」にした際は、エキゾーストノートも野太く迫力のあるものとなる。コーナーの頂点を目指してステアリングを切り込み、そこからアクセルを踏んでいくとクルマがインを向いていく。じつに素直でスポーティーな走りを楽しむことができる。

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  • 「S3」は最高出力310PS、最大トルク400Nmを発生。「A3」の2.0Lターボエンジン搭載モデルは同190PS、320Nmだ

トヨタ自動車やフォルクスワーゲンに乗ってきた人がA3に乗れば、そのプレミアム感を十分に感じることができるだろう。しかし、アウディの少し大きなクラス、つまりA4やA6などからのダウンサイザーのことを考えると、1.0LマイルドハイブリッドのA3では物足りないのは明らか。同じプレミアムコンパクトのなかにあっても、A3とS3にこれだけの差を付けるのはそうした要因もあるからだ。今後、クルマをダウンサイジングしようというユーザーは多く現れるはず。そうしたときに、どんな仕様でどんなパワーユニットを用意するのか? EV化の波が大きくなるなか、各メーカーのアプローチから目が離せない。

  • アウディの新型「A3」
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  • アウディの新型「A3」
  • 新型「A3」

  • アウディの新型「S3」
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