やはりモンスターは強かった。6月19日(日本時間6月20日)、米国ラスベガスのヴァージンホテルで行われたWBAスーパー&IBF世界バンタム級タイトルマッチは井上尚弥が、挑戦者マイケル・ダスマリナス(フィリピン)に3ラウンドKO圧勝。見事防衛を果たした。これで戦績は21戦全勝(18KO)。

  • 2度目のラスベガスのリングでWBAスーパー、IBF両王座を防衛した井上尚弥。次戦で「4団体王座統一」に挑む可能性が高まった。(山口裕朗/アフロ)

今後、井上は「バンタム級世界最強」を証明するため、4団体世界王座統一に挑むことになる。年末、もしくは来春に世界が注目するスーパーファイトが実現の見込み。対戦相手は果たして誰になるのか?

1ラウンド開始早々に、井上は相手の右ジャブに合わせて強烈な左フックを繰り出した。 この直後から挑戦者ダスマリナスが腰を引き、下がり始める。クリーンヒットしたわけではなかった。それでも井上の強打は、ダスマリナスの想像を上回るスピードと威力を伴っていたのだろう。この時点で「勝負あり」だった。

アッサリと試合の主導権を握った井上は、余裕を持って畳みかけた。
2ラウンドに強烈な左ボディブローを見舞ってダウンを奪うと、続く3ラウンドには右脇腹を集中攻撃。3度目のダウンを喫したダスマリナスが悶絶したところでレフェリーが試合を止めた。

完勝後に井上尚弥は、改めてこうコメントした。
「バンタム級最強を証明するために4つのベルトを獲得したい。今後は、それに向けての闘いに挑みたいと思います」

■「世界最強」を証明するために

世界チャンピオンのベルトは、その階級における「世界最強」の証しであるべきだ。 しかし、プロボクシング界は歪(いびつ)で、そうなっていない。
世界王座を認定する主要団体が4つもあり、それぞれにチャンピオンが存在。よって「世界王者=世界最強」とはならないのだ。

4つの主要団体は、次の通り。
WBA(世界ボクシング協会/1921年設立)
WBC(世界ボクシング評議会/1963年設立)
IBF(国際ボクシング連盟/1983年設立)
WBO(世界ボクシング機構/1988年設立)

つまり、いずれかの団体が認定する王者になっても、それは「クウォーター・チャンピオン」に過ぎない。自らが属する階級において「最強」であることを証明するためには、4団体の王座に同時に就く必要がある。

この偉業を達成したボクサーは、過去に6人しかいない。
テオフィモ・ロペス(米国)ライト級/2020年10月
テレンス・クロフォード(米国)スーパーライト級/2017年8月
ジョシュ・テイラー(スコットランド)スーパーライト級/2021年5月
バーナード・ホプキンス(米国)ミドル級/2004年9月
ジャーメイン・テイラー(米国)ミドル級/2005年7月
オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)クルーザー級/2018年7月

彼らに肩を並べることを井上は目指している。達成できれば、バンタム級では初、日本人としても初の快挙だ。
現在、井上はWBAとIBFの2本のベルトを保持。残りの2本(WBC、WBOのベルト)を、これから獲りに行くことになる。

■実現は年末か? 来春か?

WBCのベルトを保持しているのは、今年5月にノルディ―ヌ・ウバーリ(フランス)を4ラウンドKOで破り通算10度目の世界王座奪取を果たしたノニト・ドネア(フィリピン)。 過去にフライ級からフェザー級まで5階級を制覇している現在38歳の伝説のチャンピオンだ。戦績41勝(27KO)6敗。
そんな彼と井上は、すでに一度拳を交えている。
2019年11月、さいたまスーパーアリーナで開催された「WBSSバンタム級トーナメント決勝」で死闘を繰り広げた。結果は、11ラウンドにダウンを奪った井上の判定勝ち。だが、KO完勝を続けていた井上が大いに苦しめられた試合ではあった。

  • 2019年11月、WBSSバンタム級トーナメント決勝、ノニト・ドネア戦。死闘の末、井上尚弥(右)が判定勝利を収めた。再戦はあるのか!? (写真:山口裕朗/アフロ)

WBO王者はジョンリル・カシメロ(フィリピン)。戦績30勝(21KO)4敗。 これまでに3階級を制覇している32歳の強者で、彼はSNSを通してたびたび井上を挑発している。
「イノウエは、怪物と言われているらしいが俺には勝てない。大したことはないんだよ。本当の怪物は俺だ。奴は俺から逃げている。次は俺と闘えよ!」と。 紳士的に振る舞うドネアとは対称的にトラッシュトーク好きな男だ。

「年内に、もう1試合。そこで勝って、来年春くらいに4団体王座統一戦をやりたい」 井上は、そう話していた。
どちらが先になるかはわからないが、両者と順に闘って王座を統一していくつもりでいたのだ。
だが、ここにきて状況が変わった。井上は、ドネア、カシメロのいずれかと闘う運びになりそうだ。

それは、8月14日(日本時間8月15日)に米国でドネアとカシメロがWBCとWBOの王座統一を賭けて闘うことが決まったから。
これにより井上は、この試合の勝者と「4団体王座統一戦」を行うことになる。 ただ、ドネアvs.カシメロが引き分けに終わった場合は、スケジュールが変わる。引き分けなら両者王座防衛となるため、井上は当初の予定通り順番に二人と対戦することになるだろう。

また、こんな話も出ている。
<年内に、ドネアvs.カシメロの勝者とキジェルモ・リゴンドー(キューバ)が試合を行うことが、すでに決まっている>
リゴンドーは、2000年シドニー五輪、2004年アテネ五輪のボクシング金メダリストで現在40歳のWBAのバンタム級王者(井上はWBA同級スーパー王者で格上)。戦績は20勝(13KO)1敗1無効試合。

ドネア、カシメロ、リゴンドーの3人はエージェントが共通していることもあり、このスケジューリングの信憑性は高い。 リゴンドーが絡む試合の結果を待って、その勝者と井上は闘うことになるかもしれない。

いずれが相手であろうと、今回のダスマリナス戦のような一方的な展開にはなるまい。次は、白熱の好勝負の予感がする。早くて年末、遅くても来年前半には実現するであろう井上尚弥の「究極の挑戦」に刮目したい。 個人的には、カシメロ戦が観たいが─。

文/近藤隆夫