東武鉄道は「SL大樹」の安定運行に向け、複数の蒸気機関車を保有するため、釧路開発埠頭などで活躍し、1975(昭和50)年の廃車後、北海道江別市で静態保存されていたC11形を譲り受けた。2019年1月から復元作業に着手したところ、修繕や新規の部品作製を必要とする箇所が想定より多くなると判明。当初の予定を延期し、2021年冬の完成に向けて作業を進めることになった。復元する蒸気機関車の車両番号は「C11形123号機」となる。
その中で、蒸気機関車の心臓部ともいえるボイラーは、大阪市に本社を置くサッパボイラにより、2019年7月から大規模な修繕が行われた。5月26日、修繕されたボイラーが南栗橋車両管区(埼玉県久喜市)のSL検修庫に搬入された。
■10トンのボイラーをクレーンで吊り上げる
トラックの荷台に載っているボイラーは、布などにくるまれ、巨大な物体ではあるものの、なにやらわからないという雰囲気を漂わせていた。布などを取り払い、ワイヤーをボイラーにくぐらせると、トラックの上方で天井クレーンの動く音がする。2つのフックが近づき、下に降りてくる。ワイヤーをフックにかけ、クレーンを動かし、ワイヤーのもう一方の側をフックにかける玉掛け作業が行われた。この作業が終わると、ボイラーから人が離れ、上に持ち上げられる。
ある程度の高さまで上昇すると、今度は地表と並行して横に移動する。ボイラーを下ろすために設置された架台の上空に達すると、ゆっくりとボイラーが下ろされていった。着地の直前、作業員が集まり、微調整を行う。設置の位置が決まると、クレーンは下がり、ピアノ線は緩められ、外される。この間にトラックは出ていった。
■手間をかけた復元、これでも「よかったほう」
蒸気機関車のボイラーが修繕を行うためサッパボイラへ来た際、水圧をかけて状態を確認したところ、水の漏れる箇所が多くあったという。検査を行い、復元の方針を決めたのが2019年8月。まずは解体を実施した。
2020年4月、石炭を燃やす火室を支えるステーを上下逆にして取り付けた。2021年2月、火室の修繕が完了し、罐胴(かんどう)を新製する。この装置で、水を石炭で沸かして蒸気にするのだ。2月に火室と罐胴を接続し、3月に鋼を柔らかくする焼鈍(しょうどん)作業を実施。4月には、すでに接続されていた火室と罐胴に煙室をつなげる作業が行われた。水圧テストも実施され、完成に近づいた。5月13日の改修製造検査受検で合格し、その証明となる番号を完成したボイラーに打刻した。
こうして、C11形123号機のボイラーは南栗橋車両管区に戻ってきた。この冬までに蒸気機関車の形にするという。SL検修庫内には、昨年12月に開催された「東武プレミアムファンツアー」でも公開されたC11形123号機の台枠や車輪があり、もともとの車両から再利用されることになった焚口戸(たきぐちど)などもあった。一方、使えなくなった煙管が錆びているところを見ると、1975年に廃車されてからの長い年月を考えてしまう。
サッパボイラの専務取締役東京支店長、田中俊彦氏は、検査した際の感想を「これでも保存状態は良かったほうです」と話し、「ていねいに直しました」とコメントした。
C11形123号機の復元作業を進めている間に、東武鉄道は真岡鐵道からC11形325号機を譲り受け、2020年12月から運行を開始している。現在、蒸気機関車はC11形207号機とC11形325号機の2機体制となっており、復元されたC11形123号機が加わることで3機体制に。これで安定した定期運行が可能になる。
加えて、「昭和レトロ・ノスタルジー」な雰囲気を味わえるようにするため、14系客車1両(スハフ14-5)を旧型客車と同じ「ぶどう色2号」に変更し、6月19日から運行開始する。同色の車両も増やす予定だという。
いったんは蒸気機関車としての使命を失った車両を動かせるように手間をかけた。その過程で、使えるものは大切に使い、新たに作らなければならないものは新造した。今後、ボイラーを台枠や車輪などと組み合わせることで、新しい蒸気機関車としての命が吹き込まれる。C11形123号機が日光・鬼怒川エリアを走る日が待ち遠しい。