漫画家・永井豪氏の代表作のひとつ『デビルマン』の世界をVR空間にて体感することのできる展示イベント『VRデビルマン展~悪魔の心、人間の心~』が、5月31日まで開催中である。

本イベントの特色は、動作要件を満たすPCとネット環境さえあれば、全国どこででも参加することのできる「オンライン展覧会」。開催期間中に仮想空間エキシビジョン・プラットフォーム「VU(ヴュー)」の中に入ると、そこはすでに『デビルマン』の世界が広がっている。展覧会への入場は有料だが、無料で楽しむことのできる体験エリア(ショッピング可能)も存在する。『VRデビルマン展~悪魔の心、人間の心~』はPCの専用アプリをダウンロードすれば体験が可能で、さらにはVRヘッドセットを用いればいっそう仮想空間への没入度がアップするという。イベント内ではいくつもの「空間」に自分が飛び込んだような気持ちになれるよう、視覚効果はもちろんのこと音響効果の面でも臨場感を高める工夫がなされている。

永井豪氏によるコミック『デビルマン』は講談社『週刊少年マガジン』にて1972年から1973年にわたって連載された。東映動画(現:東映アニメーション)製作の連続テレビアニメ作品『デビルマン』(1972~1973年)の企画が立ち上がると同時に「原作」として執筆が行なわれた、いわゆる「メディアミックス」作品である。

人類が誕生する以前に地球を支配していた「悪魔」=デーモンが長い眠りから復活し、人間に代わってふたたび地球の覇者になろうと暗躍する中、悪魔の力を持ちながら人間の心を備えた“悪魔人間(デビルマン)”となった不動明の凄絶な戦いを描く……というのが『デビルマン』の基本設定。テレビアニメ版では、デーモン族の戦士デビルマンが不動明の身体に乗り移ったものの、人間社会で出会った美少女・牧村美樹に心を奪われたことがきっかけで、美樹を守るためかつての仲間=デーモンの妖獣と戦う決意をする。

一方コミック版では、不動明は親友・飛鳥了にいざなわれてデーモンの勇者アモンと合体し、人間としての精神を保ったまま悪魔の身体を手に入れている。弱肉強食の争いの中で生きてきたデーモンは、いつしか他の生物と合体する能力を備え、奇怪な怪物へと変貌していったが、唯一“理性”を持つ人間とは合体が非常に難しかった。明はデーモンに襲われた恐怖で理性のタガが外れ、本能のみで動いたことによって合体に成功したのだ。その後、明と了は人間社会に潜伏しているデーモンを抹殺する“悪魔ハンター”として活動を続けるが、やがてデーモンの攻撃は全地球規模にまで拡大していった……。

テレビアニメ版『デビルマン』は永井豪テイストというべきホラー&バイオレンス風味を前面に打ち出し、ポチ校長とアルフォンヌ先生のギャグ満載のやりとり、そして明、美樹、タレちゃん、ミヨちゃん、東大寺、チャコ、ララをはじめとする愛すべきキャラクターたちの活き活きとした動き、オープニング曲「デビルマンの歌」、エンディング曲「今日もどこかでデビルマン」と劇中BGMを手がけた三沢郷氏の音楽世界など、さまざまな魅力が打ち出され、70年代前半に実写&アニメの世界で巻き起こった「変身ブーム」を支える作品のひとつとなった。

コミック版『デビルマン』では、地球を手に入れるためのデーモンの攻撃が中盤あたりからスケールアップし、人々が容赦なく殺されていく残酷な展開が続出する。大量のデーモンが人類に無差別合体を行った結果、明と同じく人間の心を残したデビルマンが何人も生み出されたが、政府は「悪魔は人間が変貌した姿」だと誤った結論をくだし、人間が人間を殺す疑心暗鬼の時代に突入していく。終盤より不動明は、醜い心をむき出しにする人間そのものに絶望しつつも、愛する美樹がいる限り「おれは悪魔にはならん」とわずかな希望を見出すのだが……。

仮想空間では、まずこちらの「無料ゾーン」がわれわれを出迎えてくれる。ここではトークセッションなどが上映されるステージスクリーンや、火炎を吐くデビルマン像、各界著名人からのコメント展示、そしてオリジナルグッズの展示・販売コーナーが目をひくことだろう。ここに至るまでに、PCではマウスとキーボード、VRヘッドセットでは左右のコントローラーを使って仮想空間での動き方を説明してくれるチュートリアルを通る必要がある。最初こそ操作に手間取ってなかなか思うように場所移動ができないかもしれないが、コツさえつかむと現実空間のように難なく動くことができるだろう。特に、各ステージに飛ぶ「ワープゾーン」への行き方については、ぜひ押さえておきたいものだ。

有料ゾーンの入り口に進むと、並み居るデーモンの中でも強敵に数えられる一体……相手の精神を操る「サイコジェニー」が現れ、『デビルマン』世界への道案内をしてくれる。背後に映るのは、テレビアニメ版『デビルマン』、コミック版『デビルマン』、そして2018年にWEB配信でリリースされた連続アニメ作品『DEVILMAN crybaby』からの映像。本イベントはこの3つの『デビルマン』で描かれる世界をランダムに投影していくことになる。

有料ゾーンで最初に選択できる4つの空間は、どの順番からでも入ることができる。「悪魔の心 ―desire―」では、コミック版『デビルマン』と『DEVILMAN crybaby』で、不動明と飛鳥了がデーモンとの合体を試みた場所=サバトがイメージされた空間が待っていた。デーモンと人間との合体をさまたげる“理性”をなくすため、快楽におぼれた若者たちがひたすら踊り狂う中、空中には人間の身体を乗っ取ったデーモンや、合体に失敗して人間ともども死んでしまったデーモンなど、この世の地獄のような光景がいくつもただよっている。

4つの空間、次は「悪魔の心 ―emotion―」をご紹介しよう。喧噪うずまく「―desire―」とは対照的に、開放的な青空が広がるこの静かな空間では、空中に浮かんだ遺跡から遺跡へと、自由に飛び回ることができる。ここで貴方は、誇り高きデーモンの戦士シレーヌとカイムの巨大像を発見するだろう。デビルマンとの死闘で致命傷を負ったシレーヌの前に現れたカイムは、自分と合体してデビルマンを倒し「勝利の感激」を味わってもらいたいと話した。醜く、恐ろしいはずの悪魔たちでも人間と同じ「他者への情愛」や「感激」が存在することが明かされるコミック版『デビルマン』のエピソード「シレーヌ編」を振り返りつつ、シレーヌ&カイムの像をさまざまな場所、角度から見つめてもらいたい。

2つの「悪魔の心」に続いて、こちらも2つの「人間の心」を覗いてみよう。まず「人間の心 ―fear―」は、激しく燃えさかり、強烈な光を放っている「焔」をモチーフにした展示空間。悪魔が身近な場所に潜んでいると思い込み、疑心暗鬼に陥った人間はいつしか暴徒と化し、身勝手な理由で悪魔と認めた人間を襲い続ける。VRゴーグルをつけた状態でこの空間にいると、どこを向いても燃えさかる炎と、奇声を発し続ける暴徒の群れに囲まれるため、とにかく早くワープゾーンを探して次の空間に飛んでしまいたくなる。

最後は「人間の心 ―heart―」。タテもヨコもない簡素な空間の中に、SNSを表現したさまざまな「言葉」が飛び回っている。優しい言葉、冷酷な言葉など、ネット上に漂うさまざまな言葉と共に、コミック版『デビルマン』を象徴するキーワードや、テレビアニメ版『デビルマン』の忘れられない名場面などをピックアップすることができる。

4つの空間をめぐると、「デビルマンワールド」に進むポイントが現れる。コミック版『デビルマン』の各場面に囲まれたルートを通れば、そこには巨大な永井豪氏が原稿を執筆している仕事場が待ち受けていた。脇にあるエレベーターに乗り、コミック版『デビルマン』のクライマックスを飾る「最終戦争(アーマゲドン)」を体感してみよう。

最後に『デビルマン』原作者・永井豪氏からのコメントをご紹介。
「VR デビルマン展に、ぜひいらしてください。そこでは、悪魔と人間の心の葛藤と戦いが、驚くような展示で表現されています。楽しみにしていてください!」

『VRデビルマン展 ON LINE SHOP』では、約40種を取り揃えた展覧会限定オリジナルグッズが販売中。展覧会チケットがなくとも購入することができる。『VRデビルマン展 ~悪魔の心、人間の心~』は5月31日まで開催。

(C)永井豪/ダイナミック企画 (C)ダイナミック企画・東映アニメ―ション (C)Go Nagai-Devilman Crybaby Project (C)VRデビルマン展実行委員会