DX(デジタル・トランスフォーメーション)の加速やリモートワークの普及で、社員の価値観や働き方が多様化する中、オフィスの役割も大きく変わろうとしている。

今後、オフィスはどうなっていくのか。横浜にオフィスを移転するクックパッド、淡路島に本社機能の一部を移転したパソナグループ、品川オフィスを大規模リニューアルしたコクヨの3社の代表者がトークセッションを繰り広げた。

  • 左から、クックパッド 執行役JapanCEO 福崎康平氏、パソナグループ常務執行役員 高木元義氏、コクヨ 代表取締役副社長 坂上浩三氏

新しい働き方に適応したオフィスを開設したコクヨ

「働くのミライ会議 KOKUYO WX(WorkTransformation) カンファレンス 2021」のプログラムとして開催されたトークセッションは、3社の代表者がそれぞれの取り組みの意図や概要を紹介しあうことから始まった。

口火を切ったのは、これからのオフィスの在り方を実験・実践する場として「THE CAMPUS」を開設したコクヨの代表取締役副社長・坂上浩三氏だ。

「オフィスの変遷で言えば、私が入社した40年前は働き方が十人一色の時代でした。それが十人十色になり、さらにはコロナ禍で在宅勤務が強制され、十人百色と言ってもいいほど多様化しています。当然、オフィスの在り方もそれに合わせて変わるはずです。この『THE CAMPUS』は新しい働き方に適応したオフィスになったと自負しています」。

  • 「THE CAMPUS」は新しい働き方に適応したオフィスと話す坂上氏

実際、スライドを使って各フロアの紹介があり、フロアごとにコンセプトに基づいたリニューアルが施されていた。

例えば、『企む』と名付けられた9Fは、役員が重要な意思決定を行う場になるが、フロアの中央にソファを置いたスペースを設置。若い社員も集うことができ、そこで偶然出会った役員と気軽に会話ができる仕掛けになっている。

  • 『企む』と名付けられた9Fフロア

また在宅勤務が続く社員に会社のメッセージを伝えるため、動画配信のスタジオも用意し、トップから情報発信できると話す。

  • 動画配信用のスタジオ

住環境や多様な『作り手』を考え横浜に移転するクックパッド

次に発言したのがクックパッドの執行役JapanCEOの福崎康平氏だ。

「インターネットサービスは、数人のベンチャー企業から数十万人のGAFAまで同じ土俵で闘っている業界です。そうした私たちとって、オフィスはただ働くだけの場ではありません。ミッションである『毎日の料理を楽しみにする』を実現していくために、街や作り手と一緒に料理を楽しくしていく方法を発想できる場所であることが重要です。それが横浜でした」。

  • オフィスは「ただ働く場」ではないと言う福崎氏

同社は現在、恵比寿にオフィスを構えるが、5月に横浜へ移転する。人の集まりやすさを考えると、恵比寿のほうが有利だが、周辺の住環境や生産者へのアクセス、多様な『作り手』との関わり等は横浜が勝る。それらのメリットがミッションの実現につながると考えたようだ。

  • クックパッドの新オフィス

BCPや豊かな働き方を目的に移転を進めるパソナグループ

最後に登場したのがパソナグループ常務執行役員の高木元義氏だ。同グループは昨年9月、淡路島に本社機能の一部を移転することを発表し、話題を呼んだ。

「目的のひとつはBCP(事業継続計画)です。いろいろなところに本部機能を置くことで、大災害やテロがあっても事業を継続しやすくなります。また、真に豊かな働き方や夢のある新産業の創造といった狙いもありました。これらを達成するためには、いろんな人と交わることができる仕掛けが必要で、現在、徐々に移転を進めています」。

  • 淡路島への本社機能の一部移転について話す高木氏

真に豊かな働き方という面では、以前に本欄で取り上げた「ワーケーション」という観点からの試みでもある。また、本部機能の一部移転とは別に、地域の活性化に向け雇用や文化の創造、人材育成といったチャレンジも行っているようだ。

オフィスはクリエイティビティの発揮や夢を語り合う場へ

トークセッションでは、こうした各社の取り組みを踏まえた上で、オフィスの在り方や働き方に関する意見交換が行われた。

「今後求められるのは、従来の画一的なオフィスではなく、『部室的な』オフィスでしょう。つまり、いろんな人が集う場としてオフィスが必要であり、フラットな関係で夢を語り合ったり切磋琢磨したりすることでクリエイティビティが発揮できるのだと思います」。(高木氏)

「従来の一般的なオフィスやリモートワークでは、目標設定が分かりやすい短期的なものになりがちです。ところが、私たちのプラットホームづくりでは10年、20年といった長いスパンの目標づくりが求められます。そのため、会社の想いやビジョンを確かめ合う場としてオフィスが必要になると考えています」。(福崎氏)

「我々が高度成長期のようにがむしゃらに働く時代は終わりました。社員のクリエイティビティをいかに引き出すか。そのために、オフィスは重要な役割を担っています。オフィス環境を変えることでクリエイティビティを高め、日本の競争力を高めることにつなげていきたいと思っています」。(坂下氏)

3者に共通していたのは、リモートワークが浸透してもオフィスは必要だということ。ただし、従来型のオフィスではない。

働く人がクリエイティビティを発揮できるロケーションや環境に変えていく必要があると説く。その一環として、オフィスがもっと心地よい空間になったり、夢を語り合ったりできる場になるのであれば、ビジネスパーソンにとっても願ったりかなったりと言えるだろう。