「大豆ミート」を使ったメニューや商品を最近、ちょいちょい見かけるようになった。アメリカでは「人工肉」市場が急成長中だといったニュースも聞こえてくる。健康志向のほか、畜産業は温室効果ガスを多く排出するので地球温暖化の原因になるとの説があり、肉の替わりに大豆など植物性の原料で作った「代替肉」「フェイクミート」が近年、注目を集めているのだ。そんな中、ついにハンバーガーにも「植物性パティ」が登場。日本でも大手バーガーチェーン4社が販売中だ。
「大豆ミート」に「人工肉」「代替肉」「フェイクミート」「植物性パティ」、さらには「地球温暖化」……。言葉ばかりがこれだけ先行して入ってくると、何やら小難しい、意識が高いものに思えて、正直、距離を置いて見ている人も少なくないのではないだろうか。そこで、代替肉の食品、、肉や魚を使わない"ヴィーガン"バーガーを食べてみて実際どうなのか、はたして「おいしいのか」というところを、本来はゴリゴリのビーフ推しである筆者がレポートしてみようと思う。
ヴェジーバーガーとヴィーガンバーガー
まずは、たくさん出てくる言葉の整理から始めよう。東京・原宿にあるヴィーガンバーガー専門店「SUPERIORITY BURGER」(スペリオリティーバーガー)さんに教えていただいた。
スペリオリティーバーガーは、ニューヨークにある人気ヴィーガンバーガー店である。創業者のブルックス・ヘッドリー氏はハードコアバンドのドラマーとして活躍する一方、有名イタリアンレストランでペイストリーシェフ(パティシエ)を務め、2015年に同店を開業。料理本も出版し、2019年12月に2号店を日本の東京・原宿にオープンさせた。そんなヴィーガン先進国・アメリカからやって来た専門店に、まずは「ヴィーガンとベジタリアンの違い」からお聞きした。教えてくれたのは原宿店のマネージャー・鈴木将也さんだ。
まず、ベジタリアンとは「肉や魚を摂らず、野菜・芋類・豆類などの植物性食品を中心に摂る人」のことをいう。一方のヴィーガンは、ライフスタイルにおいて動物愛護の観点を持ち、食事においては「肉・魚類に加えて卵・乳製品なども一切食べない人」のこと。ベジタリアンは卵・乳製品を食べることがあるが、ヴィーガンではNG。つまり、ヴィーガンは「より徹底したベジタリアン」であるといえる。なお、ベジタリアンの中には、主義や思想・目的などにより、さらに細かな分類があるが、今はここまでの説明に留めておきたい。
ハンバーガーの世界にも「ヴェジーバーガー」(あるいはベジーバーガー、ベジバーガーなど)と呼ばれるもの、さらには「ヴィーガンバーガー」と呼ばれるバーガーがある。さて、この違いは何か。先のルールに当てはめると、ヴェジーバーガーは「肉や魚の代わりに野菜・芋類・豆類などの植物性食品を使ったバーガー」で、卵・乳製品は使用している(可能性がある)。ヴィーガンバーガーは「肉・魚類に加えて卵・乳製品なども不使用」となる。今回、先生役をお願いしたスペリオリティーバーガーはヴィーガンバーガーの専門店なので、全てのメニューで卵・乳製品を使用していない。店内・厨房内に動物性食材が一切ない環境で調理しているので、肉のエキスも加わらない、混じり気なしの完全なるヴィーガンバーガーを食べることができる。そこが一般的なハンバーガーショップとの大きな違いだ。
アメリカのスペリオリティーバーガーは、食に敏感なニューヨーカーたちが行列をなす人気店と聞くが、日本の店はどんな人が利用しているのだろう。2019年末のオープン当初は実に9割が外国人客だった。それが最近では日本人が6割にまで増えてきているという。「ヴィーガン」というワードで調べて来る人もいるが、「『面白そうだから来てみた』という人が増えてきました」とマネージャーの鈴木さんは手ごたえを語る。
ハンバーガーとして最も大事なのは…
では、スペリオリティーバーガーのメニューを見てみよう。現在、日本のバーガーメニューは5品ある。パティ(またはその代わりとなるもの)は3種類あり、そのすべてが植物性だ。国産の生湯葉を使った日本オリジナルメニューもある。まずは、看板メニューの「スペリオリティーバーガー」(SUPERIORITY BURGER)から頼んでみた。
パティはキヌア、タマネギ、マッシュルーム、ニンジンなど、スパイスを含めると10種類以上の植物性食材を調合し、最終的な成形まで丸一日を要する。見た感じはビーフパティに近いか。これをグレープシードオイルを引いた鉄板でグリルしている。バンズは都内パン店に特注していて、もちろん卵・乳製品は不使用。その裏にヴィーガン対応のマスタードマヨネーズ、さらにレタス、きゅうりの自家製ピクルス、トマトのコンフィ、そして、ナッツをベースに作った"チーズ風ソース"がかかる。
実食……。ソースの味が強く効いており、そこにピクルスの甘味やスパイスの刺激が加わって、辛くて甘い、かなりハッキリとした濃い味に仕上がっている。パティは量にして100グラムほどか。ところどころ「コリッ」とした粒感があるが、全体的にはソフトでやわらかな食べ口のバーガーだ。量・味ともに、健康食品によくある物足りなさは感じない。食べごたえ十分。意外や満腹に。
続いてもう一品、揚げた豆腐をパティにしたバーガー「TFT」(トーキョーフライドトーフ)を。
豆腐はブルックス氏が来日時に選んだもので、使っている量は4分の1丁ほど。こちらは仕込みに5日がかり。豆腐の表面に焼き目を付けたのち、水分を抜き、代わりに下味を吸わせ、これに衣を付けてグレープシードオイルで揚げている。ヴィーガンマヨを塗ったバンズの間にコールスローとともに挟むと……これがキョーレツに美味! 揚げ出し豆腐とも違う「衣のガリガリ」にまずヤられる。ましてや豆腐ハンバーグなどとはまるで別物の、今まで食べたことのない食感。ビネガーの酸味が効いたコールスローと合わさると、まるで白身魚のフライを食べているような感覚だ。と同時に、おいしい野菜サラダのサンドイッチを楽しんでいるようでもある。衝撃のおいしさ。
この時点で、「ヴィーガンが……」「地球環境が……」という断り書きは、筆者の中で完全に外れた。これは「おいしい食べ物」である。どんなに体に良くても、地球環境・食料問題を解決するものであるにしても、結局のところ「おいしくないと」食べ続けようとは思わないワケで、このスペリオリティーバーガーという店は、その「おいしくないと」のハードルを楽々と飛び越えてきたのである。ヴィーガンの枠や縛りを越えて、食べ物としてのおいしさや創作料理の面白さというレベルで語ることのできる店であることが、今回訪ねてみてよくわかった。
1億総フレキシタリアン化で社会が変わる?
ヴィーガン、ベジタリアンに加えて、「フレキシタリアン」という言葉も最近、耳にするようになった。肉を全く食べないワケではなく、「時には肉を取り入れた食事もするベジタリアン」のことである。そのスタイルを裏返して一般的な食生活に当てはめてみると、「時には肉を食べない食事をしよう」ということになる。つまり、フレキシタリアンとは、「今日は何を食べようかという選択肢のひとつにヴィーガン食がある人」ともいえるワケだ。
「ゼロか100かではなく、週に1度でも2度でもヴィーガン料理を食べる日を作る。そんな習慣が何万人、何百万人の生活に根付けば、いずれ社会全体の変化につながると思います」とマネージャーの鈴木さん。そうなるには、まず「おいしい」こと。そして「楽しい」こと。ニューヨークから来た専門店のヴィーガンバーガーは、筆者の予想の上をゆく、おいしくてワクワクする食べ物だった。おいしいは正義! さぁこれで、皆さんのヴィーガンバーガーとの距離も少しは縮まっただろうか。