「にやける」を「薄笑いをする」という意味で解釈していませんか? この表現を女性に対して使うのも実は誤用です。「にやける」は、誤用の多い表現なので、自分が使う場合はもちろん、相手がどういう意味で使っているかも注意して聞き分ける必要があります。
本記事では、「にやける」の正しい意味や使い方を紹介します。また、混同しやすい「にやにやする」との違いや、類義語・英語表現などについてもまとめました。
「にやける」とは
「にやける」とは、「男性が女性のようになよなよとして色っぽい様子」という意味で使われる言葉です。漢字では「若気る」と表記します。
鎌倉・室町時代には、「若気」は貴人に仕え、男色の対象となった少年を表す言葉でした。そこから、男性がなよなよとした様子や、女性のように色っぽい様子をしていることを指すようになったため、通常女性に使うことはありません。
また、「にやける」を「薄笑いを浮かべる」の意味で使っているケースが多くみられます。これは本来の意味ではなく、誤用あるいは俗に使われる表現です。
ただ、現在では「薄笑いを浮かべる」という意味で「にやける」を使っているケースが多くみられます。そのため、どちらの意味で「にやける」が使われているかは、文脈で判断する必要があります。
「にやける」の使用例
近代文学の有名な文豪、森鴎外の『青年』(明治43年)より、本来の意味で使われている「にやける」の使用例をみてみましょう。
この時黒羽二重の五所紋の羽織を着流した、ひどくにやけた男が、金鎖の前に来て杯を貰らっている。二十代の驚くべく垢の抜けた男で、物を言う度に、薄化粧をしているらしい頬に、竪に三本ばかり深い皺が寄る。その物を言う声が、なんとも言えない、不自然な、きいきい云うような声である。(森鴎外「青年」 明治43年)
男の描写をみると、「着流した」「垢ぬけていて」「薄化粧をいている」など、着飾った様子が多く記載されています。状況からみて、「薄笑いを浮かべている」という意味では使っておらず、本来の意味の「男性が女性のようになよなよとして色っぽい様子」で使われていることがわかる例です。
「にやける」と「にやにやする」の違い
「にやける」と似た語感の言葉に「にやにやする」があります。「にやにや」とは、「声を出さず薄笑いを浮かべる様子」を表す副詞です。「にやける」のように男性という性別の使いわけは特にありません。
ただ、「にやにやする」と同じ意味合いで「にやける」を使っているケースは多くみられます。薄笑いを表現したい場合は、できる限り「にやにやする」を使うように意識しましょう。
「にやける」ときの心理とは?
「男性がにやけるときの心理」という場合、今日では「薄笑いを浮かべている男性の心理」として「にやける」を使っているケースがほとんどです。
インターネットで「にやける男 心理」を検索してみると、「薄笑いを浮かべている男の心理」としているケースが上位を占めています。みつかる情報の多くは、好意のサインかどうかを知りたい女性向けの内容です。
本来の「男性がなよなよとしている」心理を調べたい場合は、「にやける」という言葉を避けて別の言葉で検索する方がいいでしょう。「なよなよ」や「女々しい」など別の表現で検索すると、「にやける」本来の意味での心理がみつかりやすくなります。
「にやける」の英語・中国語表現
「にやける」の英語表現は、優しく、物腰が柔らかいという様子を表現する「be gentle」などがあります。「気取り屋」なら「a fop」、「女々しい」という場合は「effeminate」。中国語表現では、同義の「男人帯女人相」があります。
ここまでで、「にやける」の基本的な意味について説明しましたが、自分の思っていた意味とは違ったと感じる人も多いのではないでしょうか。次に、「にやける」の誤用パターンについてもう一度整理します。
「にやける」の誤用パターン
「にやける」の誤用パターンは主に2つ。「薄笑いをする」場合に使うパターンと、「女性」に対して使うパターンです。
「薄笑いをする」という意味で使うのは誤用
「にやける」には、語源からみても「薄笑いをする」という意味は含まれません。しかし、あまりにも多くの人が「薄笑いをする」と解釈するため、「俗に、薄笑いをするという意味に使われている」という注釈をつける辞書もみられます。
文化庁の「国語に関する世論調査」では、「にやける」の意味を「薄笑いをする」という意味で使っている人が76.5%でした。回答者の4人に3人以上は本来の意味ではない解釈をしているという結果で、本来の「なよなよとしている」という意味で解釈した人は14.7%に留まっています。
年代の傾向としては、年配者は「なよなよとしている」という解釈をする人が多い傾向にありますが、60歳以上で21.6%という結果でした。
ただ、現状ではまだ「にやける」を「なよなよとしている」という意味で載せている辞書がほとんどです。ビジネス上ではほとんど使う機会はないかもしれませんが、自分で「にやける」を使う場合は、本来の意味で使うようにしましょう。
女性に対して使う
「にやける」を「なよなよとしている」という意味で使う場合、女性に対して使うのは誤用です。ただし、本来の意味ではない「薄笑いをする」という表現で使う場合は、性別の制限はありません。
「にやける」の使い方と例文
「にやける」の正しい使い方を改めて整理し、誤用の例文・正しい例文をいくつか紹介します。
正しい使い方を整理
「にやける」の正しい使い方は以下の通りです。
- なよなよとした様子や着飾った様子の男性に対して使う
- 女性に対しては一般的には使わない
- 薄笑いを浮かべる意味では使わない
ここまで解説してきた内容の繰り返しになりますが、もう一度整理しましょう。
誤用の例文
「にやける」を誤用している例文をいくつか紹介します。
1.色気を漂わせてにやけた女性が街を歩いている。
(女性には使わないのでNG)
2.女性を見てにやける男性の心理を詳細に解説!
(薄笑いの意味で使っているのでNG)
1の例文は、本来の「なよなよとした様子や着飾った様子」という意味で「にやける」を使っていますが、女性に対して使っているため誤用です。2の例文は、「薄笑いを浮かべる」という意味で使っているため誤用と言えます。
正しい例文
上記に挙げた例文を、正しい意味となるよう修正し、正しい例文として紹介します。
1.色気を漂わせてにやけた男性が街を歩いている。
2.女性を見てにやにやする男性の心理を詳細に解説!
1の例文は、性別を男性にすることで正しい使い方となります。また、2の例文は、「薄笑いを浮かべる」という意味の「にやにやする」に置き換えると正しい意味となります。
「にやける」は、本来の正しい意味で理解できる人が少ないため、利用シーンを選ぶ言葉です。類義語や対義語などに置き換えることでよりわかりやすくなる場合もあるため、これらの表現も一緒に覚えましょう。
「にやける」の類義語と対義語
「にやける」は、「なよなよとした」「ふにゃふにゃした」「洒落っ気のある」などの類義語に置き換えられます。また、「男らしさ」を強調するような「雄雄しく」などは、「にやける」の対義語です。これらの言葉を使った例文をいくつか紹介します。
「ふにゃふにゃした」
「ふにゃふにゃした」は、「にやける」と同じく、なよなよとした様子を表現する言葉です。
- ふにゃふにゃした態度ではなく、もう少しハキハキと話しましょう。
- 花丸木くんはふにゃふにゃしていますが、そこが彼の魅力です。
「洒落っ気のある」
「洒落っ気のある」は、「にやける」と同じく、なよなよとした様子を表現する言葉です。
- いつも女性受けのいい服装をしている彼は洒落っ気のある男性です。
- 洒落っ気のある彼は、センスのいいコーディネートで清潔感があります。
「雄雄しく」
男性らしさを強調する「雄雄しく」は、「にやける」と反対の意味を持つ言葉として使えます。
- 「雄雄しい織田信長」と「にやけた花丸木くん」を同時に演じるなんて、彼はすごい俳優だと思う。
- 雄雄しくふるまっていた彼だからこそ、内面の苦悩は大きかったのかもしれない。
「にやける」は誤用が多いので会話では要注意
「にやける」とは、「男性がなよなよとした態度をとること」であり、「薄笑いを浮かべること」ではありません。また、女性に対しては通常使わない表現であることも把握しておきましょう。
非常に誤用の多い表現なので、会話で相手が「にやける」を使った場合、どういう意味なのかは前後の文脈で判断する必要があります。自分で使うときは、正しい意味で使えるようにして、仕事をスムーズに進めてくださいね。