作詞家・音楽プロデューサーのいしわたり淳治氏が、12日からHuluとTikTokで配信されている新たな音楽番組『Once in a Blue Moon』に出演。毎回1組のアーティストが、憧れのアーティストと対面し、対談やコラボレーションのパフォーマンスを披露するというコンテンツで、いしわたり氏は、シンガーソングライター・ひらめにとっての憧れのアーティストだ。

ひらめが注目を集めることになった楽曲「ポケットからきゅんです!」のヒットについて「好意的に捉えています」と喜ぶいしわたり氏。音楽と流行語の関係に加え、様々なジャンルにおける言葉を見続ける中で、作詞のセンスに期待する意外な人物など、話を聞いてみた――。

  • いしわたり淳治氏

■メインカルチャーで流行るからこそ

「最近は芸人さんのリズムネタみたいなところから流行語が出ていましたが、いわゆるミュージシャンとか音楽を生業にしている人から流行語が出ないという状況が、ちょっと寂しいと思っていたんです」という、いしわたり氏。

それだけに、「ポケットからきゅんです!」から派生した“きゅん現象”と呼ばれる流行について、「すごく大きな進歩で明るいニュースだと思って、好意的に捉えていました」と語る。

近年、音楽発の流行語が生まれなかった背景は、「単純に“流行歌”というものがなかったんだと思います。DA PUMPの『U.S.A.』まで、誰もが知っている明るいヒット曲ってあまりなかったと思うんですよ。僕は、音楽のどこかで“祭り”が起きて、それがメインカルチャーの中で流行っているからこそ、カウンターカルチャーとして真面目でシリアスな音楽も輝くと思うんです。メインで皆さんに遊んでもらえるような歌があるからこそ、サブカルチャーとしての音楽それぞれに価値が生まれると思うんですが、全員がサブをやってしまうとその芯自体が弱くなってしまう気がするんですよね」と分析。

さらに、「CDの時代からサブスクの時代になっていくんですが、移行していく過渡期が結構長くて、音楽の聴かれ方や生まれ方が定まらなかったので、音楽シーン全体の次のステップや景色というのが、なかなか見えなかったんでしょうね」とも解説した。

■「TikTokってどれくらい楽しいのか」

昨今のシティポップ・リバイバルの流行について、その要因は「おしゃれ」にあったと解釈。「コード感やメロディーや歌っている内容がおしゃれな感じというのが、とてもSNS的だなと思いました。SNSって自分の暮らしの中で一番おしゃれな部分を見せるものなので、それが音楽に波及しているのではないでしょうか」と、ヒットとの関係性を見る。

「ポケットからきゅんです!」は、TikTok発のヒットとなったが、その上で、「こういうSNSのツールというのは、立ち上がっては廃れるを繰り返していくので、誰が永遠を手に入れるかは分からないですが、特に去年のTikTokは、新しいツールという感じがしましたね」と実感を振り返った。

今回の番組では、ひらめとの対談を収録するが、「TikTokってどれくらい楽しいのか、聞いてみたいです」と興味。「10~20代の人にとってのツールというのは、僕らが見ているものの体感と絶対違うと思うんですよね。投稿する感覚だったり、共有する感覚だったり、僕らが想像でしかできない実感みたいなものがあるんだろうなと思います」と対面に期待を寄せていた。

  • いしわたり淳治氏(左)とひらめ

■狩野英孝とは「なんて素敵な生き物なんだ!」

コロナ禍によって様々なエンタメが影響を受けたが、音楽業界では「単純にスタジオに入れなくなったミュージシャンがたくさんいたと思うので、弾き語りであったり、完全な打ち込みだったり、手の中から生まれてくるような音楽が多かったと思います」と回想。

人と直に接する機会が減ることによって、「オンラインで会議とか打ち合わせをしてると、もちろん内容は伝わるし受け取れるんですけど、人と雑談することが減ったのは大きかったですね。やっぱり雑談から生まれるクリエイティブってあるんですよ。チームとしての力を上げてくれるものなので」という影響もあったそうだ。

楽曲の歌詞にとどまらず、テレビや書籍など様々なジャンルにおける“言葉”に着目する、いしわたり氏。音楽以外のジャンルから、作詞のセンスがありそうな人を聞いてみると、「この前、狩野英孝さんと対談させていただいたら、めちゃくちゃ面白かったんですよ(笑)。みんなが笑っている要素を、本人はすべてカッコいいと思って、ものすごくピュアでいらっしゃる。『なんて素敵な生き物なんだ!』って感銘を受けましたね(笑)」と絶賛する。

「ミュージシャンって、基本的に真面目な人が多いので、“ふざける塩梅”が難しいんですけど、やっぱり芸人さんって、そのあたりの塩梅を肌で感じられるんですよね。たった一言で全部ひっくり返しちゃうとか、それをやれる勇気を持っているので、ちゃんと面白さを理解して面白い曲を書けるという意味では、ミュージシャンにないものだと思います」と、その特性を推察していた。