生命保険料控除の上限額について解説します。新制度と旧制度の整理、どちらか選択できる場合は新旧どちらの方がお得かという点についてもまとめました。確定申告や年末調整で控除の申告をする際に迷っているという方はご確認ください。
生命保険控除の上限額
生命保険料控除の上限額は、生命保険の締結日により、新制度と旧制度に分かれ計算されます。生命保険が新制度か旧制度かの判断基準は以下の通りです。
- 旧制度 : 2011年(平成23年)12月31日以前に締結した保険契約(※)
- 新制度 : 2012年(平成24年)1月1日以後に締結した保険契約
(※)契約日が2011年(平成23年)12月31日以前であっても、2012年(平成24年)以後に契約の更新や特約の中途付加等をした場合には、その契約全体の保険料が新制度の対象になります
旧制度と新制度に分けて生命保険料控除の上限額について説明します。
旧制度の生命保険控除
旧制度の生命保険料控除の上限額について以下の表にまとめました(※1)。
上限額 | |
---|---|
一般生命保険料控除 (遺族保障、介護保障、医療保障) |
所得税 : 5万円 住民税 : 3万5,000円 |
個人年金保険料控除 (老後保障) |
所得税 : 5万円 住民税 : 3万5,000円 |
旧制度の合計上限額 | 所得税 : 10万円 住民税 : 7万円 |
旧制度では、一般生命保険料として、遺族保障・介護保障・医療保障に関する保険料を合算します。
なお、老後保障に関する個人年金保険料は、別枠で計算します。
どちらも上限額は所得税5万円ずつ、住民税は3万5,000円ずつとなり、合計で所得金額から控除される金額は、所得税が10万円、住民税が7万円です。
新制度の生命保険控除
新制度の生命保険料控除の上限額は以下の通りです。
上限額 | |
---|---|
一般生命保険料控除 (遺族保障) |
所得税 : 4万円 住民税 : 2万8,000円 |
介護医療保険料控除 (介護保障、医療保障) |
所得税 : 4万円 住民税 : 2万8,000円 |
個人年金保険料控除 (老後保障) |
所得税 : 4万円 住民税 : 2万8,000円 |
新制度の合計上限額 | 所得税 : 12万円 住民税 : 7万円(※) |
(※)新制度において「一般生命保険料」「介護保険料」「個人年金保険料」の住民税の所得控除限度額を合計した場合の限度額は7万円となります
新制度では、遺族保障の生命保険は一般生命保険に、介護保障と医療保障は介護医療保険料に分けて計算します。個人年金保険料は旧制度と同じです。
どの分類の保険料も、所得税の上限額は4万円、住民税の上限額は2万8,000円となります。3種類の控除上限額を合計すると、所得税が12万円、住民税が7万円となり、所得税は旧制度よりも2万円分アップします。
生命保険控除額の計算方法
こんな場合はどうなる? 生命保険料控除の上限額
旧制度・新制度それぞれの生命保険料控除の上限額について整理しましたが、新旧両方の生命保険を契約している場合にはどうなるのでしょうか。
そこで、新旧両方の生命保険を契約している場合や、支払っている生命保険料が上限額を超える場合の扱いについて解説します。
旧制度と新制度両方の生命保険がある場合どちらが得?
旧制度と新制度の両方の生命保険がある場合、新制度のみ・旧制度のみ・新旧合算の3パターンで計算して、一番有利になる計算を選択できます。
例として、以下の生命保険料を支払っている例でシミュレーションしてみましょう。
<支払っている保険料例>
(1) 一般生命保険支払額(新制度) : 3万円
(2) 一般生命保険支払額(旧制度) : 5万円
(3) 介護医療保険支払額(新制度) : 8万円
(4) 介護医療保険支払額(旧制度) : 3万円
(5) 個人年金保険支払額(新制度) : 5万円
(6) 個人年金保険支払額(旧制度) : 3万円
所得税、住民税の控除額計算式は、それぞれ以下の通りです。
■新制度・所得税
年間の支払保険料等 | 所得税の生命保険料控除額 |
---|---|
2万円以下 | 支払保険料等の全額 |
2万円超4万円以下 | 支払保険料等×1/2+1万円 |
4万円超8万円以下 | 支払保険料等×1/4+2万円 |
8万円超 | 一律4万円 |
■新制度・住民税
年間の支払保険料等 | 住民税の生命保険料控除額 |
---|---|
1万2,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
1万2,000円超3万2,000円以下 | 支払保険料等×1/2+6,000円 |
3万2,000円超5万6,000円以下 | 支払保険料等×1/4+1万4,000円 |
5万6,000円超 | 一律2万8,000円 |
■旧制度・所得税
年間の支払保険料等 | 所得税の生命保険料控除額 |
---|---|
2万5,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
2万5,000円超5万円以下 | 支払保険料等×1/2+1万2,500円 |
5万円超10万円以下 | 支払保険料等×1/4+2万5,000円 |
10万円超 | 一律5万円 |
■旧制度・住民税
年間の支払保険料等 | 住民税の生命保険料控除額 |
---|---|
1万5,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
1万5,000円超4万円以下 | 支払保険料等×1/2+7,500円 |
4万0,000円超7万円以下 | 支払保険料等×1/4+1万7,500円 |
7万0,000円超 | 一律3万5,000円 |
パターン1 : すべて新制度で計算する場合
すべて新制度で計算する場合、旧制度の生命保険料は無視して新制度の生命保険料のみを、新制度の計算式・上限額に当てはめて計算します。
種別 | 税別 | 計算式 | 控除額 |
---|---|---|---|
一般生命 保険料控除 |
所得税 | 3万円(1)×1/2+1万円=2万5,000円 | 2万5,000円 |
住民税 | 3万円(1)×1/2+6,000円=2万1,000円 | 2万1,000円 | |
介護医療 保険料控除 |
所得税 | 8万円(3)×1/4+2万円=4万円 | 4万円 |
住民税 | 8万円(3)は5万6,000円超のため、2万8,000円 | 2万8,000円 | |
個人年金 保険料控除 |
所得税 | 5万円(5)×1/4+2万円=3万2,500円 | 3万2,500円 |
住民税 | 5万円(5)×1/4+1万4,000円=2万6,500円 | 2万6,500円 |
上記で計算した控除額から、合計の控除額を算出します。
所得税の合計控除額 | 2万5,000円+4万円+3万2,500円=9万7,500円 |
---|---|
住民税の合計控除額 | 2万1,000円+2万8,000円+2万6,500円=7万5,500円 (※)上限を超えたので7万円 |
所得税の合計控除額は上限の12万円に達しなかったので、そのまま控除額となります。住民税の方は、上限7万円を超過するため7万円が控除額となりました。
パターン2 : すべて旧制度で計算する場合
次に、すべて旧制度の場合で計算してみました。旧制度の場合、一般生命保険支払額の5万円(2)と介護医療保険支払額の3万円(4)は合算して計算します。
種別 | 税別 | 計算式 | 控除額 |
---|---|---|---|
一般生命 保険料控除 |
所得税 | 8万円( 5万円(2)+3万円(4) )×1/4+2万5,000円=4万5,000円 | 4万5,000円 |
住民税 | 8万円( 5万円(2)+3万円(4) )は7万超なので一律3万5,000円 | 3万5,000円 | |
個人年金 保険料控除 |
所得税 | 3万円(6)×1/2+1万2,500円=2万7,500円 | 2万7,500円 |
住民税 | 3万円(6)×1/2+7,500円=2万2,500円 | 2万2,500円 |
上記で計算した控除額から、合計の控除額を算出します。
所得税の合計控除額 | 4万5,000円+2万7,500円=7万2,500円 |
---|---|
住民税の合計控除額 | 3万5,000円+2万2,500円=5万7,500円 |
旧制度のみで計算すると、所得税の合計控除額は7万2,500円、住民税の合計控除額は5万7,500円と、新制度のみで計算した方が、控除額が多くなります。
パターン3 : 新旧合算で計算する場合
ここまで計算してきた新旧制度の生命保険料控除額を合算して計算します。新旧の生命保険料を合算する場合、個別および合計の控除上限額は、どちらも新制度のものが適用されます。計算の過程は以下の通りです。
種別 | 税別 | 計算式(パターン1+2) | 控除額 |
---|---|---|---|
一般生命 保険料控除 |
所得税 | 2万5,000円+4万5,000円=7万円 | 4万円 |
住民税 | 2万1,000円+3万5,000円=5万6,000円 | 2万8,000円 | |
介護医療 保険料控除 |
所得税 | 4万円(新制度のみ) | 4万円 |
住民税 | 2万8,000円(新制度のみ) | 2万8,000円 | |
個人年金 保険料控除 |
所得税 | 3万2,500円+2万7,500円=6万円 | 4万円 |
住民税 | 2万6,500円+2万2,500円=4万9,000円 | 2万8,000円 |
上記で計算した控除額から、合計の控除額を算出します。
所得税の合計控除額 | 4万円+4万円+4万円=12万円 |
---|---|
住民税の合計控除額 | 2万8,000円+2万8,000円+2万8,000円=8万4,000円 (※)上限を超えたので7万円 |
住民税の合計控除額はパターン1とパターン3が上限の7万円という結果に。一方、所得税の合計控除額は12万円で、パターン3がもっとも多いという結果になりました。
加入している契約によって、どのパターンが一番お得になるかは変わってきます。どのパターンが一番お得なのか、新制度のみ・旧制度のみ・新旧合算の3パターンで計算してご自身でも確認しましょう。
生命保険料が上限額を超えたらどうなる?
新制度・旧制度ともに、個別に合算した年間支払保険料が上限額を超えると一律控除額は同じになります。新旧制度と税の種別で年間支払保険料と上限の控除額の関係をまとめました。
制度・税の種別 | 年間支払保険料 | 控除額 |
---|---|---|
新制度・所得税 | 8万円超 | 4万円 |
新制度・住民税 | 5万6,000円超 | 2万8,000円 |
旧制度・所得税 | 10万円超 | 5万円 |
旧制度・住民税 | 7万円超 | 3万5,000円 |
保険料をすべて合算しなくても年間支払保険料が新制度で8万円超・旧制度で10万円超になる場合は、それ以上いくら保険料を加算しても控除額は増えません。
なお、複数の生命保険に加入していて、そのうち上限額を超えるような高額保険料の保険契約がある場合には、上限額を超える保険のみで申告しても大丈夫です。
生命保険料控除とふるさと納税(寄付金控除)の上限額の関係
生命保険料控除は、ふるさと納税(寄付金控除)の上限額と関係します。どのように関係するのか具体的に説明しますので、ふるさと納税の上限額を計算する際お役立てください。
生命保険料控除はふるさと納税上限額に影響する
生命保険料控除は所得控除の一種です。そのため、生命保険料控除をすると、その分所得金額が少なくなり、ふるさと納税(寄付金控除)の上限額がその分低くなります。具体的にどのような影響があるかをシミュレーションしてみましょう。
生命保険料控除とふるさと納税上限額のシミュレーション
例えば、生命保険料控除以外の所得控除後の所得金額が200万円で、生命保険料控除が所得税で11万2,500円、住民税で7万円だったとします。控除対象となるふるさと納税の上限額は、所得税の場合、総所得金額等の40% です。ふるさと納税の上限額を求める計算は以下のようになります。
生命保険控除後の所得金額 : 200万円-11万2,500円=188万7,500円
生命保険控除前のふるさと納税上限額 : 200万円×40% =80万円
生命保険控除後のふるさと納税上限額 : 188万7,500円×40% =75万5,000円
一方、住民税では、ふるさと納税の上限額は総所得金額等の30% です。
生命保険控除後の所得金額 : 200万円-7万円=193万円
生命保険控除前のふるさと納税上限額 : 200万円×30% =60万円
生命保険控除跡のふるさと納税上限額 : 193万円×30% =57万9,000円
このように、生命保険控除を行った後は所得金額が少なくなるため、ふるさと納税の上限額は減少します。
あわせて読みたい : ふるさと納税控除上限額は? 計算式と具体事例を紹介
生命保険料控除の上限額を把握してお得な方法で申告しよう
生命保険料控除の上限額は、新制度と旧制度で明確に定められていますが、金額により計算方法が違うなどかなり複雑です。新制度のみ・旧制度のみ・新制度と旧制度を合算する、いずれのパターンがもっともお得か、実際に計算してみましょう。
また、生命保険控除は、ふるさと納税の上限額にも影響を与える要素のひとつです。ふるさと納税に使える金額の計算はとても複雑なので、居住地の自治体が計算ツールなどを公開している場合は、そのツールを使って計算してみてください。
参照 :
(※1)国税庁「No.1140 生命保険料控除」