今、若者を中心に資産運用への関心が高まっている。特に少額投資非課税制度(NISA)の利用者が急増しているという。金融庁の発表によると、2020年12月末時点の口座数は1,523万口座で、この1年間で10%以上増加。つみたてNISAに限ると302万口座と1年間で1.6倍に増えた。長引くコロナ禍への不安が、生活防衛=資産形成への意欲に繋がっているようだ。

  • ウェルスナビ代表取締役CEO・柴山和久氏

しかし、投資のイロハがわからず、NISAを知っていても始めていないという人が多い。またせっかくNISAの口座を作っても、運用に至っていない人は一般NISAで半数以上、つみたてNISAで4割以上になる(2019年の1年間)などかなり多い。

そこで今回、ロボアドバイザー「WealthNavi(ウェルスナビ)」を提供するウェルスナビ代表取締役CEO・柴山和久氏に、新社会人のための資産形成やNISA活用のポイントをうかがった。

資産運用の王道は「長期」「積立」「分散」

――資産運用では「分散が大事」と聞きますが、どういうことでしょう?

長期的な資産運用を考えれば、その王道は「長期」「積立」「分散」です。10年以上の長期に渡ってコツコツと積立をしながら、世界中の資産に分散して運用していくことが大切ということですね。これが理論的にも正しく、実践面でも最も合理的だとされています。

――その理由を簡潔にご説明いただけますか?

さまざまな資産を組み合わせることでリスクを減らし、安定的に資産運用ができるからです。これは1990年にノーベル経済学賞を受賞したハリー・マーコビッツ氏も提唱しています。投資や資産運用というと、日本では個別で株式や仮想通貨を選んで投資するイメージが持たれがちですが、特定の株式や仮想通貨だけに投資するのはハイリスクなんです。

個別株式や仮想通貨では、わずか数ケ月で10~30%の大きなリターン、または損失が頻繁に起こることもあります。しかし、世界経済全体に分散すれば、短期的に大きなリターンも得られない代わりに、リスクも抑えられるんです。リーマンショックやコロナショックなど、短期間で大きく値下がりする時期もありましたが、10年、20年と長期で投資するのであれば、こうした危機の影響は限定的になっていくでしょう。

――リスクを抑えながら、なぜリターンが得られるのでしょう?

世界経済の成長がリターンの源泉になっているからですね。過去25年間を見ると、世界で分散した場合の投資の年率は、経済成長率より高いんです。これは『21世紀の資本』のトマ・ピケティが実践的に示していることでもあります。

ただ、世界経済ではなく、日本経済に限定するとこう上手くはいきません。バブル崩壊後の日本経済は「失われた20年」と言われるように、成長率が一番低い国のひとつでしたから。投資しても、リスクに見合ったリターンが得られないんです。

そもそもNISAってどんな制度?

――NISAへの関心が高まっていますが、改めて、NISAとはどんな制度なのでしょう?

NISAは少額投資の非課税制度です。NISAにも一般NISA、つみたてNISA、そしてジュニアNISAと種類があります。一番使われているのは一般NISAで、最大で年間120万円、最長5年で600万円が非課税で投資できます。

例えば、100万を運用し、5年後に150万円まで増えた場合、利益分の50万円に対して通常は約20%の税金がかかりますが、NISAなら税金かからないので約10万円の節約ができます。

――デメリットはありますか?

NISA制度を利用できる期間が終わった時点で投資した資産が目減りしていて、そのまま投資を続けた場合は、再び資産の評価額が上がったときに支払う税金が逆に増えてしまいます。

例えば、100万円でスタートし、非課税期間が終わった時点で80万円まで資産が目減りしていて、そのまま投資を続けようとすると、80万円で投資をスタートしたと見なされてしまうんです。その後、100万円まで戻ったときに売っても20万の利益が出たとカウントされてしまうので、税金が発生してしまうんです。

ただし、世界中に分散して中長期の資産運用をすれば、資産が増える可能性のほうが高いので、やはりメリットのほうが強いと思います。

――2024年には新制度が始まるそうですね。

2024年には新型NISAがスタートします。その制度は2段階になっていて、1階部分が年間20万円までのつみたてNISA。1階部分を1円でも利用すれば、2階部分となる一般NISAの枠で102万円まで投資できます。枠は合計で122万円なので、今より少し増えることになりますね。

政府によると、新型NISAは「貯蓄から投資へ」という流れの一環。個人の資産形成を進めること、そして資産が投資に向かうことで産業がさらに発展していくことを目指しているようです。つまり、貯蓄と経済成長を両立させることが新型NISAの制度目的だということですね。

――NISAはどういう世代に向いているのでしょう?

非課税制度のなかでは、若い人に向いていると思います。というのも、その日がくるまでお金を引き出せない年金型制度と違い、NISAならいざというときすぐに資産を引き出せます。若い人たちは結婚や留学など、急な出費が必要になる可能性が他の世代より高いので、そういう意味でも若い皆さんにとってはメリットのある制度だと言えます。

若いうちは積立投資より「自己投資」も大切に!

――ウェルスナビが「おまかせNISA」というサービスを作ったそうですが、どんなサービスなんですか?

「おまかせNISA」は今年2月に始まった新機能です。NISAを使った資産運用が自動でおまかせでできる日本初のサービスとなります。世界50カ国、計1万1000銘柄の株や債券、不動産、金に分散して自動で投資し、相場が動いても適切な資産配分が維持されるよう自動でリバランスする仕組みになっています。

実は、「NISAという言葉を聞いたことがある」という人のなかで、「実際にNISAを使っている」という人は半分以下。さらに、「NISAの口座はあるけど1円も投資したことがない」という人が一般NISAで約半数にものぼります。制度が難しくて理解できない、どの商品を買えばいいかわからない、という人が多いんですね。「おまかせNISA」は、そんな忙しく働く方々にも利用してもらいたいという思いで開発しました。

――やはり若い頃からNISAなどで投資を始めるべきですか?

「長期・積立・分散」投資は、時間をかけることでリターンがより大きくなる可能性があります。つまり、時間を味方に付けた投資ですから若い人ほど有利ですし、そういう意味では1年でも早く始めたほうがいいでしょう。

一方で、投資するお金は自分の収入から捻出しなければなりません。今後の収入を増やすためには、若い人ほど自分に投資することも大切です。若い頃に自己投資すれば、世界経済よりも自らの成長率のほうが速いはずですから、上手くいけば何倍、何十倍のリターンが返ってきます。

――ご自身でもそういう経験が?

私自身、大学時代にローンを組んで英会話を学んでいたので、借金を抱えたまま社会人生活をスタートさせました。でも、英会話に使ったお金は何倍、何十倍にもなって返ってきたと思っています。

そして、お金に余裕がないなかでも海外へ旅行や留学に行き、視野を広げて、経験を積みました。そのお金を世界経済に投資したら大きなリターンもあったかもしれませんが、自分へ投資したことは正しかったと強く感じています。

もし、投資を趣味にするつもりなら、投資の勉強にどんどん時間を割くことが大事です。でも、投資以外の趣味を持つ人もたくさんいますよね。学生時代は趣味にお金が使えなかったかもしれませんが、社会人はもっと自由にお金が使えます。きっと、そこで新しい世界も見えてくるでしょう。

――そんなことを言ったら、若い客が逃げることになるのでは?(笑)

私たちは、誰でも安心して利用できる社会インフラサービスを作りたいと思っています。若い人たちには、自己投資がひと段落し、資産運用にお金を回せるようになったときに私たちのことを思い出してもらえればいい。私たちは、そのときにウェルスナビをもっと魅力的なサービスにしていたいと考えています。

老後に向けた投資も重要ですが、若いうちはあまり資産運用に時間を使わないでいいと思います。それでも投資がしたいというのであれば、時間を節約するためにウェルスナビの「おまかせNISA」に任せていただければうれしいです。