フジテレビとヨーロッパ最大の公共放送局・ドイツZDFの子会社・ZDFエンタプライズ社(以下、ZDFE)が共同出資製作する国際的な大型プロジェクトの連続ドラマ『THE WINDOW』(2022年全世界放送・配信予定)。かねてより注目されていたのが、日本人女優のキャスティングだ。出演者の中で唯一の日本人であることがその理由にある。数百人が参加したオーディションを経て大抜てきされたのは、ロンドンをベースにこれまで地道に役者活動を続けてきた中優理々(なか・ゆりり)だった。
日本のメディアに登場するのはこれが初。なぜ、チャンスをつかみ取ることができたのか。コロナ禍に行われた撮影秘話などとともに聞いた――。
■撮影は「一瞬一瞬を噛み締めていた毎日」
連続ドラマ『THE WINDOW』はストーリーから製作体制に至るまで、とにかくスケールが大きい。イギリスを代表する脚本家、ジェームス・ペイン(James Payne)による完全オリジナルストーリーで、舞台は数千億円の資金が動くと言われる世界最高峰のサッカーリーグのひとつ、イングランド・プレミアリーグの移籍市場「ウィンドウ」。主人公である17歳の天才サッカー少年のプロ契約主導権を巡って、スリル満点な10週間が描かれる。
撮影場所はイギリスをはじめベルギー、マルタ共和国などヨーロッパ各地をまたがり、日本を含む約70か国から集まった役者・スタッフが関わる。今年の秋に完成予定で、その後、フジテレビとZDFEによって全世界に配給される。
そんな超大型の国際プロジェクトドラマに唯一の日本人キャストとして、中が抜てきされた。主人公が所属するエージェント会社「セプター社」の従業員役で、後半パートではトリガーをひく重要な役どころを演じる。さぞやプレッシャーを感じたのではないか?と思いきや、中の答えは「この役を頂けたうれしさの方が上回り、撮影現場では楽しみながら、一瞬一瞬を噛み締めていた毎日でした」と、情熱あふれるものだった。台本を渡されたときからワクワクが止まらなかった様子だ。
「話の次が気になってしまって、最後まで一気に読んでしまったほど。サッカービジネスの裏側を暴いていくスリルとスピード感があります。主人公のサッカー少年が逆境からのし上がっていく姿に応援したくなるのはもちろんのこと、男性社会の中で頭角を現していく女性のキャラクターもいて、登場人物それぞれに光るものがあります。私の役は日本人という設定ですが、日本人が前面に押し出されているわけではなく、人物像が先に見えてくる。そして、ブリティッシュユーモアたっぷりのセリフが多いコメディリリーフの役割を持っています」
「コメディリリーフ」とはシリアスなストーリーの中で緊張を和らげるために現れるキャラクターのことを指す。本質を突いた発言によって場の空気を変えてしまう憎めない人物で、愛され系キャラといったところか。さらにラブ要素も担うというから、ますます気になる役柄である。
■国境が閉まる前に飛んで帰り…
撮影は2019年10月から始まり、予定では昨年4月にクランクアップするはずだったが、ドラマ『THE WINDOW』もご多分に漏れず、コロナ禍の影響をもろに受けてしまう。そのときの苦労話も生々しく明かしてくれた。
「去年の3月半ばを過ぎたところで、撮影続行が危ぶまれていきました。中盤にあたる2ブロック目の撮影をアントワープ(ベルギー)で撮り終えた日の翌日からロックダウンに入るというタイミング。まさにギリギリまで撮影でした。国境が閉まる前にそれぞれ国に飛んで帰り、私もイギリスに一旦戻ることに。1か月もすれば、再開するだろうと思っていたのですが、一向に開かない…」
焦りと不安に見舞われたが、そんなときもドラマチームの結束力の固さが救いになったという。
「もともと役者、スタッフの間で連絡事項に限らず、コミュニケーションツールとしてWhatsAppのグループトークをよく利用していたんです。ロックダウン中もオモシロ動画や画像を皆で送り合ったりして。精神的に助けられましたし、つながっていることを強く感じました」
約3か月の休止期間を経て、中を含めて全員がPCR検査を受けた後、撮影が再開したのは昨年7月。だが、その後も慣れないコロナ対応に追われる。
「実は再開直後にコロナ騒動があったんです。オフィスのスタッフの方に陽性反応があり、撮影現場とは物品のやり取りだけだったものの、騒然となりました。それでも皆、撮影を続けたい、後悔したくないから私もやりたいって思いました。気を引き締め、一致団結しながら、本番以外は役者も常にマスク着用、消毒なども徹底しました。群衆のシーンが書き換えられるといった一部脚本変更などもありましたが、終盤の撮影を何とかして無事に終わらせたいっていう気持ちが強かったですね」
こうして危機を乗り越えながら、全10話分の撮影が進み、昨年8月8日にクランクアップを迎えた。