障害を持っている方本人や同居の家族などは、一定の条件を満たした場合に所得税や住民税の控除が受けられます。この記事では障害者控除の制度概要や適用条件、手続き方法をご紹介します。
所得税・住民税における障害者控除の概要
自分や家族などに障害を持つ方のうち、障害者手帳を持っているなど一定の条件を満たしている場合は障害者控除が受けられます。ここでは税に関する原則や障害者控除の額をご紹介します。
障害者控除は所得控除のひとつ
障害者控除は所得控除のひとつで、所得税は以下の関係で表される課税対象額をもとに算出されます。
- 課税所得金額=所得-所得控除
- 所得税=課税所得金額-税額控除
障害者控除の対象者と控除額
所得税の障害者控除の金額は以下表のとおりです。
区分 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 |
---|---|---|
1. 障害者 | 27万円 | 26万円 |
2. 特別障害者 | 40万円 | 30万円 |
3. 同居特別障害者 | 75万円 | 53万円 |
障害者控除には3つの種類があります。以下でそれぞれについてご紹介します。
1. 「障害者」の条件
障害者控除の対象者のうち以下に当てはまる方が税法上の「障害者」です(※1)。
- 知的障害者と判定された方
- 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方
- 身体障害者手帳に、身体上の障害がある人として記載されている方
- 65歳以上で障害者控除対象と認定を受けている方
- 戦傷病者手帳の交付を受けている方
ただし、軽度の障害のみを持つ方の場合は、障害者控除の対象外です。例えば身体障害者7級の方の場合、手帳を持っていても障害者控除が受けられません。
一方、身体障害者手帳等の交付が申請中で手元になくても、医師の診断書があり、追って手帳が交付される見込みがあれば障害者控除が受けられる場合があります。
2. 「特別障害者」の条件
特別障害者とは、障害者のなかでも特に障害の程度が重い方が当てはまります(※2)。
- 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況(心神喪失)にある方
- 重度の知的障害者と判定されている方
- 精神障害者保健福祉手帳の交付を受け、障害等級が1級と記載されている方
- 身体障害者手帳に、身体障害の程度が1級または2級と記載されている方
- 65歳以上で障害者控除の特別障害者対象と認定を受けている方
- 戦傷病者手帳の交付を受け、障害の程度が特別項症から第3項症までの方
- 原子爆弾被爆者の認定を受けている方
- その年の12月31日の現況で6カ月以上にわたって病床にいて、常に複雑な介護を受けなければならない方
3. 「同居特別障害者」の条件
同居特別障害者とは、親族と同居をしている特別障害者の方です。控除額がほかの障害者よりも多く設定されています。
配偶者や扶養親族が特別障害者で、納税者自身のほか配偶者や生計を一にする親族と同居している場合にも同居特別障害者に当てはまります。
なお、生計を一にするとは、一緒に生活をしているという意味で、同居が必須ではありません。たとえば療養などの目的で別居していても常に療養費を送金している場合にも「生計を一にする」に当てはまります。
障害者控除で受けられる実際の控除額
障害者控除を受けると所得税がどの程度軽減されるのかについて、計算例を基に紹介します。
所得税・住民税が非課税の場合がある
税法上の障害者世帯で年収が低い場合は、特別な申請や手続きを行わなくても非課税世帯の適用となり税金そのものが課せられないことがあります。
所得税の非課税条件 :
障害のある方の場合、基礎控除48万円と、給与所得控除55万円のほか、障害者控除27万円が適用されます。つまり、年収がこれらを合計した130万円以下(特別障害者の世帯は143万円以下)となる場合は、所得税がかかりません。住民税の非課税条件 :
障害のある方の場合、所得金額が135万円以下の場合に住民税がかかりません。
ケース1. 自身が障害者の場合の障害者控除の例
障害者手帳を持ちながら仕事をしている場合に受けられる障害者控除額についてご紹介します。
<条件例>
- 本人 : 身体障害者手帳3級
- 年収 : 300万円
- 収入は給料のみ
この条件では、障害者控除27万円のほか、「給与所得控除」の98万円、「基礎控除」の48万円が適用されます。
- 所得控除額=基礎控除+障害者控除=48万円+27万円=75万円
- 課税所得金額=給与所得金額-所得控除=(300万円-98万円)-75万円=127万円
実際にはこのほかにも控除が受けられる場合があるため、実際の課税所得金額はさらに少ない可能性があります。所得税率は、195万円未満の場合5% と定められているため、障害者控除があることで減額される所得税は以下のようになります。
- 障害者控除で減額される所得税=障害者控除額×税率=27万円×5% =1万3,500円
つまり、障害者控除により所得税が1万3,500円減額されています。 住民税は10% のため、同様に計算すると障害者控除により住民税が26万円×10% =2万6,000円減額されます。
ケース2. 特別障害者と同居している場合の障害者控除の例
納税者に同居特別障害者がいる場合についての計算例をご紹介します。
<条件例>
- 本人の課税所得金額 : 300万円
- 同居の家族 : 精神障害者手帳級1級
- 収入は給料のみ
この条件では、同居特別障害者控除75万円が適用されます。所得から所得控除額を差し引いて算出する課税所得金額が300万円の場合、所得税率は10% です。
- 障害者控除で減額される所得税=同居特別障害者控除額×税率=75万円×10% =7万5,000円
つまり、同居特別障害者控除により所得税が7万5,000円減額されています。 住民税は10% のため、同様に計算すると同居特別障害者控除により住民税が53万円×10% =5万3,000円減額されます。
障害者控除の手続き方法
障害者控除の適用を受ける場合は、その旨を各申告書類に記載して提出します。通常障害の状況などを示す書類の添付は不要です。
1. 年末調整で申請する場合
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の「C障害者、寡婦、寡夫又は勤労学生」において「障害者」の該当する部分にチェックをつけます。
2. 確定申告で申請する場合
確定申告で障害者控除を申請する場合は、確定申告書に必要事項を記載したうえで「勤労学生、障害者控除」の部分に受けられる控除額を記載して申告をします。
障害者に関連する税の特例
障害を持っている方は、その事情を考慮できるように所得税の障害者控除のほか以下のような税の特例があります。
障害者 | 特別障害者 | |
---|---|---|
相続税 | 85歳に達するまで1年につき10万円が相続税額から控除 | 85歳に達するまで1年につき20万円が相続税額から控除 |
贈与税(※) | 3,000万円まで非課税 | 6,000万円まで非課税 |
心身障害者扶養共済制度からの給付金 | 全額非課税(脱退一時金を除く) | |
少額預貯金に対する利子等 | 350万円までの貯蓄等に係る利子が非課税 |
(※)特別障害者および障害者のうち、精神に障害がある特定障害者の場合
障害者控除や非課税対象を活用しよう
障害者控除とは所得控除の1つで、これにより所得税を減免することができます。年末調整や確定申告で申告をすると適用を受けられます。
障害者と認定を受けた方のうち特に障害が重い方は特別障害者であり、より手厚い控除が受けられます。また、障害のある方の生活を支える家族も所得税の減免が受けられるようになっています。
所得税は課税所得金額を基に算出されますが、一時的に大きな金額を受け取る相続や贈与なども、必要以上に障害のある方に負担がかからないように減免や非課税などの措置があります。他にも障害者向けのさまざまな措置があるため、状況にあわせて申請することが大切です。
参照 :
(※1)国税庁「No.1160 障害者控除」
(※2)国税庁「特別障害者」