生命保険料控除証明書とはどのような書類なのか、見方や種類、2020年から一部で始まった電子交付について解説します。確定申告や年末調整で生命保険料控除を行う場合の手順、証明書に関する注意点などにも触れています。
生命保険料控除証明書とは
生命保険料控除証明書とは、加入している生命保険を提供している保険会社が1年に1回、一般的に毎年10~11月にかけて発行する書類です。
証明書は、対象年の1~12月までに保険料をいくら払い込んだか、1~9月までの実績と12月まで払い込んだ場合の見込み額を証明するもの。確定申告や年末調整で生命保険料控除を申請する際、生命保険料控除証明書は生命保険料控除額を証明するための基礎資料となります。
生命保険料控除とは、1年間に支払った保険料のうち、規定の計算式で算出した額について所得金額から控除される、所得控除の一種です。生命保険料控除証明書の見方および控除される保険の種類など、もう少しくわしく見ていきましょう。
生命保険料控除証明書の見方
生命保険料控除証明書の見方について簡単に説明します。生命保険料控除証明書に記載されている一般的な項目と記載内容は以下の通りです。
項目名 | 記載内容 |
---|---|
保険種類 | 「確定」「こくみん共済」など生命保険によってさまざまな種類がある |
適用制度 | 新生命保険料または旧生命保険料と明示がある |
保険期間 | 〇年、終身など |
保険金の受取人名 | 保険金や個人年金の受取人名が記載されている |
保険料の支払金額 |
その年の9月までに支払った実績の金額を種類別に分けて記載
|
12月までの 支払保険料見込額 |
年間の総支払見込額が記載されている (配当金などある場合はその金額分引かれた金額) |
これらの情報を元に、実際に所得金額から控除できる生命保険料控除額を確定申告や年末調整で提出する書類に記載して申告します。
控除される保険の種類3つ
生命保険料控除の種類は、3種類に分類されます(※1)。
- 一般生命保険 : 遺族保障など
- 介護医療保険 : 介護保障・医療保障
- 個人年金保険 : 老後保障
ただし、上記の種類であっても、以下の条件に当てはまる契約は、控除対象となりません。
- 保険期間が5年未満の契約で貯蓄保険や貯蓄共済
- 外国生命保険会社や外国損害保険会社などと国外で締結した契約
- 信用保険契約
- 傷害保険契約
- 財形貯蓄契約
- 財形住宅貯蓄契約
- 財形年金貯蓄契約など
生命保険控除対象外の生命保険については、生命保険料控除証明書も発行されません。
旧契約と新契約の違い
旧契約と新契約の保険の違いは、契約の締結日、控除する保険料の分類、最大控除額にあります。両者の違いは以下の通りです。
旧契約 | 新契約 | |
---|---|---|
契約の締結日 | 2011年(平成23年)12月31日以前 | 2012年(平成24年)1月1日以後 |
保険料の分類 | 一般生命保険料(介護医療保険料も含む) 個人年金保険料 |
一般生命保険料 介護医療保険料 個人年金保険料 |
最大控除額 | 各分類 : 所得税5万円・住民税3万5,000円 合計 : 所得税10万円・住民税7万円 |
各分類 : 所得税4万円・住民税2万8,000円 合計 : 所得税12万円・住民税7万円 |
旧契約では、一般介護保障や医療保障に対する保険料も、一般生命保険に合算して控除額を計算します。新契約では、介護医療保険料控除という分類が新設され、保険料の種類ごとに控除額を計算します。
2020年10月から電子交付可能となる保険会社も
一部の生命保険会社では2020年10月より、マイナポータルを利用した年末調整および確定申告における生命保険料控除証明書の電子交付に対応しました。マイナポータルに連携した電子交付に対応した保険会社は記事執筆時点で以下の8社です(※2)。
- 朝日生命保険相互会社
- アフラック生命保険株式会社
- 住友生命保険相互会社
- 第一生命保険株式会社
- 大同生命保険株式会社
- 太陽生命保険株式会社
- 日本生命保険相互会社
- 明治安田生命保険相互会社
電子交付を行うことにより、紙の生命保険料控除証明書を保管する手間や紛失するリスクを避け、生命保険料控除の申請手続きを簡略化できます。マイナポータルから一括で得る生命保険料に関するデータは、確定申告書や電子化年末調整で保険料控除申告書に自動反映されます(※3)。
生命保険料控除証明書電子交付のメリット
生命保険料控除証明書を電子交付するメリットを3点解説します。
メリット1. 手書き不要となり記入ミスがなくなる
電子交付を行うことで、計算ミスや記入ミスがなくなる点は、非常に大きなメリットです。
複数の保険に加入している人、特に旧制度と新制度両方の保険に加入している人は、生命保険料控除の申請手続きはかなりの負担です。会社が年末調整の電子化を導入している場合は、生命保険料控除証明書のデータを自動反映でき、確定申告や年末調整の負担はかなり軽減されます。
メリット2. 紛失リスク・再発行の手間がなくなる
証明書を電子交付にできれば、証明書の紛失リスクや再発行の手間はありません。
生命保険料控除証明書は、年末調整に間に合うよう、毎年10月ごろに送付されます。しかし、年末調整までには1カ月程度、確定申告までには5カ月程度のタイムラグが生じるため、紛失してしまう可能性もあります。
紛失しても保険会社に連絡すれば再発行は可能ですが、期限ぎりぎりに再発行を依頼すると、確定申告や年末調整の締め切りに間に合わないこともあります。
メリット3. 確定申告・年末調整ともに紙の証明書の添付不要
確定申告書を紙ベースで提出する場合や年末調整で保険料控除申告書を提出する場合、生命保険料控除証明書も添付して提出しなければなりません。電子交付の場合、添付や保管の手間がなくなるのはメリットです。
一方、確定申告を電子申告にする場合、紙の証明書は提出不要ですが、5年間の保管が義務付けられていることには注意が必要です。
生命保険料控除証明書電子交付のデメリット
生命保険料控除証明書の電子交付をするデメリットについて、3点解説します。
デメリット1. 対応会社は一部のため結局手書きが残る場合もある
電子交付に対応している保険会社は本記事の執筆時点では8社のみです。利用している保険会社すべてが電子交付に対応していなければ、結局手書きはなくならず、紙の生命保険料控除証明書を保管・提出する手間も残ります。
デメリット2. マイナンバーカードが必要
生命保険料控除証明書の電子交付は、原則、マイナンバーカードを所持し、マイナポータルを利用できる状態であることが必要です。
マイナポータルを利用するには、パソコンからとマイナポータルAPに対応しているスマートフォンのどちらかからアクセスします。パソコンからアクセスするには、専用のカードリーダライタが必要です。
いろいろと前準備が必要な点も、生命保険料控除証明書の電子交付を行うデメリットとなります。
デメリット3. 年末調整の場合は会社側が対応する必要がある
生命保険料控除証明書の電子交付をしたいと考えても、会社側が国税庁提供のソフトウェアを導入しなければ保険料控除申告書への自動反映はできません。会社が生命保険料控除証明書の電子交付に対応しているかどうかは事前に確認しておきましょう。
生命保険料控除証明書の電子交付方法
生命保険料控除証明書を電子交付する方法について解説します。
電子交付に必要な準備
生命保険料控除証明書の電子交付を行うには、以下のものを準備する必要があります。準備方法や設定方法については、以下のリンク集を確認してください。
準備するもの・こと | 準備方法や設定方法 |
---|---|
マイナンバーカード | マイナンバーカード交付申請参照 |
マイナポータルのアカウント | マイナポータルへの利用登録 |
e-私書箱サービス(民間送達サービス)のアカウント | e-私書箱サービスへのアカウント登録 |
マイナポータルAP | マイナポータルにログインしてインストール |
パソコン+ICカードリーダライタ または スマートフォン |
パソコンの動作環境 ICカードリーダライタの機種 マイナポータルAPに対応している機種 |
各生命保険会社のマイナポータルの連携サービスにアクセス
電子交付の準備ができたら、各生命保険会社が用意しているマイナポータルの連携サービスにアクセスして、電子交付の利用登録を行います。電子交付に対応している会社のマイナポータル連携サービスは以下の通りです。
- 朝日生命保険「マイナ手続きポータル」
- アフラック生命保険「アフラックよりそうネット」
- 住友生命保険「マイナポータル連携サイト」
- 第一生命保険「ご契約者専用サイト」より手続き
- 大同生命保険「インターネットサービス」より「マイナ手続きポータル」へ
- 太陽生命保険「マイナポータル連携サービス」
- 日本生命保険「控除証明書電子交付サービス」
- 明治安田生命保険「控除証明書マイナポータル連携」
マイナポータルの連携サービスの利用登録
いずれのサイトも、「利用申込」ボタンより以下の3ステップで利用登録を行います。
- メールアドレス登録
- マイナンバーカード読み取り(ICカードリーダライタまたはスマートフォン)
- 契約者情報入力
e-私書箱と連携
マイナポータルの連携サービスの利用登録を行った後、電子交付された控除証明書等をマイナポータルに届けるため、e-私書箱の連携を以下の手順で行います。
- マイナポータルの連携サービスへログイン
- マイナンバーカード読み取り(ICカードリーダライタまたはスマートフォン)
- e-私書箱へのログイン
- e-私書箱連携
マイナポータルの連携サービスとe-私書箱との連携完了、生命保険料控除証明書の電子交付手続きは完了です。後は、生命保険料控除証明書がマイナポータルに届くまで待ちましょう。
生命保険料控除証明書を使った控除手続きのパターン
生命保険料控除証明書を使った生命保険料控除の手続きについて、確定申告書と年末調整、紙・電子交付の組み合わせで6パターン紹介します。
紙の証明書で手続き(確定申告)
紙の生命保険料控除証明書を用意して、確定申告書 申告書Bの第一表・第二表に生命保険料控除の内容を記入します。以下は、第一表・第二表のフォーマットです。
生命保険料控除の計算が終わったら、第二表右側の「生命保険料控除」欄左側に、保険料の種類別(最大5種類)の控除額を記入します。右側は年末調整を行った場合に記載する欄なので、確定申告の場合は記入しなくて大丈夫です。
第一表左下の「所得から差し引かれる金額」欄の15「生命保険料控除」欄に控除額の合計額を記載します。
記載が終わったら、生命保険料控除証明書をすべて、確定申告書の添付書類台紙に貼り付けてください。ここまでで、生命保険料控除の部分は完成です。後は、確定申告の締め切り日までに所轄の税務署に持参または郵送で提出しましょう。
電子交付のみで手続き(確定申告)
生命保険料控除証明書を電子交付のみとし、e-Taxで電子申告する場合の手続き方法を説明します。
まずは、マイナポータルに電子交付された生命保険料控除証明書が届いていることを確認してから、e-Taxサイトから「作成開始」ボタンを押して確定申告書の作成を始めます。
保険会社から取得した控除証明書データを利用する場合は、「保険会社等から交付されたデータ読込」で「ファイルを選択」ボタンをクリック。マイナポータルからダウンロードした証明書データ(XMLファイル)を指定してください。すると、e-Taxがデータを読み込み、自動的に控除額を計算し、生命保険控除欄に反映します。
証明書の保険料と実際の支払額が異なる場合は、画面で直接データを訂正してください。その他のデータをすべて入力して確定申告書が完成したら、そのままe-Taxより電子申告を済ませましょう。
紙と電子混在で手続き(確定申告)
生命保険料控除証明書が紙と電子データ混在となる場合は、電子申告にするか紙で申告にするかを決めてください。令和2年の確定申告からは、電子申告の場合青色申告特別控除額65万円、紙で申告する場合は55万円となるため、青色申告をしている方は、電子申告がおすすめです。
電子申告の場合は、「電子交付のみで手続き(確定申告)」と同様の手続きで申告します。紙の生命保険料控除証明書分は手入力でデータを入力し、紙の証明書は別途5年間保管してください。
紙で申告する場合は、電子交付した生命保険料控除証明書を紙に出力して、紙の証明書と同じように確定申告書の添付書類台紙に貼り付けて提出します。紙の証明書を出力するには国税庁の「QRコード付証明書等作成システム」を利用しましょう(※4)。
紙の証明書で手続き(年末調整)
勤務先から「給与所得者の保険料控除申告書」を受け取り、紙の証明書に記載された情報から生命保険料控除に関する情報を記載します。以下は、令和2年分の給与所得者の保険料控除申告書フォーマットです。
生命保険料控除は、申告書の左側に記載します。
申告書が完成したら、紙の生命保険料控除証明書を添えて勤務先に提出しましょう。
電子交付で手続き(年末調整)
電子交付した生命保険料控除証明書を作成する場合は、勤務先が電子データでの年末調整に対応しているかどうかを確認しましょう。対応している場合は、勤務先の指示に従い、マイナポータルから入手した生命保険料控除証明書の電子データ(XMLファイル)を生命保険料控除証明書に添付して提出します。
勤務先が電子データでの年末調整に未対応の場合は、国税庁の「QRコード付証明書等作成システム」を利用して証明書を紙に出力してください。生命保険料控除証明書も従来通り手書きで記入し、紙の証明書を添付して勤務先に提出します。
紙と電子混在で手続き(年末調整)
紙と電子データの生命保険料控除証明書が混在している場合は、電子データを「QRコード付証明書等作成システム」を利用して紙に出力しましょう。後は、「紙の証明書で手続き(年末調整)」と同じ手順で年末調整の手続きを済ませましょう(※5)。
生命保険料控除証明書の注意点
生命保険料控除証明書を扱う際、注意したい点について解説します。
生命保険料控除証明書の送付時期
生命保険料控除証明書の送付時期は、多くの場合年末調整に間に合うよう、10月になるケースが多いようです。年末調整の時期が近くなって生命保険料控除証明書が見当たらない、と焦る場合は、速やかに生命保険会社に連絡して再発行の手続きをするなど、提出に間に合うように行動しましょう。
生命保険料控除証明書の再発行方法
生命保険料控除証明書の再発行は可能です。証明書を再発行する方法は、会社により異なります。会員専用のWebサイトからの申し込みや電話での申し込みなど、手続きの手段を確認して手続きを進めてください。
一括で支払った場合の控除方法と証明書
生命保険料を加入時に全期間分の保険料を支払う一時払い終身保険の場合、生命保険料控除の申請手続きは保険料を支払った年のみ行います。
一方、似た保険料の払い方に前納払いがあります。この支払い方法は、保険料を保険会社に預け、指定の支払い方法(半年払い・年払い)で支払うという方法です。この場合生命保険料控除の申請手続きは毎年行います。
保険会社より送られる生命保険料控除証明書の金額と支払い方法の関連については、保険に加入する前に、保険会社へ確認しておきましょう。
生命保険料控除証明書を利用して控除手続きを行おう
生命保険料控除証明書の見方や証明書の電子交付、確定申告と年末調整の方法について解説しました。
証明書の電子交付はまだ始まったばかりですが、利用している生命保険会社が対応しているなら、申告作業の負担が軽くなります。生命保険料控除証明書を紛失したことに気づいたら、速やかに再発行の手続きを行い、年末調整や確定申告に間に合わせましょう。
参照 :
(※1)国税庁「No.1140 生命保険料控除」
(※2)国税庁「マイナポータル連携可能な控除証明書等発行主体一覧」
(※3)国税庁「マイナポータルを活用した年末調整及び所得税確定申告の簡便化」
(※4)国税庁「控除証明書等の電子的交付について」
(※5)e-tax「QRコード付証明書等作成システム」