コロナ禍でリモートワークが急激に浸透するなど、働き方やキャリアへの考え方に変化の兆しが見えます。また、従来の優秀さの基準だった「偏差値」や「ストレス耐性」など、旧来的な能力観の見直しも始まっています。こうした状況下で「行動」の重要性に着目しているのが若者研究の最前線に立つリクルートワークス研究所・古屋星斗さん。行動が大きな意味を持つ新時代を生き抜くためのカギについて古屋さんに聞きました。

  • 新社会人の「キャリアの明暗」を分けるもの /リクルートワークス研究所・古屋星斗

コロナ禍、将来への漠然とした不安、「副業・兼業」に走る若者たち

コロナショック後の社会を生き抜くために、どんな学び、キャリア、働き方が求められるのか? いま、誰もが模索しています。1つ確実に言えることは、これからは従来のマラソン型で階段を上がっていくようなキャリアが変わっていくということです。

例えばこれまで銀行の支店長と言えば、一種のステイタスでした。しかし、今は銀行の店舗網自体が縮小し、ポストも減っています。2020年には名だたる大手企業がおおむね35歳から45歳以上の社員を対象に大規模な希望退職の募集を行うなど、大企業で終身勤め上げるという時代ではなくなりつつあります。

日本企業の平均寿命は23.5年(東京商工リサーチ調査2017年)であり、今後も短くなると言われています。つまり、20年後にいまある会社の半分はなくなるのです。コロナ禍でこうした動きはさらに加速していくことでしょう。若者が将来に漠然とした不安やあせりを抱えるのは、無理もないことだと思います。

先日、中部経済産業局主催のイベントで基調講演をさせていただいたのですが、イベントの目的は、企業で働きながら副業やプロボノ活動(※)をしたい若者と、地元の中小企業をマッチングすることでした。会場は自動車メーカー、電力会社など大手企業の若手たちで大盛況でした。

彼らに話を聞くと「大企業は分業制なので、いまやっていることだけで将来大丈夫か不安」「1年経っても本業で参加しているプロジェクトが一向に進まない。ふるさと兼業なら3カ月でローンチが可能だから」といった答えが返ってきました。20年前なら順風満帆なキャリアを歩もうとしている人たちが、現状にあせりを感じ、何者かになりたいと願ってアクションを開始しているのです。

※社会人が自らの専門知識や技能を生かして参加する社会貢献活動

行動が差を生む時代。取り残されていく頭でっかち層

行動量と情報量を2軸に、若手社会人を4つの群に分類したのが下記の図表です。

就職後3年間のファーストキャリアでは、
グループ1(行動量・情報量とも多)が22.4%、
グループ2(行動量少・情報量多)が31.2%、
グループ3(行動量少・情報量少)が42.3%、
グループ4(行動量多・情報量少)4.1%
という結果でした。

そして、「自身のキャリア展望」「仕事への熱中度」「自社への愛着」などでグループ1が最も高い数値を示していました。

情報化社会では、いかに情報を入手し活用できるかが重要だと思われている節がありますが、研究結果から見えてきたのは、行動と情報の循環こそが、キャリアのポジティブな状況に繋がっているということでした。

その意味でグループ3の多さもさることながら、グループ4が極小で、グループ2のような頭でっかちな層が多くなっている現状に、私は大きな危機感を抱いています。

例えば東京大学を出て総合商社に入社した「エリート」と言われる若者でも、行動量が少なくキャリア不安を抱えている人がいます。

その一方、中小企業やベンチャー企業に就職し、オンラインツールも活用して社外ネットワークを広げたり、自らサラリーマンでありながら並行して起業もしてキャリアを切り開くという生き方が新しい潮流になりつつあります。果たしてこれからの時代の「モデル」となっていくのはどちらでしょうか?

コロナ禍で学校や会社における対面のコミュニケーションが減る一方、オンラインでのアクションが始めやすい状況が生まれました。そこでアクションをあきらめる人と新しく始める人が生まれ、行動面での二極化が一層鮮明になっています。

出身大学や企業のブランドからは見えてこない、こうしたいわば新たな「行動」が差を生む時代へと移り変わりつつあることを私は危惧しています。

企業や大学をハードウェアで選ぶ時代は終わった

人材大手のパソナやエンタテインメント大手のアミューズなど、リモートワークの定着を機に本社を地方に移転する動きが加速しています。こうした状況では、本社が丸の内や大手町の立派な高層ビルにあることが、あまり意味をなさなくなってきます。

大学も、立地の良さや校舎・設備の見栄えが人気に影響しているようですが、こうした「ハードウェア」は相対的に価値が下がっていきます。

「行動が差を生む社会」においては、企業や大学はハードウェアや見た目では勝負できなくなり、「本当に自分に投資してくれるのか」「成長の機会があるか」「自社のノウハウを自分に還元してくれるか」といったことが純粋に問われるようになります。

行動量の差が、従来の出世競争以上に‟違い“を生む

前述した若者の副業・兼業のようにアクションを始めている人と、情報過多の中で立ち止まる人の差がどんどん開いていく。副業解禁、社員のフリーランス化などが始まる中で、行動できる層とできない層とでは、従来の企業内で完結していた出世競争よりも、個々人のキャリアにはるかに大きな違いが生まれるだろうと私は考えています。

行動する人に変身するためのカギ、それが「スモールステップ」

では、それまで行動できなかった人は、どうしたら行動できるようになるのか?その処方箋として私が提案するのが小さな行動、「スモールステップ」です。他者から見て外形的に判断できる「越境」行動、例えば起業、副業、兼業、プロボノなど履歴書に書ける行動を起こした人たちは、共通する行動特性を持っています。

それは「日頃から自分の気持ちを振り返るアクションが多い」「他人に相談する頻度が高い」「思ったことを発信する」などで、行動できなかった人とちょっとした違いがあるだけです。

  • 矢印上の数値は結果の係数、つまり矢印のパワーを示す

例えば自分が次にやりたいこと、「英語を学びたい」でもいいですが、そのことをTwitterで叫んでみることが大事です。日本人は謙虚だったり恥ずかしがり屋だったりするので、あえて自分からそういうことを発信しない傾向が強い。でも発信してみるとそこには仲間や同志=応援団が自然と集まってきます。

人が行動するためにはエネルギーが必要で、発信者は応援団からエネルギーをもらうことができます。人と人がSNSなどで繋がっている時代だからこそ、情報に浸るのではなく、自ら手を挙げ発信してみる。「スモールステップ」でいかに応援団を得ていくか、それが自分を変えるための私からの提案です。