学生であっても、アルバイトなどで一定額以上の収入がある場合には、親の扶養から外れて税金を納める義務があります。しっかりと理解をしておかないと、思わぬ落とし穴にはまってしまうことも……。
本記事では、所得控除の1つである「勤労学生控除」の条件や収入と税金の関係、手続き方法について解説します。また、勤労学生控除を利用する際の注意点についてもまとめていますので、合わせて確認してください。
勤労学生控除の対象となる人の条件
通常、収入が103万円を超えると、超えた額に対して自分で所得税を納める必要が出てきます。これが俗に言う「103万円の壁」です。
しかし、「勤労学生控除」の制度を活用することで、非課税の枠を103万円から130万円まで広げることができます。つまり、「基礎控除(48万円)」+「給与所得控除(55万円)」+「勤労学生控除(27万円)」=130万円の控除を受けることができるというわけです。
勤労学生控除を受けるための条件は以下の3つ(※1)。
- 給与所得などの勤労による所得があること
- 合計所得金額が75万円以下で、かつ(1)の勤労に基づく所得以外の所得が10万円以下であること
- 特定の学校の学生、生徒であること
以下、順を追って紹介します。
1. 給与所得などの勤労による所得があること
勤労による所得とは、アルバイトによって得た「給与所得」や事業を通して得た「事業所得」などのことを言います。
2. 合計所得金額が75万円以下で、かつ(1)の勤労に基づく所得以外の所得が10万円以下であること
合計所得金額とは、年間の収入から給与所得控除などを差し引いた額のこと。給与所得控除は、年収162万5,000円以下の場合には55万円となります。
仮にアルバイトで得た年収が100万円だとすれば、合計所得金額は55万円の給与所得控除を引いた「45万円」となります。勤労学生控除の対象となるには「合計所得金額が75万円以下」である必要があるため、年収を130万円以内に収めることで、この条件を満たすことが可能です。
また、それに加えて家賃収入や株の売買、ブログによるアフィリエイト報酬などといった、勤労以外での所得が10万円以内である必要があります。
3. 特定の学校に通う学生または生徒であること
勤労学生控除が受けられるのは、その年の12月31日に学校教育法で規定する学校などに所属する学生・生徒であることが条件です。控除が適用される学校は、一定の技術や知識を習得することを前提に授業時間数や通学期間などの規定があります。
勤労学生控除の対象となる特定の学校の条件は以下の通り。
- 学校教育法に規定する小学校、中学校、高等学校、大学、高等専門学校など
- 国、地方公共団体、私立学校法の第3条に規定する学校法人、同法第64条第4項に規定する法人、専修学校又は各種学校のうち一定の課程を履修させるもの
- 職業能力開発促進法の規定による認定職業訓練を行う職業訓練法人で一定の課程履修させるもの
注意点1. 勤労学生控除と扶養の関係
上記までの説明に加えて、勤労学生控除を利用するにあたって注意すべきなのが「扶養の関係」です。
そもそも扶養とは、一般的に“親族から経済的援助を受けている状態”のことで、扶養を受けている人のことを「被扶養者」といいます。多くの場合、学生はこの被扶養者にあたるのですが、年収が103万円を超えると、この扶養から外れてしまいます。
これにより、本来は親族が扶養控除によって所得税・住民税といった税金が一部控除されていたところ、その控除が適応されなくなってしまいます。つまり、勤労学生控除によって、年収が130万円以内であれば学生は所得税を支払わずに済むのですが、年収が103万円を超えると、親族の納税額が増えてしまうのです。
<ポイント>
- 勤労学生控除を受けると、被扶養者である学生は130万円以内の年収であれば所得税がかからない
- 年収が103万円を超えると、扶養控除から外れてしまうため、親族(扶養者)の納税額が増加する
上記の点から、勤労学生控除によって年収を130万円以上にすべきか、それとも年収を103万円以内に収めるべきか、という点は、しっかりと親族と話し合って決めるのが重要となります。
注意点2. 健康保険に関する条件
また、年収が130万円以上になると自分で健康保険に加入しなければなりません。
国民健康保険の場合、保険料は世帯主が納めるべきものなので、住民票が実家に残っている場合は、親の負担がさらに増加します。一方、アルバイト先に社会保険制度がある場合は自身で保険に加入する必要が生じるため、毎月の給与から保険料が引かれることになります。
注意点3. 「学生納付特例制度」を受けている場合の注意点
20歳以上の場合、毎月国民年金保険料を納める義務があります。しかし前年所得が基準以下の学生の場合は、「学生納付特例制度」により、保険料の納付が猶予されます。学生納付特例制度の猶予条件は、「前年所得が118万円+扶養親族等の数×38万円以下の場合」です(※4)。
現時点でこの特例制度を活用している場合には、この点にも注意すべきでしょう。また、扶養親族等がいない場合には、前の年の所得が年間118万円を超えると国民年金の納付も必要となります。
勤労学生控除申請方法
上記の注意点を理解した上で、勤労学生控除を利用したい場合には、特定の申請をする必要があります。申請日方法は、いくつの勤務場所を持っているか(例 : アルバイトのかけもちをしているか)によって異なります。
なお、一部の専修学校や職業訓練学校などの生徒等の場合は、在学する学校長などから証明書の交付が必要となる場合がありますので、そちらも合わせて確認しましょう。
アルバイトのかけもちがない場合は「年末調整」
アルバイトなどの掛け持ちがない場合には、年末調整での申請が必要となります。「扶養控除等(異動)申告書」に必要を記載してアルバイト先に提出をしましょう(※5)。
記載するのは事業者、本人、世帯主の情報や配偶者の有無です。さらに「C障害者、寡婦、寡夫又は勤労学生」の欄にある勤労学生にチェックをつければ完了です。
この申告書は、その年の最初に給与の支払いを受ける日の前日までに提出が必要となるため、採用の時点で書類を記載することが多くみられます。もし11~12月になっても書類に関する話がない場合には、アルバイト先に問い合わせてみましょう。
アルバイトのかけもちがある場合は「確定申告」
アルバイトなど給料を受ける場所が複数ある場合には、主な収入を得ている1社について年末調整をし、他のアルバイト分は確定申告するという方法があります。
基本的にメインではない副業部分の収入を合計して年間20万円以下であれば、確定申告の義務はありません。
しかし、副業のアルバイト代を確定申告することで、勤労学生控除が受けられるほか、給与から源泉徴収された分の還付が受けられ、確定申告をしたほうがお得になる場合があります。
確定申告を行う場合は、確定申告書に収入などのほか「勤労学生、障害者控除」の部分に受けられる控除額を記載して申告をします(※6)。
勤労学生控除の活用で130万円までは非課税にできる
勤労学生控除は学生のアルバイト収入にかかる税金負担を軽減できる制度です。通う学校の制限や所得条件などがありますが、年収130万円までは所得税がかかりません。
ただし、年収103万円を超えると親の扶養から外れるため、親が納める税金が増える場合があります。さらに年収130万円以上は納税義務のほか健康保険への加入が必要になります。
控除を受ける方法はアルバイト先の数によっても異なるため、本記事や国税庁などの情報をぜひ参考にしてください。
参照 :
(※1)国税庁「No.1175 勤労学生控除」
(※2)国税庁「所得税のしくみ」
(※3)国税庁「No.1180 扶養控除」
(※4)日本年金機構「学生納付特例制度のポイント」
(※5)国税庁[手続名]給与所得者の扶養控除等の(異動)申告
(※6)国税庁「令和2年分 所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き」