ソウルの“半地下”住宅に住む無職のキム一家が、高台の高級住宅に住むパク家に徐々に寄生(パラサイト)し始め、思わぬ事態に突入していくポン・ジュノ監督作品『パラサイト 半地下の家族』。第72回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞し、第92回アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞(旧外国語映画賞)に輝き、ちょうど1年前の昨年1月には日本でも劇場公開され、大ヒットを記録した。

この話題作が、動画配信プラットフォーム「TELASA(テラサ)」で見放題配信を開始。同時スタートの音声解説バージョンを担当し、「これは全方向映画です!」と高く評価する映画評論家・町山智浩氏に、改めて魅力を聞いた。

※編集部注:本記事はストーリー展開を解説する内容も一部含んでいます。知らない状態で映画をご覧になりたい方はご注意下さい。

  • 映画『パラサイト 半地下の家族』 (C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

■韓国には“半地下”の住宅が実在する

物語の中心となるのは、タイトルにもある“半地下”に住む家族。名優ソン・ガンボ演じる父を中心に、母、息子、娘の4人家族のキム一家が暮らす、“半地下”住宅の描写で幕を開ける。

「おそらく映画のためのフィクションだと感じる人が多いと思います。でも韓国の事情を知っている人には分かりますが、あのような“半地下”の住宅は実在するんです。もともとは北朝鮮が攻めてきた時のための防空壕として作られました。そのあと、ソウルの地価がどんどん上がっていって住みづらくなったので、アパートとして貸し出されました。だから実際、すごい数の人が住んでいる。自分たちの座っている位置よりも高くにトイレ(下水)があるというのも、誇張でもなんでもなくて、現実。その一方で、IT系を始めとしたものすごい億万長者がたくさん出た。韓国に急激な格差社会が起きたんです」

リアルな社会事情を基盤に、ポン・ジュノ監督は徹底的なコントロールのもとで作品を構築していった。

「とにかく細かいところまで徹底的に作られていて、計算されている。突っ込みどころのほとんどない映画です。まず序盤。“半地下”というすごく狭いところから始まって、なかなか空を見せない。さらに、すごくうるさい雑踏音がずっと入り続けています。そこから、彼らが潜入していくことになる、お金持ちのパクさんの家に近づくにつれて、画がだんだん広がっていきます。そしてパクさん家に着いた途端に、周りの音がすっと消える。実はキム家もパク家もロケではなく、セットで作られています。監督自ら図面を描いて作ったセットです。全部作り物。舞台も音も、全てが計算されているんです」

ため息が出るほどに美しく、憧れを抱かせるパク家だが、建築基準に合っておらず、実際には住みづらい造りなのだとか。しかし一見したところは、素晴らしいロケーションにしか思えない。実際、カンヌ国際映画祭で、コンペティション部門の審査員長を務めたアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督(『バベル』『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』)は、「ロケーションがとてもいい」とポン・ジュノ監督に伝え、すべてがセットだと知って驚いたという。さらに町山氏の音声解説バージョンによると、パク家の広いリビングから見える開けた美しい庭も、グリーンバックではめ込まれた映像なのだとか。