三菱自動車工業はコンパクトSUV「エクリプス クロス」のデザインを一新し、新たにプラグインハイブリッド(PHEV)モデルを追加して発売した。クルマの電動化がここへきて急速な進展を見せているが、ハイブリッド車(HV)と電気自動車(EV)の“いいとこ取り”なPHEVの入門編として、新型エクリプス クロスはぴったりな1台かもしれない。

  • 三菱自動車「エクリプス クロス」のPHEVモデル

    2020年12月4日に発売となった三菱自動車の新型「エクリプス クロス」。写真はPHEVモデルで、ボディカラーは新色の「ホワイトダイヤモンド」だ

「エクリプス クロス」のPHEVで箱根の山へ!

新型エクリプス クロスは1.5L直噴ターボエンジン搭載車とPHEVの2種類。月間販売目標は1,000台で、そのうち7割がPHEVという想定だ。価格はガソリンエンジンモデルが253.11万円~334.62万円、PHEVが384.89万円~447.7万円と差があるが、三菱としてはPHEVをメインに売っていく方針らしい。そのPHEVに今回、試乗した。

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    新型「エクリプス クロス」のボディサイズは全長4,545mm、全幅1,805mm、全高1,685mm。全長は前型に比べ140mm伸びたが、前後タイヤ間の距離を示すホイールベースは2,670mmで変わっていない。ボディサイズの拡大は後席足元スペースや荷室の広さに効いている

エクリプス クロスのPHEVは、HVとEVの“いいとこ取り”的なクルマだ。エンジン、(走行用の)バッテリー、モーターの全てを搭載していて、ガソリンと電気(バッテリーに溜めておく)の両方で走ることができる。走り方には「パラレル走行」(ガソリンエンジンでタイヤを駆動し、バッテリーとモーターが走りをアシストする)、「シリーズ走行」(基本的にはEVのようにバッテリーとモーターで走行、エンジンは発電に徹する)、「EV走行」(バッテリーの電気を使ってモーターを駆動して走る)という3つのモードがあり、バッテリーの充電状況や走り方に応じてクルマが最適なものを選択する。ちなみに、法定速度で走っていれば、日本の一般道でパラレル走行になることはまずないらしい。

試乗してみると、エクリプス クロスPHEVは基本的に、EVとしての走行を優先する制御となっていた。つまり、なるべくエンジンはかけずに、バッテリーの電力を使いながらモーターで走ろうとする。なので、加速はEVのようにスムーズで力強いし、走行中の車内はエンジン音が聞こえないのでとても静かだった。信号待ちからの加速などでアクセルペダルをぐっと踏み込むと、エンジンが始動する。なるべくバッテリーに電気をためておきたいという考えから、急加速の際にはエンジンがかかる仕組みとしてあるそうだ。

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    新型「エクリプス クロス」のPHEVは、2.4L直列4気筒ガソリンエンジン(最高出力128PS、最大トルク199Nm、発電と駆動の両方に使う)と前後2つのモーター(フロント:82PS、137Nm、リア:95PS、195Nm)を搭載。駆動用バッテリーは総電圧300V、総電力量12.8kWhで、エアコンへの電源供給と外部電源供給にも対応している

三菱によると、エクリプス クロスのPHEVはフル充電で57.3キロ(WLTPモード)をEVとして走行できる。つまり、あまり遠出をしない日常的な使い方であれば、自宅、職場、行きつけのショッピングモールなどで上手に充電しながら乗れる人なら、ほとんどガソリンを使わずに暮らせてしまうのだ。

実際のところ、長期にわたってエンジンをかけずいるとガソリンは古くなるし、エンジン自体にとっても休みっぱなしはよくないそうなので、折を見てエンジンを回す仕組みにはなっているそうなのだが、それを差し引いても、日常のほとんどをEV状態で過ごせるメリットは大きい。PHEVの燃費は16.4km/L(WLTCモード)とカタログには書いてあるものの、乗り方次第で給油の頻度はかなり抑えられるはずだ。遠出するなどしてバッテリーの残量が減ったとしても、ガソリンを入れておけば電欠状態で停車してしまう心配はない。

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    普通充電なら4.5時間でフル充電が可能。急速充電設備(最大出力電流60以上)であれば約25分で8割程度は充電できるという。センターコンソールにあるスイッチで「バッテリーセーブモード」を選べば電力を温存しながら走れるし、「バッテリーチャージモード」にすればエンジンを作動させてバッテリーを充電することも可能。「EVプライオリティモード」にすればエンジンを始動させずに走れるので、深夜に住宅街を通過するときなどに便利だ

減速エネルギーを電力として回収できる「回生ブレーキ機能」も、もちろん付いている。回生(減速量)の強弱はステアリングの後ろに付いているパドルで調整可能。「B0」~「B5」の6段階で、B0にすれば回生はなくなる。B5でアクセルペダルから足を離すと、強めのエンジンブレーキが効いているような感覚が得られる。

試乗では静岡県の御殿場から箱根スカイラインを経由し、芦ノ湖スカイラインにある三国峠の展望台を目指した。曲がりくねった山道を背の高いSUVで走ったわけなのだが、床下に駆動用バッテリーを敷いているため重心が低いので、左右にゆすられるような感じは少なかった。むしろ、モーターの加減速とツインモーター4WDの走行性能によるものなのか、思い通りにクルマを走らせることができて、運転がうまくなったような気さえしたほどだ。

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    前後のタイヤをそれぞれ独立したモーターで駆動する「ツインモーター4WD」を搭載する新型「エクリプス クロス」のPHEV

三国峠からの帰り道ではPHEV専用のドライブモード「TARMAC」(ターマック、舗装路を意味するラリー用語らしい)を試してみた。このモードにすると回生ブレーキの強さは「B5」になり(パドルで弱めることも可能)、同じ踏み込みでも素早くトルクを発生させたり、より曲がりやすくさせたりする制御が入る。エンジンは常に作動していて、電気が減ったそばからバッテリーを充電してくれる。ワインディングかつ下り坂という帰り道ではあったのだが、回生のおかげで加減速は思い通りだし、スイスイとよく曲がってくれるので、ストレスなく駆け抜けることができた。

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    PHEVのドライブモードは「ノーマル」「エコ」「スノー」「グラベル」「ターマック」の5種類。スノーは雪道などの滑りやすい路面、グラベルは悪路走行時やスタック時に力を発揮する

というわけで、エクリプス クロスのPHEVは静かで、力強く、楽しいクルマだった。PHEVはガソリンエンジン搭載モデルよりもかなり高価だが、乗り方次第ではガソリンをほとんど使わずに済むので、元は取れないにしても、ランニングコストはかなり抑えられるはず。PHEV購入の際には補助金も出る。SUVのPHEVといえば、トヨタ自動車「RAV4」があっという間に売り切れたことが記憶に新しいが、すぐにRAV4 PHVは買えないし、ほかには輸入車あるいは三菱自動車「アウトランダー」しか選択肢がないわけだから、新型エクリプス クロスはPHEVデビューに最適なクルマになると思う。

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