■5位 秋の恋愛ドラマラッシュと、できすぎたハッピーエンド

『この恋あたためますか』出演・森七菜

2020年の秋ドラマには、『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(日テレ系)、『この恋あたためますか』(TBS系)、『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジ系)、『恋する母たち』(TBS系)の王道ラブストーリーに加えて、『ルパンの娘』(フジ系)、『共演NG』もラブコメのジャンルに属する。近年ずっと刑事、医師、弁護士らが主人公の一話完結モノが主流だっただけに、今あらためて振り返っても「プライム帯で放送される半分近くが恋愛ドラマ」という状況は極めて珍しいことだった。

これだけ増えた最大の理由は、「視聴率調査がリニューアルされて、13~49歳に向けた作品が求められるようになった」「『恋つづ』『愛の不時着』(Netflix)らがヒットし、コロナ禍で一層ニーズが高まった」「もともと秋は恋愛ドラマの時期だった」などがある。

1990年前後の秋ドラマは、「10月にスタートして、12月中盤から終盤に最終話を迎え、クライマックスはクリスマスのシーンで盛り上がる」という構成の作品が主流だった。その後、徐々に視聴率が獲れなくなったことで恋愛ドラマそのものが減っていたが、「今秋は1990年前後の全盛期を思い出すひさびさのラッシュだった」と言っていいだろう。

もともとラブコメが増えた背景には、命や事件を扱う重い世界観の刑事・医療モノより、『恋愛ドラマで癒されたい』という視聴者ニーズがあった。その上、コロナ禍でストレスの多い日々が続いていることもあってか、最終話は「できすぎ」と思わせるほどのハッピーエンドが続出。なかでも『この恋あたためますか』『姉ちゃんの恋人』は、「最終話まるごとハッピー」という甘さに徹するようなシーンが続いただけに、「置きにいった「迎合しすぎ」などの厳しい声もあがっている。

■4位 『テセウスの船』が衝撃の結末変更。長編ミステリーの再評価

『テセウスの船』出演・竹内涼真

そもそも「一話完結モノ」という安全策を選ぶ保守的なテレビマンが多い中、長編ミステリーに挑むだけで価値が高い。ただ『テセウスの船』は、「漫画原作のため肝心の黒幕や結末がネタバレしている」「タイムスリップファンタジーという設定がチープ」であることが不安視されていた。

ところがはじまってみたら、そんな不安を一掃。冬クールは医療ドラマが乱立して室内のシーンばかりだったが、当作は雪国での壮大なロケを行い、圧倒的なスケールと臨場感を見せつけて、視聴者の心を一気につかんだ。

そんなスタッフサイドの気合にキャストも引っ張られる形で、竹内涼真、鈴木亮平、上野樹里、榮倉奈々という朝ドラか大河ドラマの主演経験者たちが迫真の演技を連発。物語も凄惨な大量殺人と家族のあたたかさを交互に描き、「寒いけど、熱い」「つめたいけど、あたたかい」という絶妙なバランスの世界観を構築し、タイムスリップファンタジーのチープさを忘れさせた。

特筆すべきは、第2話終了の早い段階で「考察大会」というPRイベントを仕掛け、そこで原作者・東元俊哉氏の「ドラマは原作と犯人が違うと聞いています」というコメントを紹介したこと。これは驚きをもって多くのメディアに報じられたほか、視聴者によるネット上の考察合戦を加速させた。何より「ネタバレ」という最大のウイークポイントが消えたことが大きかったが、すべてはスタッフサイドの努力によるものだろう。

終了後は黒幕の人選や犯行動機などに不満の声があったのも事実だが、それも大いに盛り上がり、期待感が最高潮に達したことの裏返し。「多くの人々に長編ミステリーの醍醐味を感じさせたこと」「原作のある長編ミステリーの可能性を広めたこと」の意義は大きい。一年前の『あなたの番です』が盛り上がったことも含めて、制作サイドには積極的なトライが求められているのではないか。

■3位 『半沢直樹』7年ぶり続編も3か月延期も、ぶっちぎりの支持

『半沢直樹』出演・堺雅人

2013年の記録的ヒットから7年が過ぎ、さらにコロナ禍で3か月の延期。『半沢直樹』を取り巻く状況は決して明るいものではなかった。

しかし、第1話から数字も話題性もぶっちぎり。世帯視聴率は全話20%を超えたほか最終話は32.7%を記録し、ツイッターのトレンドランキングも全話世界1位の快挙を達成した。終わってみれば、「前作終了後の2013年秋から現在までの間で最も盛り上がり、最も数字を獲った作品」と言い切っても過言ではないだろう。

池井戸潤氏の原作小説を贅沢に2冊使い、2部構成にした物語も見どころたっぷり。1冊の小説を4or6話にギュッと凝縮しているため次々に見逃せないシーンが訪れ、それ以外にも香川照之を筆頭に俳優たちのアドリブが詰め込み、「恩返しです」などのホットワードで楽しませた。

これらは「やれることはすべてやる」という制作現場の熱気によるものだろう。なかなかすべての作品にこれほどの熱気を注ぎ込むことは難しいが、「ここまでやれば、これくらいの結果を得られる」という可能性を示すことでドラマ業界に活気をもたらした。

個人的に他局のドラマを手がける2人のプロデューサーと話したところ、「業界活性化のために『数字を獲ってくれ』と思っていた」「悔しさはあるが、こういう刺激なら大歓迎」と制作姿勢を絶賛。厳戒態勢の中でストレスを抱えていた各局の撮影現場に「ウチも頑張ろう」という勇気を与えたのではないか。

第8話の延期によって急きょ編成されたトーク特番『生放送!! 半沢直樹の恩返し』も22.2%の世帯視聴率を記録。もはや「何をやってもうまくいく」というゾーン状態に入っていたが、原作のストックがないだけに、早々の続編は難しいのかもしれない。それでもTBSと池井戸潤の関係は良好であり、ここまでファンの多い作品である以上、スピンオフも含めて可能性はあるはずだ。

■2位 コロナ禍でまさかの撮影中断。厳戒態勢で制作はどう変わったか

『麒麟がくる』出演・長谷川博己

これまでメインキャストの体調不良やケガ、不祥事で放送開始が遅れることはあっても、「撮影そのものができない」という事態はほとんど記憶にない。ドラマ制作にかかわる誰一人として予想できていなかったのではないか。

4~5月にかけて全局のドラマ撮影が止まってしまったが、なかでもNHKの朝ドラと大河ドラマの放送が中断した影響は大きい。けっきょく『エール』は放送再開後に視聴率が下がり、放送話数が短縮された上に、中断前ほど話題を集めることなく終了。『麒麟がくる』も年内に終了できず、来年2月7日まで放送されることになってしまった。

NHKに限らずすべての現場で厳しい撮影ガイドラインが課せられ、通常よりも張り詰めた空気がある上に、時間がかかるにもかかわらず制限時間が設けられるなど、スタッフとキャストのストレスは計り知れない。また、感染予防のために撮影できないシーンがあるなど、台本の書き直し、ロケ地の変更や中止、演出の再考を余儀なくされた。

不幸中の幸いと言うべきか、努力の結晶と言うべきは、撮影現場でクラスターが発生しなかったこと。すでに半年以上、厳戒態勢での撮影が続いているだけに、各現場は疲弊している一方で、あるドラマのプロデューサーと演出家から「『これくらいやっておけば大丈夫』というある程度の感覚をつかんだ」「俳優の中には演じられる幸せを感じている人が多い」「ロケ地の受け入れは再開していて意外に問題ない」などの前向きな声も聞いた。

まだまだ厳しい状況での撮影は続くが、「新たなドラマを作っていかなければ食っていけない」というスタッフとキャストは多い。制約がある中での撮影のため作品の質を上げるのは難しいが、大きな衝撃を受け、厳しい状況を経験したことで、たくましさを増しているのかもしれない。

■1位 なぜ『ルパン』続編放送? 視聴率調査変更でドラマ制作が激変

『ルパンの娘』出演・深田恭子

新型コロナウイルスの影響と同等以上に大きかったのが、春に行われた視聴率調査のリニューアル。これまでは「どれだけの世帯が見たか」を示す世帯視聴率が中心だったが、「どの世代の男女がどれだけ見たか」を示す個人視聴率が全国規模で測定できることになったことで、各局の番組制作方針が大きく変わった。

これによって各局は、「スポンサーが好む消費行動の活発な13~49歳の男女に見てもらえるドラマ」の制作にシフトチェンジ。これまでのように世帯視聴率を獲りたいのであれば、テレビ朝日が手がける刑事ドラマシリーズのような高齢層ウケのいい作品がベターだったが、「それでは十分な広告収入が得られない」「13~49歳にウケるドラマにシフトしよう」という判断に激変したのだ。

最もわかりやすかったのは、秋に放送された『ルパンの娘』(フジ系)。昨夏に放送された同作の第1シリーズは、個人視聴率4%程度、世帯視聴率7%程度に終わるなど、結果を残せずに終了した。これまでのフジなら続編は考えられない数字であり、「木曜劇場」では6年半ぶりの続編である希少さも含めて、これまでとは違う方針であることがわかるだろう。

これは「『ルパンの娘』は各世代を合計した視聴率では他作にかなわないものの、13~49歳の個人視聴率では十分勝負になる」「録画や見逃し配信、SNSの反響なども併せて評価しよう」という判断によるもの。しかもフジだけでなく、他局にもほぼ同じ動きが見られるところが意義深い。

秋はその他にも、前述したように恋愛ドラマが量産されたが、これらも視聴率調査の変更にもとづく戦略だった。2021年は今年以上に、これまでのような刑事、医師、弁護士などの中高年層に人気のジャンルばかりではなく、ラブコメ、学園モノ、青春群像劇などの多様な作品が見られるだろう。そもそもドラマの多様性は最大の武器だったはずだが、世帯視聴率を獲るために似たようなジャンルの作品ばかりになっていた。「視聴率調査の変更によって、多様性を取り戻すきっかけをつかめたこと」が今年最大のトピックスであり、明るい兆しと言える。

最後に、好き嫌いというより、“挑戦・差別化・希少価値”という観点で選ぶ個人的な“2020年の年間TOP10”を選んでおきたい。

10位『エール』(NHK) 9位『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジ系) 8位『#リモラブ』(日テレ系) 7位『ルパンの娘』(フジ系) 6位『時をかけるバンド』(フジ系) 5位『おしゃれソムリエおしゃ子』(テレ東系) 4位『テセウスの船』(TBS系) 3位『共演NG』(テレ東系) 2位『隕石家族』(東海テレビ・フジ系) 1位『半沢直樹』(TBS系)

終わってみれば、コロナ禍に翻弄された2020年のドラマ界も力作が多く、ここで挙げたものは一部にすぎない。未視聴のものは年末年始の休みを利用してオンデマンドで視聴してみてはいかがだろうか。

最後に、ドラマ制作のみなさん、俳優のみなさん、今年も1年間おつかれさまでした。2021年も「多くの人々を楽しませる」「心から感動できる」ドラマをよろしくお願いいたします。