「割愛」は、プレゼンや結婚式のスピーチなど、人前での発表に使われることが比較的多い日本語のひとつです。「省略」と似た意味をもつ言葉ではあるものの、少しニュアンスが異なります。しかし混同されて使われていることもよくあります。また「愛を割く」と書くことから、本来の意味や語源が気になる人も多いでしょう。
この記事では、「割愛」がもつ本来の意味や具体的な使用例、「省略との違い」などをくわしく紹介していきます。
「割愛(かつあい)」の意味
「割愛」が一般的によく使われるのは、「惜しいと思いながらも思いきって手放したり捨てたりすること」を意味する場合です。何かをしたいのに事情があって残念な気持ちはあるけどできない場合に、「割愛」という言葉が使われます。
また、上記のほかに「愛着の気持ちを断ち切ること」「恩愛や煩悩(ぼんのう)を捨て去ること」などの意味や、「公務員が他の地方自治体や民間企業などへ移籍すること」「大学の職員が他大学へ籍を移すこと」などの意味もあります。
この記事では、一般的によく使われる「割愛」について説明します。
「割愛」の由来・語源
「割愛」はもともとは仏教用語で、出家する際に故郷や大切な友人などから離れ、寺に入る際の人や物事への愛着の気持ちを断ち切ることことを割愛といっていたことが由来です。
そのため、「惜しいと思いながらも手放す」ことが本来の意味ですが、異なる意味に誤解されて使われることも多いです。特に、「惜しいと思いながら」という気持ちがない、「不必要なものを切り捨てる」「手放す」の意味で使われることが増えていますが、こちらは誤った使い方になります。
「割愛」の使用シーンと使い方例
「割愛」は、したいことがたくさんあっても時間などの都合でできない場合に、残念ながらできない場合に用いるのが正しい使い方です。そこで、具体的な「割愛」の使用例を紹介していきます。
ビジネスシーンでの使用例
「割愛」は、ビジネスシーンや学校などでも使われる機会が多い言葉です。プレゼンや論文発表などで発表時間が限られていて説明を省く場合などに、「残念ながら」という気持ちを込めて、「割愛」を使用します。
使用例
・次のスライドについては、時間がないため割愛します
・時間の都合上詳細は割愛させていただき、概要と要点のみ説明いたします
「割愛」を使用することで、「本当はすべて行いたいのですが」という気持ちが伝わるため、よく使われています。
結婚式の電報を発表する場合
「割愛」が使われる代表的なシーンのひとつが、結婚式披露宴で電報を読み上げるときです。結婚式ではたくさんの電報が届くことが多いですが、限られた時間のなかで披露宴を行うため、すべてを読み上げられないこともよくあります。
使用例
・多数の電報をいただきましたが、時間の都合上割愛いたしまして、お名前のみ読み上げます
「本当は全部紹介したいのですが」という気持ちが、「割愛」と表現することで伝わります。
「割愛」と「省略」の違い
「割愛」の代表的な類義語に「省略」があります。「省略」とは、「省いて簡単にすること」をあらわし、「割愛」のように「残念ながら」という気持ちは含まれていません。
「ものごとのある部分をなくす」という意味では「割愛」と共通していますが、「省略」には惜しむ気持ちが含まれておらず、事務的な印象になりやすいです。
使用例
・できるだけ無駄な部分は省略してください
・大事な部分のみ省略せずに説明します
「割愛」の類義語
「割愛」には「省略」以外にも類義語がありますので、以下で紹介します。
端折る
「端折る(はしょる)」とは、「ある部分を省いて短く縮める」ことをあらわす言い回しです。もともとは着物の端である裾を折り上げて帯に挟むことから、「端を折る」となり「端折る」に変化しました。
「省略」と同様、残念に思う気持ちは含まれておらず、手短にまとめたい場合に使われる言葉です。
使用例
・時間の都合上細かい説明を端折る
カット
「カット」は英語の「cut」がもととなっているカタカナ外来語のひとつで、複数の意味があります。「ものごとを部分的に削ったり省略したりする」という意味が含まれており、「割愛」と共通する部分はあります。
使用シーンは「割愛」より「省略」に近いです。英語がもととなっていることから敬語にしにくいこともあり、改まったシーンでは使いにくく、社内の人など気心が知れた人との間で使われます。
使用例
・動画の不要な部分をカットして編集してください
「割愛」の英語表現
「割愛」には同じような意味をもつ英語表現がいくつかあります。「割愛」の英語表現の代表例を紹介していきますので、見ていきましょう。
giving up
「giving up」は、「やめる」「諦める」という意味をもつ英語の言い回しです。「残念に思いながら手放す」という意味をもつ「割愛」と似た意味といえます。
使用例
・She doesn't regret giving up city life.(彼女は都会生活を手放すことに後悔はない)
・He is giving up smoking.(彼はたばこを手放している=彼は禁煙しています)
「手放す」という意味が強い場合に「giving up」を用いるといいでしょう。
leave out
「leave out」には、「省く」という意味があり、「割愛」と共通する意味があります。「残念ながら」という意味は含まれていません。
使用例
・Don't leave it out.(それを忘れないで)
・Leave out anything that is unimportant.(重要でないものは省きなさい)
比較的簡単な言い回しですので、活用してみてください。
omit
「omit」は「leave out」同様「割愛する」の英語表現ですが、うっかり省いてしまった場合や故意に省いた場合にも使われます。
使用例
・I will omit those parts.(それらの部分は省略します)
・You may omit it.(それを省略しても構いません)
「残念ながら」という意味はあまり含まれていないものの、やや形式張った言い回しであり、ビジネスで使いやすいです。
「割愛」の意味を理解して正しいシーンで使いこなそう
「割愛」は「残念に思いながらも手放すこと」を意味する言葉です。仏教用語からうまれた言葉であり、出家で家族や友人などの愛する人と関係を絶つことをあらわしていたことから、「残念に思いながら」という意味も含まれています。ただし、現在は「手放すこと」を意味する言葉として使っている人は多いです。
「割愛」は、ビジネスシーンでは発表内容を残念ながら省略したい場合や、結婚披露宴で電報を全部読み上げられない場合などによく使われます。
「省略」など類義語との大きな違いは残念に思う気持ちが含まれているかどうかなので、使用シーンに応じて使い分けが可能です。残念ながら省略する場合には「割愛」を使用し、正しく使っていきましょう。