失業や廃業などで収入が減少もしくは途絶えてしまったとき、困るのが国民年金保険料の納付です。国民年金保険料の納付が厳しいからといって未納のままでいると老齢基礎年金などの各種年金を受給することができなくなる場合があります。

そうした事態を避けるために利用できるのが、国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度です。今回はこの2つの制度の内容と制度を利用するメリット・デメリットをご紹介します。

  • 国民年金保険料の免除・納付猶予を受ける条件

国民年金保険料免除・納付猶予制度とは?

国民年金保険料免除と納付猶予制度とはどのような制度なのでしょうか? それぞれの概要と申請方法を見てみましょう。

国民年金保険料の免除制度

「保険料免除制度」とは、保険料の支払いの全額もしくは一部が免除になる制度です。所得が少なく、本人や世帯主、配偶者の前年度の所得が一定金額以下の場合、あるいは収入の減少などから国民年金保険料の支払いが困難になった場合に、市区町村に申請して承認されると、保険料の納付が免除されます。

免除には「全額免除」「4分の3免除」「半額免除」「4分の1免除」の4種類があり、所得基準に該当すれば、全額免除もしくは一部免除のいずれかに決まります。

国民年金保険料の納付猶予制度

「保険料納付猶予制度」とは、保険料の支払いが猶予される制度です。前年度の所得が一定額以下の場合に適用されます。2016年6月以前は申請できるのが20歳以上30歳未満の人に限定されていましたが、2016年7月から対象年齢が拡がり、20歳以上50歳未満の人なら申請が可能となりました。(※1)

失業した場合の特例免除

失業して収入が途絶えてしまうと、国民年金保険料を納めることが困難になることがあります。そのため、失業した場合には国民年金保険料の「特例免除」が受けられます。申請するには、お住まいの市区町村の国民年金担当窓口に次の書類等を提出します。

  • 年金手帳
  • 国民年金保険料免除・納付猶予申請書
  • (会社員だった場合)雇用保険受給資格者証の写しまたは雇用保険被保険者離職票等の写し
  • (事業を廃業した場合)開廃業等届出書または事業廃止届出書の写し など

新型コロナウイルスの影響による「臨時特例免除」

新型コロナウイルス感染拡大の影響で収入が減少し国民年金保険料が支払えなくなった人を対象に、2020年5月から国民年金保険料免除と納付猶予の臨時特例が始まりました。臨時特例の対象となるのは、以下の要件すべてを満たす人です。

  • 2020年2月以降に、新型コロナウイルス感染症の影響により収入が減少していること
  • 2020年2月以降の所得状況から見て、本年度中の所得が、現行の国民年金保険料免除等に該当する水準になることが見込まれること

また、臨時特例に該当する国民年金保険料の期間は、以下のようになります。(※2)

  • 2019年度分⇒2020年2月~2020年6月
  • 2020年度分⇒2020年7月~2021年6月

(※国民年金の年度は7月から翌年6月までです)

国民年金保険料免除・納付猶予制度の申請方法

国民年金保険料免除と納付猶予制度を申請するには、以下の書類が必要です。

  • 年金手帳またはマイナンバー確認書類
  • 運転免許証やパスポートなどの本人確認書類
  • 国民年金保険料免除・納付猶予申請書 (日本年金機構のホームページからダウンロード可)
  • (失業による申請の場合)雇用保険受給資格者証の写しまたは雇用保険被保険者離職票等の写し

そのほか必要な書類を揃えて、お住まいの市区町村の国民年金担当窓口にて申請します。(※3)

ここで留意しておきたいのは、国民年金の年度は、毎年7月から翌6月までとなっている点です。つまり、申請したい年度の7月以降に手続きをする必要があります。

また、申請時の2年1カ月前の未納分まで申請することが可能なので、保険料の未納が続いている場合は、可能な期間をまとめて申請することをおすすめします。

もう1点、留意しておきたいことがあります。

国民年金保険料の免除(全額もしくは一部)や猶予を受けた場合は、国民年金基金やiDeCo(イデコ : 個人型確定拠出年金)に加入できなくなります。

国民年金の第1号被保険者である自営業者の場合、国民年金基金やiDeCoに加入するには、国民年金保険料を納めていることが条件となっています。また、国民年金基金やiDeCoに加入中に国民年金保険料の免除や納付猶予を受けた場合は掛け金の払い込みが一時停止になることがあります。(※4)(※5)

国民年金保険料の免除・納付猶予のメリットは?

国民年金保険料の免除や納付猶予をする場合、どんなメリットがあるのでしょうか?

国民年金保険料の免除を受けた場合のメリット

通常、国民年金保険料の未納期間があると、将来、老齢基礎年金がもらえなかったり病気やケガで障害を負ったときに障害基礎年金が受け取れなかったりする場合があります。

その点、国民年金保険料を未納のままにせず免除の手続きをしておくと、免除になっている期間が老齢基礎年金の受給資格期間に加えられます。

老齢基礎年金は受給資格期間が10年以上必要となるため、将来年金がもらえなくなるのを防ぐことができます。また、免除にしておくと免除の割合に応じた老齢基礎年金が受け取れます。もらえる年金額は免除の割合によって以下のように変わってきます。

  • 全額免除 : (全額納付した場合にもらえる年金額の)2分の1
  • 4分の3免除 : 8分の5
  • 半額免除 : 8分の6
  • 4分の1免除 : 8分の7

国民年金保険料の納付猶予を受けた場合のメリット

納付猶予のメリットは、期間中の保険料を納付しなくてもよくなることです。また、納付猶予にした期間は、老齢基礎年金の受給資格期間に加えられます。老齢基礎年金をもらうには10年以上の受給資格期間が必要なので、その期間に影響が出ない点はメリットだといえるでしょう。

国民年金保険料の免除・納付猶予のデメリットは?

国民年金保険料の免除と納付猶予には、デメリットもあります。特に、将来受け取る老齢基礎年金の年金額に影響のあることは、きちんとおさえておきましょう。

国民年金保険料の免除を受けた場合のデメリット

国民年金保険料の免除では、所得状況に応じて「全額免除」「4分の3免除」「半額免除」「4分の1免除」のいずれかを受けることができます。免除の期間は老齢基礎年金の受給資格期間に含まれるので、老齢基礎年金を受け取ることはできるでしょう。

しかし、問題は受け取れる年金額です。免除を受けても年金額に反映されることはメリットになりますが、本来納付するべき国民年金保険料を全額納付した場合に比べて、受け取れる年金が減るというデメリットでもあります。

さきほど紹介したように、免除の割合に応じて受け取れる年金額が減ってしまいます。年金が減ると老後の生活にも少なからず影響が出てくるかもしれません。

国民年金保険料の納付猶予を受けた場合のデメリット

国民年金保険料の納付猶予を受けた場合、納付猶予を受けた期間は老齢基礎年金の受給資格期間に加えられます。しかし、この期間は老齢基礎年金の年金額への反映はありません。納付猶予の期間分だけ年金が減ってしまう点は注意が必要です。

デメリット(年金額の減少)を防ぐ国民年金保険料の追納制度

国民年金保険料の免除や納付猶予を受けると、将来受け取れる老齢基礎年金が減額してしまいます。そこで利用をおすすめするのが国民年金保険料の追納制度です。10年以内であれば、後から保険料を納付することで受け取る老齢基礎年金の減少を防ぐことができます。

また、免除や納付猶予を受けた期間の翌年度から2年以上経つと、それ以降の保険料には一定の金額が追加されてしまいます。そうすると本来の保険料よりも高くなってしまうので、可能であれば免除や納付猶予を受けてから2年以内に追納したほうがよいでしょう。

追納する場合は、国民年金保険料追納申込書(日本年金機構 国民年金関係届け書・申請書一覧にてプリントアウト可)に必要事項を記入し、マイナンバー確認書類、本人確認書類とともに最寄りの年金事務所にて申請します。郵送でも申請可能です。(※6)

***

国民年金保険料を納めるのが困難になったとき、保険料の免除や納付猶予の制度を利用すれば、将来受給できる老齢基礎年金の受給資格期間に影響を与えることなく、保険料の負担を減らすことができます。

しかし、免除や納付猶予を受けた期間分だけ老齢基礎年金の年金額が減ってしまいます。そこで、減額分をなくすためにもなるべく早めに追納制度を利用することをおすすめします。

また、経済的に苦しくなったときは未納のままにせず、免除もしくは納付猶予制度を利用し、追納して年金額への影響を極力減らすようにしましょう。

参照 :
(※1) 日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度
(※2) 日本年金機構「新型コロナウイルス感染症の影響による減収を事由とする国民年金保険料免除について
(※3) 日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度
(※4) 国民年金基金連合会「iDeCo(イデコ)の加入資格と掛金について
(※5)国民年金基金連合会「加入や資格
(※6) 日本年金機構「国民年金保険料の追納制度