若者の「熱」に期待しているベンチャーキャピタリスト・佐俣アンリさんは「人は環境の中で生きて、影響されていくものだ。だから生きる場所を選び間違えてはいけない」とアドバイスします。自分を生かせる場所の見つけ方や人生の中で20代をいかに生きるべきかについて、ベンチャーキャピタリストならではの視点で語ります。
人は環境に左右される。だから生きる場所を間違えるな。
人は簡単に環境に流される生き物です。200人のうち、199人がサラリーマンになる中で、一人だけ起業家になるのは強い意志が必要です。200人のうち、180人がサッカー選手になるところにいれば、サッカー選手になるのが当たり前に思えるでしょう。
これは僕自身が、大学生時代から今に至るまでずっと意識してきたことです。人は環境の中に生きていて、環境に影響されていく。しかも、ものすごく流されやすい。これは、恐ろしいことでもあるし、逆にこれを味方にすることも可能です。
たとえば、マスコミ志向の多い大学にいると自然とマスコミを志望するようになります。金融系のOBが多い大学だと、何となく自分も金融へ、と思ってしまいがちです。人生って実はちょっとした偶然で身を置いた環境の中で、決まってしまうことがものすごく多いのです。年齢を重ねると、そういうことにジワジワと気づいてきます。
そして、世の中を俯瞰できるようになってくる頃には、人生のルートはほぼ決められてしまっています。これって怖いことでしょう? だから、生きていく場所を間違えてはいけないのです。
自分が生きる場所を見つけるコツは「確率論」。
若い人は「自分がやりたいことがわからない」ってよく言いますよね。確かに、世の中のいろんな側面に触れないとやりたいことが見つからないかもしれません。僕は凡人だから、最初の就活の時には金融、電力、商社、外資系、ベンチャー企業も含めて、あらゆる企業を受けました。その中で自分を認めてくれたり、評価してくれたりする企業を選んでいきました。みなさんも自分が興味を持てそうな場所であれば、どんどん参加してみるべきです。
学校の掲示板で勉強会や研究会の告知を見て、面白そうだったらやってみればいい。僕の場合、インターンシップで多くの社会人に会っていたのは良かった。ただ留学経験はないので、もし留学していたら、また方向が変わったかもしれません。こんなふうに自分が身を置くべき場所、生きる場所を見つけるコツは、数多くの経験から選ぶほど見つかりやすくなる、という「確率論」だと思っています。
僕は立場上、学生起業家にもよく会います。彼らはサークルや団体活動にも「熱」をもって参加していることが多いですね。要はエネルギーを持て余していて 何か自分を燃やせるものが欲しいんです。それなら、目についたもの片っ端からからやってみればいい。そう思いませんか?
したいことを見つけたら、止まらずに走り続けよう。
起業家に限っていうと、彼らは数億円儲かった時点でやりたいことをやめるわけではありません。自分の気力と体力は残っているので、さらにでかいことをやろうとします。
スポーツに例えると、サッカーができる子はセリエAに行きたがるし、野球選手はメジャーリーグに行きたがります。プロサッカー選手になるポテンシャルのある選手が、市の大会で勝って満足しますか? 「今回最高だったね。市の大会で優勝できたから、これで終わっていいや」って思わないでしょう? 「次のステップに行きたいから早く練習したい」が本音だと思います。
そうした思いが起業家にはあるはずです。何かを成し遂げたくて起業しているのだから、その最中に評価されても仕方がない。たまたま何か成功パターンが見つかると大人たちはその勝ちパターンを拡大再生産しようとします。でも本人はもっと先を見ているはず。
「自分を止めないでくれ」。これが何かを成し遂げたくて走り出した人の正直な気持ちだと思います。したいことが見つかったら、止まらない方がいい。「熱」が冷めないように夢中になって走り続けるべきです。
体力のピークと脳みそのピークがクロスする時期は、意外と早い。
挑戦に年齢は関係ないといいますが、走り続けるためには、体力は大事です。若い人たちに言ってあげられるのは、自分の体力のピークと考える力のピークが、いつクロスするのがいつかを知っておいたほうがいいということ。意外とピークはすぐにやって来ます。スポーツで考えると、サッカーは25~6歳がピークだろうし、野球は40歳ぐらいまで。ゴルフならもっと上の年齢でも闘えます。
一定の年齢になると体力の衰えを経験で補っていくようになります。だからまだ体力があるうちに、とことん経験を積んでベースをつくることが大事です。そして、繰り返しますが、いい場所にいないと成長はできません。いい場所とは、優れた人たちに囲まれている状態のことです。自分が走り続けていられる状態、脳みそのピークと体力のピークがクロスする時期は、それほど遠くありません。これを忘れないでほしい。
成長というのは、ものすごく大変なことに挑戦している時に、必死で走って走って、終わったみたら、「あ、なんか成長してるな」って感じるものです。挑戦し続けるしかないんですよ。