累計発行部数1億部を誇る「鬼滅の刃」の劇場版が日本列島を熱狂の渦に巻き込んでいます。

公開3日間で興行収入46億円、そのまま勢いが緩むことなく、10日間で100億円突破と歴史に残るスマッシュヒットを記録。今までの興行収入100億円突破の最速記録が「千と千尋の神隠し」の25日間であったことを踏まえると、いかに歴史的な記録であるかがわかりますね。

そんな歴史に残るスマッシュヒットを受けて、株式市場にも注目の銘柄が出てきています。

  • 10日間で興行収入100億円を突破した劇場版「鬼滅の刃」、株式市場におけるスマッシュヒットの影響は?

株式市場で注目されている銘柄は?

株式市場では"期待に対してどれくらいの実績があげられたか"で評価が決まります。

「鬼滅の刃」に関してはもともと、"ヒットするであろう"という期待が多くの人の頭の中にあったと考えられますが、今回の劇場版のスマッシュヒットは、期待を大きく上回るものだったと言えるでしょう。

その結果、"ポジティブサプライズ"と受け止められ、市場にも好影響が出る形となりました。

では具体的に、どのような銘柄に注目が集まっているのでしょうか。

まず映画に関係する企業では、配給を担っている「東宝」(9602)、同じく配給を担うアニプレックスを子会社に持つ「ソニー」(6758)、加えて広告宣伝協力をしていて映画のエンドロールにも名前が出ている「ウェッジホールディングス」(2388)が挙げられます。

次にグッズ関連では多くのコラボ商品が販売されていますが、特に最近注目を浴びているのが関連アイテムの販売が好調である「ジーンズメイト」(7448)と「SKジャパン」(7608)です。

  • 「株探」を参考に筆者作成(10/27時点)

ここで株価へのインパクトを振り返ってみると、映画に直接関わっていて好影響がありそうな配給の東宝・ソニーよりも、広告・グッズ関連の企業の方が大きく上昇していることがわかります。

これはなぜでしょうか。理由は企業の規模の大きさが考えられます。

企業の規模をはかる尺度はいくつかありますが、今回は売上高について見てみましょう。 東宝が約2,600億円、ソニーが約8.2兆円と大きな数字である一方で、高い株価上昇率を記録した企業は100億円以下と相対的に小さな規模になっています。

株価への影響を考える際は、そのイベントでどれくらいの売上が発生するかという面に加え、その売上増加が企業に対してどれくらいの上昇率をもたらすかが重要になってきます。

今回の例だと、売上額におけるインパクトは東宝やソニーの方が大きいかもしれませんが、企業へのインパクトで見ると広告・グッズを扱っている企業の方が大きいと市場では思われているため、このような結果になっていることが予想されます。

  • ジーンズメイトの「鬼滅の刃」アイテム。グッズの人気と共に株価も上昇※プレスリリースより引用(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ ufotable

今後注目の"関連銘柄"はどう探す?

今回の「鬼滅の刃」を例に挙げると、マンガが流行りはじめた段階では、単行本だけではなく電子書籍でどれくらい読まれるか、グッズは流行るか、といった予想のもと、株が買われていたと思われます。

実際に電子マンガ関連銘柄で注目された「Amazia」(4424)は、2019年前半からの1年間で株価が約4倍まで急上昇しました。

そして映画がヒットした段階では、映画製作・グッズ関連で関わっている企業はどこか、映画・グッズはどれくらいヒットしそうかなどの連想から、良い影響があると目される企業に資金が集まってきています。

では、このような"関連銘柄"は、どのように探せばいいのでしょうか。

株式市場でよく用いられることわざに「風が吹けば桶屋が儲かる」というものがあります。

その意味は「風が吹くと土ぼこりがたって目に入り盲人が増える。盲人は三味線で生計を立てようとするから、三味線の胴を張る猫の皮の需要が増える。猫が減るとねずみが増え、ねずみが桶をかじるから桶屋がもうかって喜ぶ」(デジタル大辞林)とされています。

つまり、あるものが話題になった際、巡り巡って全く関係のないと思われていたものが恩恵を受ける、という事象を指しているのです。

今回の例では桶屋が儲かるほどの発展は見られていないものの、グッズの分野に関してはあらゆる分野でコラボレーションがされています。特に消費者に近いサービスを展開している企業には、今後もチャンスがあるとが予想されます。

投資のヒントは日常にあふれている

鬼が人間を殺す構図やグロテスクな描写など、子どもには少し刺激が強い内容ともいえる本作品。

しかしその一方で、剣術のシーンや特徴的な技名が子どもたちから人気を集め、家族の絆や友情、仲間との団結などの親しみやすいテーマが共感を生んでいます。

小さな子どもから大人まで、幅広い層を虜にしているほか、日本人特有の"みんながやっているから自分もやってみる"という集団主義の風潮も爆発的ヒットに拍車をかけているように僕は思います。

  • 漫画もしかり、日常的に使っている商品やサービスなどから世の中のトレンドを探ろう

株式市場は"美人投票"の例が象徴するように、大衆に良いと思われた企業が上がる構造になっています。

今回の件に限らず、「鬼滅の刃」ヒットの要因である"日本人特有の集団心理"をうまく分析し、世の中のトレンドに乗っていくことができれば、株式投資で成功する可能性は高くなるのです。

株式投資のヒントは日常に転がっています。自分が日常で何気なく使っている商品やサービスを提供している企業に、少し思考を巡らせてみてはいかがでしょうか。

Finatextグループ アナリスト 菅原良介

1997年生まれ、Z世代のアナリスト。早稲田大学 政治経済学部 経済学科に在学中は「株式投資サークルForward」の代表を務め、大学生対抗IRプレゼンコンテストで準優勝を獲得。2年間の長期インターンを経て、2020年Finatextに入社。現在はFinatextグループで展開される投資・証券サービスのディレクターを担当。コミュニティ型株取引アプリSTREAM内で開催されるイベントのモデレーターも務める。