――最終回で見られた或人と滅の"決闘"シーンは、テレビを観ながら言葉を失うほど、2人の感情のぶつけあいが激しかったですね。あのシーンを撮られたときの雰囲気はどんな感じだったのでしょう。

或人と滅の最後の対決シーンは最終回のキモだったので、撮影に入る前も入った後も、文哉くんと変身後の縄田(雄哉)くん、そして滅の砂川(脩弥)くん、変身後の高岩(成二)さんと込みで、現場でお昼ご飯を食べながらよく話をしました。シーンを追って、ここの気持ちはどうなんだ、という部分まで細かく決めて、最後のカットに持っていくまでにどういう気持ちを乗せていくか、じっくりと話し合ったんです。そこまでしっかりした打ち合わせがあったからこそ、僕としてはスムーズに、或人、滅の感情の起伏を見せられたかな、と思っています。

あの対決のくだりは、文哉くんから「気持ちが切れないように、ラストカットまでぶっとおしで撮影してほしい」と言われて、殴り合いながらセリフを言うとか、かなり激しい芝居があるのに、2人とも息も絶え絶えになりながら、感情をむき出しにして演じてもらいました。もうお互い、涙は出るわ鼻水は出るわ……。その結果、どこを切り取っても"使える"カットばかりになり、ありがたかったです。感受性豊かな2人が激しい感情をむき出しにしてくれたからこそ、迫力のあるアクションシーンが作れました。

――最終回のラストは、復元されたイズに或人が決めゼリフの「アルトじゃ~~ないと!」をラーニングさせる……といったものでしたが、あのシーンは高橋さんと鶴嶋さんによるアドリブ演技を長回しで撮っていらっしゃったとうかがいました。お2人の最後のカットを撮られたときの、杉原監督の思いを聞かせてくださいますか。

1年間、よく頑張ってきたなあとしみじみと思いました。彼らは早い段階から、自分たちの役柄を理解して、独自に芝居を作ることができると思っていましたから、しっかりしたものを最後に見せてもらったという実感がありました。これからは「仮面ライダー」を卒業して、別の世界へと旅立って活躍していくでしょう。でもここまで育てたのに、別の人の手に渡ってしまうのは残念というか、一抹の寂しさがありますね(笑)。

――『ゼロワン』は或人、イズをはじめ不破、刃、天津社長、滅亡迅雷.netの4人(滅、亡、迅、雷)など、キャラクターそれぞれの動きが魅力的で、多くのファンの心をつかみました。メイン監督を務めた『ルパパト』でもキャラクターの魅力が際立っていましたが、杉原監督が各キャラクターを演出する上で、特に気をつけていることとは?

どんな役柄に関しても、一番大きな道筋を役者に説明していくようにはしていますね。文哉くんに対しては、最初に「或人はピエロなんだよ」と話しました。いつもニコニコしていて周りを楽しませようとしているけど、自分が悲しいときにはその気持ちを顔に出さない。そういう人でいてください、って……。他の出演者にも、君はこういう人なんだ。だから最後まで、そういう部分を貫いていたらいいねと、ひとりひとりにイメージしやすい言葉で説明しています。そうすると、みんなは自分の役について自分なりに考え始めてくれるんです。

『ルパパト』のときも、役者はみんな僕たちスタッフと真剣に話してくれるので、どんどんアドバイス的なことをこちらから発信したりしていました。役者ひとりひとりが自分の役に真摯に向き合ってくれたからこそ、キャラクターが魅力的になっていったんじゃないかと思っています。

――役者さんを演出していて「ノッてきたな」とはっきりわかった瞬間などはありましたか。

ありますね! ひとつのシーンを撮っているとき、急に"ハネ"たりするときがあるんです。『仮面ライダー 令和ザ・ファースト・ジェネレーション』のラストシーンなんて、まさにその瞬間でしたね。僕らがまったく思ってもみない、とんでもなく良い表情が見られたとき「あ、こいつら"来た"な!!」って思いました(笑)。自分たちの役を理解して芝居をしているから、僕が思っている以上のもので返してくれたりする。そういうのを見ると"ハネた!"と感じます。

――杉原監督の演出についてお尋ねします。変身シーンやキャラクターアクションのシーンではエフェクト満載、カメラアングル自由自在と派手なビジュアルで攻められるのですが、そうでない人間同士の会話シーンや、前回映画におけるレジスタンス兵士の戦闘シーンなどでは極めて現実的な、リアリティを重んじる画面作りに努めているように思えます。ああいったリアル演出は意識的に入れ込まれているのでしょうか。

僕が単純にリアル路線が好き、というのが大きな理由です(笑)。人間が変身すること自体が"ファンタジー"寄りですから、あまり現実離れな描写をしすぎても違うかな、と思いました。『ゼロワン』はAIをテーマにした"リアル"寄りの設定なので、すべてがファンタジックになってしまわないよう、リアルっぽい部分をとことん描写していけたらいいなと思いつつ演出していました。一方で、ゼロワンに変身してからは敵との戦いをダイナミックに、今までの仮面ライダーシリーズで見たことのないような画面作りをしてみたいと思って取り組んでいました。

――『ゼロワン』全体を通じて、特にここはうまく行ったと思えるビジュアルを挙げるとすれば、どのシーンになりますか。

第1、2話のアクションシーンですね。第1話は作品世界に引き込めるかどうかの"つかみ"の部分なので、思いっきり楽しい画面作りにしてみようと意気込みました。人間の芝居パートはリアル寄りにして、変身後のアクションに入ったら、できるだけアニメ的な表現を入れ込みつつ、どう"本物"っぽく見えるかを追求した感じです。

第2話では、2人のライダーの戦いを同時進行で見せながら、最後に2人が出会うのがアクションの流れです。今まであまりなかった、挑戦的なアクションシーンを作るべく、アクション監督の渡辺淳さんと一緒に知恵を絞って考えました。ゼロワンのキックも、ジャンプして一発キックして敵が爆発して……で終わるのではなく、3発ほど連続でキックするまでがひとつのライダーキック、コンボ技のように見せられたらいいなと思って、淳さんと相談しながら作っていきました。

――「ライジングインパクト」をはじめとするゼロワン(や他のライダー)の決め技の文字が、画面上にデカデカと出てくる演出にも凄くインパクトを受けました。

あれは完全に僕の趣味ですね。子どものころ見ていたアクションアニメ、たとえば『北斗の拳』(1984年)だと「北斗百烈拳」とか、画面にテロップがちゃんと出るじゃないですか(笑)。ああいうのを見てきた影響が強いのと、戦いの中にああいうカットをはさみこむことで、異質なテンポに持っていけたらいいな、と思って試みました。

第1話の印象がすごくよくて、他の監督も同じような文字演出を踏襲してくださったこともあり、やってよかったと思いましたね。仮面ライダーサウザーの必殺技には「(C)ZAIAエンタープライズ」って小さく入ったりして(笑)。合成チームの方々が楽しんで、いろいろ凝ってくれたからできたことなんです。

『ゼロワン』に関しては、今までの仮面ライダーシリーズでやっていないことを、どれだけ盛り込めるか、というのが勝負でした。令和一発目のライダーを強く意識して、特にビジュアル面のアイデアを一生懸命出しながら、画にしていきました。