なにも考えることなくこなせるルーティーンワークなら別かもしれませんが、多くの仕事は、程度の大小こそあれ「問題解決」の連続といっていいでしょう。そう考えると、「問題解決力」を磨くことこそ、ビジネスパーソンとして重要な課題のひとつだといえそうです。

  • 難解な問題を解決できるようになる「思考回路」/現役東大生・西岡壱誠

『「考える技術」と「地頭力」がいっきに身につく 東大思考』(東洋経済新報社)を上梓した現役東大生の西岡壱誠さんは、それこそ東大入試のような難解な問題を解決するには、「ミクロとマクロの視点が必要」だと語ります。

■問題解決の糸口を見つけ、問題全体とつなげる

「問題解決」という言葉が使われる場はさまざまですが、そのために必要な思考回路は共通しているとわたしは考えています。たとえば、大学入試問題を解くことも問題解決のひとつですが、東大の入試問題のような難しい問題を解くにはどんな思考回路が必要なのでしょうか?

わたしは、「ミクロとマクロの視点」を持つことだと考えています。

ミクロの視点とは、問題解決の糸口を見つけるような、問題のこまかい部分を見る視点のこと。そして、マクロの視点は「この問題の大枠はこういうことじゃないか」とか、あるいは入試問題などの場合には「出題者の意図はこうじゃないか」というふうに、問題を解いている自分より上の次元から問題全体を俯瞰で見る視点のことです。その両方の視点が合わさったときに、問題は解決できます。

仕事における問題解決力を身につけるにも、「ミクロとマクロの視点」を持つことが大切です。現場の仕事にいくら詳しくても、5年や10年先を見越したマクロの視点を持てなければ、仕事上の大きな問題を解決することはできないでしょう。

逆もまたしかり。ミクロの視点を持たず現場に一切目を向けないまま、ただ先のことだけを考えているようなビジネスパーソンに問題解決力があるとは思えませんよね。

ここでひとつ例を出しましょう。以下は、過去の東大の入試問題です。

成田空港から北京や上海に向かう航空便の利用者数は、過去10年間に増加してきている。その理由を60字以内で述べよ。
<2005年東大地理第3問A問題より抜粋。一部改変>

まずはミクロの視点で見て、重要なポイントを探りましょう。「成田空港」「北京や上海」「60字」も大切ですが、この問題でもっとも重要なのは「過去10年間」です。ミステリー小説と同じで、出題者だって無駄なことは書きません。過去5年でも過去20年でもなく「過去10年」なのですから、その期間に起きたことに絶対に意味があるのだと解釈できます。

2005年から見て過去10年ですから、1990年代半ばからの出来事がポイントになる。すると、しっかり勉強をしている人なら、「過去10年には中国の改革開放政策が進展していた」「2001年に中国はWTO(世界貿易機関)に正式加盟した」といった事柄を思いつくことができます。

そうして、今度はマクロの視点で見て、思いついた事柄を問題全体と結びつけてみると、「改革開放政策の進展とWTOの加盟で中国への観光客が増え、ビジネス客も増えているのではないか」と推測でき、問題解決に向かって進めるのです。

■「言葉」の定義を意識し、ミクロの視点を磨く

では、ミクロとマクロの視点を磨くための方法をお伝えします。ミクロの視点を磨くには、自分が使う「言葉」をとにかく強く意識するようにしましょう。

東大生と話していてよくいわれることに、「いまの言葉ってどういう定義で使っていましたか?」というものがあります。つまり、東大生はミクロのことを聞いてくるわけです。この発想が大切です。

とくに、人によって定義がちがうようなあいまいな言葉の場合、話す側と聞く側でその定義がちがっていると、その会話のお互いの認識がちがってしまうということにもなる。それでは、問題を解決するどころか、逆に問題を生んでしまうことにもなりかねません。

たとえば、「信用」と「信頼」のちがいがわかりますか? 信用とは、「それまでの行為・業績を客観的に見て信じられると判断する」ことです。一方の信頼は、客観的な基準などなくとも判断する人の「個人の主観によって、頼りになると信じる」こと。

ですから、世の中には信用金庫はあっても信頼金庫はありません。金融機関が個人の主観で貸付などしてしまっては大問題ですからね(笑)。

これはひとつの例ですが、みなさんが何気なく使っている言葉の意味、定義をつねに意識するようにしてみてください。問題に接するときのミクロの視点が磨かれていくはずです。

■自分と反対の意見に触れて、マクロの視点を磨く

一方、マクロの視点を磨くには、自分とはまったく正反対の立場の意見を見聞きすることが大切です。つまり、思考の偏りをなくすわけです。

世の中のあらゆるものごとには、肯定的な意見もあれば否定的な意見もあります。自分がなにかに対して肯定的だと感じたなら、その場で結論を出すのではなく、必ず否定的な意見にも触れるようにするのです。

そうして、肯定的意見と否定的意見の両方に触れたうえで、「さあ、自分はどうだろう?」と考えてみる。そうすることで、視点がどんどん高次元になっていき、マクロの視点が磨かれていきます。

このときに注意してほしいのは、反対意見を「自分の心とつなげない」ということ。多くの人は、自分の行動や意見を否定されると、自分の人格自体、心までもが否定されたように感じがちだからです。そうすると、素直に反対意見に耳を傾けることができなくなってしまい、マクロの視点を持つこともできなくなるでしょう。

あなたの意見が否定されても、それはそのまま「あなたの意見」が否定されただけのこと。「あなた自身」が否定されたわけではありません。そういう思考を持って、目と耳をふさぐことなく自分とは反対の意見にも積極的に触れるようにしてください。そうすることで、あなたの視点はどんどん広がりを持っていくにちがいありません。

こうしてミクロとマクロの視点を持つことは、「本質を理解する」ことにつながります。わたしがいう「本質」はひとことでは説明しにくいものですが、「これさえわかれば、あとは楽になる」とでもいうべきものです。

「これを覚えておけば簡単に暗記できる」とか「これを語れば簡単に要約できる、説明できる」「これを知っておけば発想を膨らませられる」というもの。そして、「これがわかれば問題を解決できる」ものでもあります。

本質とは、このように、問題を解決できるようになるだけでなく、いわば「なんでもできるようになる」ための重要なポイントです。ぜひ、ミクロとマクロの視点を持ち、「なんでもできるようになる」体験をしてみてほしいと思います。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹