マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、欧米の「コロナ」感染状況と為替相場への影響について語っていただきます。


各国・地域は、引き続き「コロナ」の感染拡大阻止のための措置と、経済再開とのバランスをとりつつ、「ウィズ・コロナ」の最適解を模索しています。

  • 世界と欧州各国の新型コロナウイルス感染者数推移

世界的な感染者数の増加傾向には、やや歯止めがかかりつつあるようにみえます。遅れて感染が拡大した新興国にピークアウトの兆しがあるからです(あくまでもピークアウトにすぎませんが)。

欧州での感染再拡大はユーロ安要因!?

欧州では、スペインやフランスでの感染再拡大が目立ちます。イタリアやドイツでも7月中旬以降わずかながらも増加傾向にあるようにみえます。夏休みシーズンで人々の移動や集まりが活発化しているからかもしれません。

イタリアやスペインはディスコ(クラブ)を閉鎖、イタリアは人が集まる場所でのマスク着用を夕方から翌朝まで義務づけました。ギリシャも飲食店の営業時間を制限。ドイツのメルケル首相は与党の会合で感染拡大に懸念を表明し、一段の規制緩和には慎重な姿勢を示しました。

欧州でこれまで順調に進んできた経済再開にブレーキがかかりそうです。そうなれば、7月以降に堅調推移してきたユーロ/米ドルに下押し圧力が加わりそうです。

  • 米国の新型コロナウイルス感染者数の増加率

米CFTC(商品先物取引委員会)によれば、8月14日時点で投機筋のユーロ/米ドルのポジションは通貨ユーロ導入の1999年以降の最大のロング(買い越し)になっています。ユーロ圏の景気回復の遅れがポジションの巻き戻しを誘発すれば、思いのほかユーロ/米ドル安が進行するかもしれません。

英国でブレグジットの準備は間に合うか

英国でも感染再拡大がみられます。英国は8月15日から劇場や美容室などを再開しました。一方で、ソーシャル・ディスタンスのルール違反に対する罰則を強化。また、スペインやフランスからの旅行者・帰国者に隔離期間を義務づけています。

英ポンド/米ドルも足もとで堅調です。3月の「コロナ・ショック」で大幅に下げた分をほぼ取り戻しました。「コロナ」の初期対応が拙かった英国の景気は、他の主要国以上に大きな打撃を受けました。各国の思い切った財政出動や金融緩和により、投資家のリスクオフ(リスク回避)が後退したことが英ポンド高の背景でしょう。

もっとも、英国は2020年末にブレグジット(EU離脱)の移行期間が終了します。貿易など、その後の関係についての英国とEUとの交渉は暗礁に乗り上げたままです。「コロナ禍」によって企業の準備やアイルランド国境の整備が遅れる可能性もあり、その場合は英国経済、ひいては英ポンドにも悪影響が出るかもしれません。

米国では大統領選挙に影響も!?

米国では南部や西部の州で感染者数の増加ペースがようやく鈍化してきました。ただ、トランプ大統領が強く望む経済再開は進められるのか、それをサポートする追加「コロナ」対策は打ち出されるのかは不透明です。また、11月3日に投開票が実施される大統領選挙に関する不透明感がこれから強まるかもしれません。いずれ潜在的なリスクオフ要因でしょう。展開次第では投資家心理を悪化させかねず、円高や、新興国通貨に対しての米ドル高を招くかもしれません。

州別の累積感染者数でかつてツートップだったニューヨーク(NY)とニュージャージー(NJ)がそれぞれ4位と8位に後退。トップスリーに、カリフォルニア(CA)、フロリダ(FL)、テキサス(TX)の西部や南部の州が浮上してきました。ただし、西部や南部の州でも感染者数の増加率は6月下旬から7月上旬にピークをつけて、そこからかなり明確に低下しています。ただし、安心できるレベルではありません。

ニューヨーク州は8月24日にスポーツジムを再開します(収容率33%まで)。一方で、ノースカロライナ大学などは新学期の講義をリモートで行います。小中高も含めて学校の再開はトランプ大統領が強く求めているものですが、一部の州・地方は慎重姿勢を崩していません。

米国の目先の注目点は、足もとの感染状況や経済情勢に加えて、議会で追加「コロナ」対策の協議が進展するかどうか、トランプ大統領が反対している大統領選の郵便投票実施に向けた準備が進められるか(議会が郵便公社への資金拠出を決定するか)、などでしょう。