新型コロナウイルスでテレワークが普及していますが、「三密」を解消できるならオフィス勤務が必ずNGという訳ではありません。ただ、いわゆる「昭和型」のオフィスは避けたいところ。

例えば、メンバーの机を島にした無味乾燥なレイアウト、ミーティングスペースは限られ、人の動線は無視され、オフィス緑化計画などあるはずもない。これは設計思想が「多くの人数をどれだけ詰め込むか」で、労働集約型のビジネス向けの仕様です。時代と共にビジネスが変化するように、オフィスも変わるべきでしょう。

そんな中、オランダに本社を持つエヌエヌ生命保険が「Activity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」(以下、ABW)を導入した新オフィスを渋谷スクランブルスクエアに先ごろ構え、今回、見学することできました。

  • 渋谷スクランブルスクエアにオフィス移転したエヌエヌ生命保険

軽い絶望感を味わう

その第一印象は、「壁の少ないオープンなレイアウト」「自然光をうまく取り入れた明るいオフィス」。筆者が勤務するオフィスと比較すると……試合開始早々、いきなり右ストレートを食らったような軽い絶望感が押し寄せる。最後まで立っていられるのか? ちな筆者のオフィス。

  • 筆者のいる編集部

フロア説明をしてくれた同社の宇佐美裕さんによると、「移転プロジェクトに伴い、従来オフィスの実態調査とマネジメントワークショップを実施。その結果、『仕事内容に最適なワークスペース』『社員・役員が固定席・個室を持たない』という方向性になりました。これを実現すれば、社員の自律性、生産性向上、イノベーションの促進などを期待できます」と説明してくれました。

ABWの特徴は、働く場所を従来の所属や役割で決めず、業務内容(アクティビティ)によって本人が判断し、それに最適なスペースを選んで「生産性の向上」を図る点。この結果、レイアウトコンセプトは「健康的でわくわくする」「開放的で透明感のある」「力が発揮できる」の3つとなり、その考えをカタチにしたのが今回のオフィスなのだそう。

  • 移転に伴って変化したオフィス 提供:エヌエヌ生命保険

多様な働き方を可能にするオフィス

出社した社員はまず私物をロッカーに預けてから、当日の仕事内容を踏まえて最適なスペースへ行き業務を開始する流れとなります。

ひとりで集中して仕事をしたい時は「フォーカスエリア」、数人でコミュニケーションを取りながらの仕事だと「コラボレーションスペース」、通常のデスクワーク主体では「BAUワークスペース」、プロジェクト単位で動くための「スクワッドブース」など、「本人の判断で働く場所を主体的に選ぶのです。

ここまで、ジャブ、アッパー、フックと多彩なパンチを連打されるがままの筆者。

  • フォーカスエリアでは、通話、会話、食事は禁止

  • 窓際にあるフォーカスエリア

  • 2~4人程度のオープンディスカッションに適したコラボレーションスペース

  • 複数のデスクワークなど、通常のデスクワークを行うBAUワークスペース

  • 壁面のホワイトボードが特徴的なスクワッドブース

また、偶発的な出会いの場という考えもオフィスレイアウトに反映されていて、人の動線上に「スクランブルジャム」という多目的スペースが設けられています。何かの勉強会やちょっとしたセミナーがそこで行われ、たまたま通りかかった人が興味を持ったら、そのまま参加できるような狙いがあるのです。

まさにワンサイドゲーム、筆者にはタオルしか見えません。

  • 動線上にあえて配置された「スクランブルジャム」(奥)

新型コロナウイルスはオフィスも変える

ABWの考えを踏まえ構築された新オフィス、気になったのは社員の「自律性」が求められるということ。自分で仕事を見つけ、どんどん進める人には嬉しい環境ですが、入社間もない若手や業務経験が少ない、なかにはサボる意識の社員など差があるのではないでしょうか。

そうした社員のマインド部分はどう対応したのか、宇佐美さんに尋ねました。

宇佐美さん「移転前の準備期間に、コアメンバー社員と部長クラスに対して複数回のセッションを実施し、移転でオフィス環境がどう変化するのか、どう活用して働くのか、マネジメントするのかを丁寧にコミュニケーションしました」。

この事前準備により、想定よりスムーズなマインドセットを行えたそうです。またコロナ禍により、社員が一斉に出社することもないので、徐々に新オフィスでの働き方が浸透しているのだろうとも言います。

  • オフィス移転に伴うスケジュール 提供:エヌエヌ生命保険

なお、同社は移転前の2015年にフリーアドレスを試験的に導入し、本社社員の1/4くらいはテストパイロットとして体験済みだったそうです。そうした経験もうまく意識変革に働いたのかもしれませんね。

ということで、最期までなんとか立ってましたが、筆者もサンドバッグ状態から変わりたい! と切実に思った訪問でした。


コロナ禍は否応なく人の働き方を変化させました。その変化に対応したオフィスが次に求められるのではないでしょうか。ここは百姓一揆ならぬ、編集部一揆でえらい人に直訴か!?