JR東日本が横須賀線・総武快速線用に新造した車両「E235系1000番台」。1994(平成6)年にデビューしたE217系以来、約26年ぶりに投入される新型車両として、横須賀線・総武快速線にさまざまな変化をもたらすと予想される。
横須賀線・総武快速線に投入される「E235系1000番台」は、現行のE217系と同じく基本編成11両・付属編成4両の最大15両編成で走行する予定。久里浜駅から横須賀線・総武快速線を経由し、君津駅(内房線)、上総一ノ宮駅(外房線)、成東駅(総武本線)、成田空港駅(成田線)、鹿島神宮駅(鹿島線)まで、広範囲にわたり運行を予定している。
■付属編成4両に続き、基本編成11両も東海道貨物線など試運転
車体前面の形状は山手線用のE235系を踏襲しつつ、「横須賀色」とも呼ばれる横須賀線・総武快速線のカラー、青色とクリーム色をグラデーションとしてデザインしている。車体側面は従来と同様、上部と腰部に横向きに2色のラインがあしらわれる。
車内では乗降ドア・荷物棚と妻部の上部にデジタルサイネージ、各車両の端部にフリースペースが設置される。長距離の利用者に向けてトイレが設置され、普通車のトイレはすべて車いす対応の大型洋式トイレになる予定。グリーン車は2両連結。デジタルサイネージ、フリーWi-Fi、電源コンセントの設置は普通列車グリーン車で初だという。
「E235系1000番台」は7月の付属編成4両に続き、8月に入ると基本編成11両も東海道貨物線を中心に試運転を行った。首都圏の駅では「短い11両編成」とアナウンスされてしまう基本編成11両だが、落成したばかりの車体を輝かせて走る姿は堂々たるもので、迫力がある。東海道線の列車が行き交う線路の横で、運転停車を挟みつつ、「試運転」と表示した「E235系1000番台」が快走する。
■普通車はロングシートに統一するも、座り心地が向上する可能性
横須賀線・総武快速線でE235系がデビューするにあたり、筆者が期待していることは座席の座り心地にある。というのも、これまでE217系の座席は硬く、長時間の着席には少々心もとない印象があった。一方、首都圏の各線区で活躍するE233系や、山手線に投入されたE235系の座席に座ってみると、E217系のそれよりも柔らかい。
同様に、横須賀線・総武快速線のE235系も、着席時の快適性が上がる可能性が考えられる。シート幅もE217系と比べて10mm拡大されるため、隣の席に人が座ったときの窮屈さも多少緩和されるかもしれない。一利用者として、新型車両による座り心地の改善は大いに期待したい。
ただし、普通車の座席はロングシートに統一されるため、E217系の9~11号車で採用されていたようなセミクロスシートがなくなる。筆者も好んで利用していただけに残念ではあるが、首都圏の通勤通学輸送を担う以上、致し方ないことといえる。
どうしてもクロスシートに座りたい場合はグリーン車になるだろう。テーブルを利用でき、背もたれのリクライニングも可能な点で、快適性は高いと予想される。各座席にコンセントが設置され、フリーWi-Fiも提供されるとのことで、乗車中にスマートフォンやパソコンを充電できるほか、移動時間を利用しての作業も可能となる。グリーン料金を払うことへの見返りは十分見込めるだろう。
■山手線でおなじみの「顔」と横須賀線カラーの融合
「E235系1000番台」の外観にも目を向けてみる。山手線でのデビュー当時は奇抜な印象を与えたE235系も、E231系500番台からの置換えが完了したいま、すっかり山手線の「顔」になったように思える。知名度の高い山手線で見たことのある「顔」が神奈川県や千葉県でも見られるとなれば、それなりに話題性もあるのではないかと考えられる。
試運転を行っている「E235系1000番台」の外観をよく見ると、横須賀線・総武快速線でおなじみのラインカラーである青色とクリーム色が、現行のE217系よりも濃くなっていることに気づく。E217系も登場時は濃い帯をまとっていたが、2007年度から始まった機器更新の際、色調が変更された。
いまでこそ見慣れたが、新型車両のラインカラーを見ると、やはりこちらのほうがそれらしい。山手線の「顔」と横須賀線のラインカラーが見事に融合しており、沿線から電車を見る際の楽しみも増えそうだ。
■車体前面の貫通扉がなくなり、1枚窓のデザインに
通常時に利用する上ではあまり関係ないが、E217系からE235系への置換えにあたり、先頭車の非常扉が廃止になる点も注目したい。現行のE217系はデビューからしばらくの間、品川~錦糸町間の地下区間に対応すべく、非常時の脱出経路として先頭車両の前面に非常扉を設けていた。首都圏のJR車両では地下鉄直通車両を除き、珍しい例だった。
その後、E217系の製造途中で省令が改訂され、車両の側面とトンネルの壁面までに40cm以上の隙間を設けることができるなら、非常時に側面からも避難可能とされ、必ずしも車体前面に非常扉を設ける必要がなくなった。品川~錦糸町間はその条件を満たしていたため、それ以降に製造されたE217系は非常扉があるように見えて、実際は扉が開かない仕様に変更されている。
これから投入される「E235系1000番台」は、最初から非常扉が設けられず、前面1枚窓のデザインで落成している。要するに山手線のE235系との色違いだが、同じ顔つきの車両が横須賀線・総武快速線の地下区間でも見られるようになることは興味深い。
このように、「E235系1000番台」がデビューすることで座席の座り心地の改善が見込まれるとともに、山手線で見慣れた「顔」が「横須賀色」の帯をまとい、神奈川県・千葉県の各方面へ走るようになる。非常扉の有無によって顔つきも変わるため、「E235系1000番台」の投入で横須賀線・総武快速線のイメージが大きく変化することも考えられる。いかなる車両か、車両置換えが今後どのような変化をもたらすか。運行開始したら実際に乗って確かめてみたい。
その一方で、これまで活躍してきたE217系は初期車の登場から26年経過しており、他線区への移籍など行われることなく、廃車となる可能性がある。昨今、ラストランが近づくにつれ、非常に多くの鉄道ファンらで殺到すると予想される状況にある。E217系を記録し、記憶に残すなら焦らず早めに、いまのうちから始めてみても良いかもしれない。