日産自動車は電気自動車(EV)「リーフ」のスポーツコンパ―ジョンモデル「リーフNISMO」を2020モデルイヤーに進化させた。エコな乗り物というイメージが強いEVだが、そこから得られるドライビングプレジャーとはどんなものなのか。新型リーフNISMOに試乗したモータージャーナリストの岡本幸一郎さんにレポートしてもらった。
NISMOの中でも特殊な「リーフ」の顧客層
EVの本質的な価値というのは、バッテリーの電力でモーターを駆動するため、走行中には排出ガスをいっさい出さず、環境に負荷をかけないゼロエミッションのモビリティであることだが、最近では走行性能の高さを積極的にアピールするモデルが増えている。テスラの各モデルをはじめ、ジャガー「I-PACE」、メルセデス・ベンツ「EQC」、アウディ「e-tron」、ポルシェ「タイカン」など、海外の高価格帯EVの多くがそうだ。
日産がいちはやく世に送り出した世界初の量販EVである「リーフ」も、もともと走りに定評のあるクルマ。ノーマルモデルでもよく走るが、注目したいのはスポーツコンパ―ジョンモデルの「リーフNISMO」である。コンバージョンモデルとは、ベースとなる車両を基に専用に開発・生産する特別なクルマのことだ。
ご存知の人も多いだろうが、「NISMO」というのは日産のモータースポーツ活動や市販車向けのチューニングパーツの開発などに携わる関連会社ニッサン・モータースポーツ・インターナショナルの通称だ。その確立したブランド力を活かして、日産では「ジューク」を皮切りに、これまでに「マーチ」「ノート」「セレナ」「フェアレディZ」「GT-R」、そして「リーフ」(順不同)と、NISMOロードカーのラインアップ拡充を図ってきた(ジュークNISMOとセレナNISMOは販売終了)。そして、登場から2年が経過したリーフNISMOが、このほど2020モデルイヤーに進化した。
NISMOでは初代リーフの頃から単品でチューニングパーツを用意するなどしていたが、当時からコンバージョンモデルに期待する声は小さくなかった。それに応えるべく、2018年にリーフNISMOが発売されるや、特殊な位置づけのクルマながら、当初はリーフ全体の中での販売比率が10%を超えたというから驚く。
リーフNISMOの購入者の傾向としては、それまでのNISMOロードカーで見受けられた、いわゆる「走り系」の層とは異なり、50代以上で社会的地位や所得の比較的高い人が多かったという。例えば、それまで輸入車に乗っていて、次に買い替えるにあたり、より目新しさや特別感のあるクルマに乗りたいとか、家族のためにミニバンやSUVに乗っていたが、家族がひとり立ちしたので、自分自身が楽しめるクルマに乗りたいと考え、ダウンサイズでノートやリーフの特別版であるNISMOロードカーを選ぶケースが多いとのことだ。
よりスポーティーなクルマを望む声に応えて
2018モデルイヤーでは、リーフが持つEVのよさは残しつつNISMOらしいスポーティーさを加味して、あくまでバランスのとれたクルマをと意図した日産だったが、購入者からのフィードバックでは、よりスポーティーな走りへの期待値が高いことが判明した。そこで、欧州車に見受けられるようなアジャイル(=俊敏)なチューニングを取り入れるべきと考え、ステアリングギアレシオをクイックにしたのが2020モデルイヤーだ。
これにともない、俊敏なハンドリングをより深く楽しめるようサスペンションもチューニングし直すとともに、横Gが素早く立ち上がるため、身体をしっかり保持するために必要との判断から、ホールド性に優れる新世代デザインのレカロ社製シートをオプションで新たに設定した。
なお、2018モデルイヤーから受け継いで共通となるのは、Cd値を維持したままダウンフォース空力を備えたスタイリッシュかつスポーティーなデザインの専用のバンパー類や、赤いアクセントを随所に配したインテリア、18インチタイヤ&ホイール、加減速感を高めた専用のVCM(ビークルコントロールモジュール)などが挙げられる。両モデルイヤーの視覚上の相違点はルーフアンテナと件のシートのみだ。
横須賀にある日産の試験施設「グランドライブ」で試乗したリーフNISMOの2020モデルイヤーは、その醍醐味である俊敏なハンドリングを誰しもに直感させる仕上がりだった。
専用VCMでEVの加速が存分に楽しめる
2018モデルイヤーのステアリングギアレシオは、ノーマルと同じく、乗用車として一般的な18.3だった。それが2020モデルイヤーではスポーツカーなみの14.9とされたことで、小さな舵角でクルマがクルリと向きを変える。その反応が楽しい。回頭性だけでなく、そのクイックなハンドリングに合わせてサスペンションや電子制御などすべての調和が図られていて、ただクイックなだけではなく、走り全般が洗練されていることにも感心する。特定のパーツを変更するだけでなく、クルマ全体のバランスを考えて最適にチューニングできることは、こうしたコンバージョンモデルの大きな強みに違いない。
リーフの場合はバッテリーをキャビンの床下の低い位置に搭載しており、フロントにエンジンを搭載し前輪を駆動する一般的な同クラスの乗用車に比べて、重心が低く前後重量配分もよいので、もともとハンドリングに優れる。その持ち前の美点も走りに効いていることは想像にかたくない。
また、ある程度は回転を上げないと有効なトルクが出てこないエンジンと違って、モーターというのは回りはじめた瞬間から最大トルクを発生することができるため、エンジンではとうてい不可能なアクセルレスポンスとトルクフルな走りを実現できる。専用VCMの与えられたリーフNISM0は、走りを楽しみたいときに推奨のBレンジを選ぶと、より加速の俊敏さと力強さが際立って感じられる。エンジンよりもはるかに簡単かつ緻密に駆動力を制御できて、手を加えた成果をよりわかりやすく乗り手に伝えることができるのもEVの強みのひとつだ。
リーフNISMOの2020モデルイヤーは、いちスポーツカーとしての走りの味付けも上々であった。そして、EVというのはゼロエミシッションであるだけでなく、ドライビングプレジャーを楽しむ上でも非常に魅力的な乗り物で、大きな可能性のあるモビリティあることを実感した次第である。