椎名桔平

映像演出から音楽まで、かなり実験的な要素を加えた漫画原作が、滝沢秀明主演の『アンティーク~西洋骨董洋菓子店~』(01年、フジテレビ)。原作は、男女逆転版『大奥~誕生[有功・家光篇]』(12年、TBS)や、『きのう何食べた?』(19年、テレビ東京)など、いずれもドラマ化され、いわゆる“BL作品”を数多く描いてきたよしながふみ氏だ。

男性だけの従業員が働く洋菓子店「アンティーク」を舞台にしたハートフルコメディ。この原作もBL要素を含んでいるのだが、ドラマ版はそれを匂わせる程度に留めている。

脚本は『白鳥麗子でございます!』(松雪泰子版・93年、フジテレビ)や、『南くんの恋人』(高橋由美子版・94年、テレビ朝日)、『イグアナの娘』(96年、テレビ朝日)、最近では『この世界の片隅に』(18年、TBS)など、多くの漫画原作のドラマ化を成功させてきた岡田惠和氏が手がけ、演出は『踊る大捜査線』の本広克行氏がチーフ、『海猿』の羽住英一郎氏がセカンドディレクターを務めるという、超豪華なクリエイターが集結した。

ドラマの随所に、状況やキャラクターの心情を投影したテロップが表示されたり、BGMは全編に渡ってMr.Childrenの楽曲を使用していたり、各話で登場するケーキがエンドロールでさりげなく紹介されていたりと、様々な趣向が施されている。

天然で憎めない元ボクサーのパティシエを滝沢が好演。椎名桔平や藤木直人、阿部寛など、脇を固める男性陣も魅力的だ。全体的にハートウォーミングなストーリーをかなり変化球の演出で仕上げているが、阿部が演じるミステリアスなギャルソンがメインの第7話のエピソードでは、ストレートに響く感動劇に仕上がっているなど、油断できない。

また、最終回の描写がさらに変化球だ。放送時に原作が最終回を迎えていなかったことから、ドラマ版では結末そのものを煙に巻き、それまで散りばめていた謎や、匂わせていたBL要素などをそれぞれのキャラクターたちの証言によって構成する“藪の中”方式。答えは証言者たちそれぞれの中にあり、結末は視聴者の想像におまかせするという手法が新鮮だった。

配信はなく、登場するスイーツがどれもおいしそうに映し出されており、時を経て今話題のよしながふみ作品なので、今こそ再放送してほしい作品だ。

■日テレ土曜ドラマらしからぬハードさ…『銭ゲバ』

松山ケンイチ

『アンティーク~西洋骨董洋菓子店~』と同様、岡田惠和脚本で、最終回の描写が斬新という点で思い出すのが、松山ケンイチ主演の『銭ゲバ』(09年、日本テレビ)。先日亡くなった漫画家・ジョージ秋山氏の同名作品が原作で、極貧だった幼少期の出来事から、金のためならば何でもする=“銭ゲバ”となってしまった青年の生涯を描いた物語だ。

富を得るために殺人を繰り返す主人公、幼少期のDV描写、信用させては非情に裏切っていく場面など、重苦しさの連続に加え、序盤で重苦しさを緩和する役割だった主人公が出会う明るい一家も、後半はどん底に突き落としていく展開があまりにも容赦なく、救いがない。

そんな内容から、放送枠である日テレ土曜ドラマが持つ“ティーン向け”とは思えない、かなりハードなドラマではあるのだが 「金が全てなのか?」を、劇的なストーリーを用いてしっかり考えさせ、安易な答えへと導かない深いドラマに仕上がっている。

無感情に見せながら時に激情的で、心の奥底で葛藤し続ける難しい主人公のキャラクターを松山が好演しているのはもちろん、その圧倒的な主人公に自分の家族を崩壊され、堂々と立ち向かっていく社長令嬢・緑を演じたミムラ(現・美村里江)や、主人公の本性を知りながら最後まで彼を愛し続ける緑の妹役・木南晴夏の熱演も見逃せない。特に主人公と緑が対峙(たいじ)する第6話の場面は、熱気ある舞台の二人芝居をみているようで圧巻だ。

この作品でも、岡田脚本らしい漫画的展開とリアリティを絶妙なバランスで融合した見事な筆致を見せるのだが、やはり最終回の描き方が素晴らしい。どこまでも暗い展開だったことを逆手にとり、最終回では「主人公がもし幸せな人生を送っていたら?」というifをほぼ全編に渡って見せる。

それは主人公の希望なのか理想なのか、もしくはパラレルワールドなのか、またしても視聴者に想像を膨らませる巧みな誘導が見事。その展開の中でも「主人公は後悔していたのではないか?」という、視聴者にほんの少し救いを与える場面見せた直後、それをもひっくり返してくる容赦のなさがすさまじい。演出を務めた大谷太郎氏、狩山俊輔氏どちらも息詰まる映像世界を構築しており、全9話どの回も見逃せない。

こちらはHuluで配信中で、あまりにもダークな作品のため再放送は難しいのかもしれないが、チャレンジングな作品は地上波で放送してこそ輝く。ぜひ再放送を希望したい。