新型コロナウイルスの影響で、SNS上では自宅でいかに楽しく過ごすかの「#おうち時間」や、新ドラマの放送延期を受けて様々な過去作が再放送されることで「#再放送希望」というハッシュタグが盛り上がった。

そこで、テレビドラマの脚本家や監督などの制作スタッフに精通する「テレビ視聴しつ」室長の大石庸平氏が、外出することを忘れるほど熱中してしまうおすすめのテレビドラマや、再放送してほしい思い出深い作品を紹介する。

今回は、“漫画原作ドラマ”。これからスタート予定のドラマでも『私の家政夫ナギサさん』や『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』が控えているなど、いまや漫画原作ドラマが放送されないクールはないほど。その中でも、かなりチャレンジングな作品に挑戦したドラマを、そのクリエイターと併せてピックアップしてみた。

■主人公を男性から女性2人に…『カバチタレ!』

常盤貴子(左)と深津絵里

男性中心の法律漫画を、女性中心へラブコメ要素をプラスしたポップな作品へとアレンジしたのが常盤貴子と深津絵里のW主演『カバチタレ!』(01年、フジテレビ)だ。

今作は『ナニワ金融道』などで知られる青木雄二氏が監修し、竹内結子主演『ダンダリン 労働基準監督官』(13年、日本テレビ)や、尾野真千子主演『極悪がんぼ』(14年、フジテレビ)などのドラマ化でも有名な田島隆氏原作の同名漫画を映像化したもの。行政書士事務所を舞台にしたドラマで、原作では男性だった主人公を、ドラマでは女性2人に変更し、2人の恋愛事情や友情物語をガールズトーク満載で展開するという大きな改変がなされた。

この作品を手がけたのは、先日スタートした『ハケンの品格』にも名を連ねる山口雅俊プロデューサーで、脚本は今作が初GP帯ドラマ単独執筆だった大森美香氏。山口プロデューサーはこの作品以前に、中居正広主演で『ナニワ金融道』(96~15年、フジテレビ)を成功させ、深津絵里主演の『きらきらひかる』(98年、フジテレビ)では、原作は1人だった主人公を4人の女性に振り分けるなど、漫画原作の映像化とその独自のアレンジ力が見事だった。

大森脚本も初期作品とは言え、この頃から彼女は才能を発揮。法律ハウツーと主人公2人の丁々発止を見事に融合させた楽しい会話劇に仕上げている。

そして監督も見逃せない。『テルマエ・ロマエ』や『翔んで埼玉』などのヒットメーカー・武内英樹氏は、それまで『神様、もう少しだけ』(98年)や『彼女たちの時代』(99年、いずれもフジテレビ)など、重厚な人間ドラマ中心だったのが、ここからコメディ作でも手腕を発揮させ、色鮮やかでポップな画面、キャッチーな音使い、リズミカルにつながれたカットと、今に通じるセンスを見ることができる。

篠原涼子がアクの強い婦人警官役の脇役で登場したり、若かりし頃の山下智久や香里奈、妻夫木聡がチョイ役で登場するなど、出演者も今振り返ると超豪華。配信はされておらずDVD化のみで、今見ても家族みんなで気軽に楽しめるので、ぜひ再放送してほしい作品だ。

■急転直下の第1話に衝撃…『ロング・ラブレター~漂流教室~』

常盤貴子(左)と窪塚洋介

『カバチタレ!』に続き、山口プロデューサー×大森脚本で、漫画原作にさらに大幅なアレンジを施した意欲作となっているのが、常盤貴子と窪塚洋介のW主演『ロング・ラブレター~漂流教室~』(02年、フジテレビ)だ。

楳図かずお氏のホラーSF漫画が原作で、学校まるごと未来へタイムスリップしてしまうという設定はそのままに、主人公を生徒から教師に、舞台を小学校から高校に、タイトルが『ロング・ラブレター』となっているようにラブストーリーの要素と高校生たちの青春物語も交えるなど、かなり大胆にオリジナル要素が加えられた。

外見はSF色が強いのだが、未来と現代とで離ればなれになってしまった恋人たちの物語、先生と元教え子の現代で伝えきれなかった思いなど、外側だけでなく、内側の分断も丁寧に描いた人間ドラマに仕上がっている。

特に、第1話の衝撃が忘れられない。主人公2人の出会いから、登場人物それぞれの思いが現代に“残されていく”描写を積み重ねていった第1話のラストで、“学校がまるごと消える”という大スペクタクルが訪れる。何気ない丁寧な日常描写から急転直下してSFの世界へと切り替わって静寂を迎える画面と、その直後に流れる主題歌のポップチューン(山下達郎「LOVELAND, ISLAND」)という“画面と音の落差”に衝撃を受け、第2話への引きが最高潮に高まるのだ。

この作品も山田孝之や山下智久、妻夫木聡、水川あさみと超豪華な面々が、チャレンジングな試みに華を添えている。後半、時空のゆがみや未来人の登場など、かなりトリッキーな展開へと進行していくが、最終回では難しい方程式を華麗に解き明かしていくように心地いいラストを迎え、その心地良さと最後の主題歌がようやくリンクする仕掛けが心憎い。

配信はされておらず、このスケール感の作品は中々ないので、ぜひ再放送してほしい作品だ。